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国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2025年10月6日月曜日

EVシフトを考える㉑(中国の今)

 久々のこのシリーズです。見返してみると、EVについて盛んに書いていたのは2021年頃、4年前です。それで、当時としてはその主張は大体正しいと今読んでも思います。予想していたことも、大体その通りになっている。ただ、色々特殊事情はあるにせよ、自分の予想を超えてEVシフトが現実になっている、中国の今に衝撃を受けました。色々な意味で恐ろしさを感じるほど、状況は変化していました。

今夏の渡中の前はコロナ感染拡大の直前、2019年の末でしたので、5年半前でした。中国の色々な都市に行きましたが、その頃は深圳ではバスやタクシーが全部EVでその進化ぶりは明らかだったものの、他の都市では北京でさえEVは滅多に見ない感じでした。ところが…今や北京や瀋陽でも、走っているクルマの2割以上がBEV(内燃エンジンを持たないバッテリー駆動のEV)、新しいクルマに限って言えば80%はBEVではないかと思います。BEVはナンバーが緑色なので、すぐ分かるのです。さらには、そのBEVの殆どが中国車!最大手のBYDはもちろんですが、あまりにも色々な種類、見たこと無いバッジの付いたクルマがいました。宇宙船みたいにツルンとした外観のBEVミニバンとか、路上を行き交うクルマが日本のそれとは全く違うのです。日本や欧米の安全基準は恐らく満たしようがない小さくて軽そうなものから、大型の豪華なものまで、本当に色んな種類のBEVを見かけました。当然ながら、日本製は殆どナシ。欧州製もほぼナシ。電池が中国製なので当たり前ですが、中国製品の圧勝です。

しかし…充電施設はあまり見かけなかったので、「一体どこで充電してるの?」という疑問が。電池切れで路上で立ち往生しているクルマなどは見なかったので、足りてはいるのでしょう。大気汚染対策、混雑緩和の対策として、北京の様な大都市ではクルマのナンバーの末尾の番号で曜日ごとに市街地への乗り入れが制限されています。しかしBEVではそういう制限も無いそうです。走行距離や充電スケジュールも見込みが立つコミューター利用ならBEVで何の不都合も無い、というかメリットが大きいですね。相変わらず石炭依存が高いとは言え、電気代をガソリン代に対して大きく優遇する政策もあり、BEVが加速したということですね。先日登場の張先生、ご自身はガソリンのSUVに乗ってますが、奥様はBYDのEVに乗ってらっしゃいます。なんでも、クルマを買うと充電設備を自宅近くにBYDが作ってくれるそうで。支払うのは電気料金だけだそうです。当然と言えば当然ですが、ガソリンスタンドの様に集約する意味は無くて、充電設備というのは分散していた方が良いとは思います。いずれ駐車スペースには充電器があるのが当たり前というように。ただ、施設の老朽化などに対して、メンテや更新は大変でしょうね。

ということで、中国のEVシフトは比率ではなくて絶対数の点で既に本物であることが分かりました。中国は電池生産で圧倒的にリードしていますから、日本や欧米は中国に基準を合わせざるを得ないでしょう。日本メーカーは現時点で中国で売るクルマを持っていない状態なので、EV開発を急ぐのも納得です。しかし、それら日本製BEVもバッテリーは中国から買うことになります。日本製品の優位性はあるのか?性能や安全性では多少優位性があっても、バッテリーが中国製ならば同じですね。いや、クルマはバッテリーだけで出来ているわけではなくて、長年クルマを作り続けている欧州や日本のメーカーには車体のコントロールなどに優位性がある?自動車は事故を起こせば命に関わるわけで、個人的には「中国の自動車は信用出来ない、絶対乗らないナ」と思っていました。しかし今回、その気持ちさえ揺らいでしまう経験をしました。親戚(義理の弟)が紅旗(ホンチー)のSUV(ミドルサイズ)に乗っていて、今回それに同乗して移動することが何度もありました。あの一番エライ人がパレードする時に乗っているクルマもホンチーで、要するに中国の高級車ブランドです。

HONGQI AUTO OFFICIAL WEBSITE

それはBEVではなくて、どうやらガソリン2Lの4気筒ターボエンジンなのですが、静粛性は同クラスの日本車を凌駕していました。室内の意匠については好き嫌いありますが、これでもかというぐらい大画面の液晶パネルに取り囲まれてます(私はそういうの好きではない)。広々では無いものの、たっぷりしたサイズの革張りシートに座り、振動やザラつき、いわゆるNVHの遮断も大変優れていて、少なくとも乗せられている限りは文句の付けようがありませんでした。ハンドルを握ってみるまで、自動車としての最終的な評価は出来ないものの、パッセンジャーとして受けた印象からするとケチを付けられないんです。日本や欧州の製品を凄く良く研究しているんだと思います。越えていないとしても、すぐ後ろにはいる。BEVなんて電気製品と同じ、だから中国にも作れる?いや、車体はお粗末?どうもそんなことも急速に過去となりつつありますね。これは大変ですよ!日本メーカーさん!

それが価値なのか?については疑問ではあるものの、ある意味既に中国のクルマは世界の頂点に上りつつあります。BYDのBEVスーパースポーツ、仰望(ヤンワン)U9 Xtremeが先日市販車世界最速記録(496.22 km/h)を塗り替えました!

496.22km/hって速すぎて想像がつかん!! BYDの「仰望U9」がたった1カ月で最速記録更新!!!  - 自動車情報誌「ベストカー」

それまでの世界最速が2019年のブガッティシロンという3億円の超々高級スーパースポーツの490キロでした(ガソリンエンジン)。U9 Xtremeは3000馬力の電気モーターを搭載しているそうで…。軽自動車50台分以上の馬鹿力。普通のU9は3000万円ぐらいで買えるそうで、日欧の製品に比べてお買い得!?いや、もちろんそもそもこんな自動車誰がどこで使うのでしょう?テクノロジーの使い道として正しいとは思えないものの、日本や欧米に対する挑戦状としては大きな意味を持ちますね。あらゆる意味で、中国は西側社会の後塵を拝しているわけではないと…それは宇宙開発や軍事も同じこと。

仰望U9とは別の尺度で世界を驚かせたのは、携帯電話大手Xiaomiが放ったSU7という4ドアのBEVスポーツカー(?)

SU7

これは、今回中国で何回も見ましたよ。よく売れているようです。

このグリーンのやつがSU7です。もちろん、いろんなカラーがありましたが、珍しい色だったので写真を撮りました。白いのとか、まあカッコよかった。車両の内容は関心も無いのでよく知りませんが、これの高性能バージョンはポルシェタイカンよりも速いみたいです。ルーフが後ろまで伸びているので、後ろのドアは飾りじゃなくて、大人が座れる後部座席がありそう。クルマとしての機能はともかく、携帯電話メーカーのXaomiですから、車両のコントロールや安全装置、場合によっては自動運転なども含め、ソフトウェアの書き換えによってクルマを最新状態にアップデート出来る、Software Defined Vehicle (SDV)として注目されています。買った後も性能が上がる?魅力的に聞こえますが、本当にそんなことが可能?携帯電話だって、便利なソフトを後で入れるとかは出来ますが、カメラやプロセッサの基本性能が上がるわけではない。このSU7を買った人が、5年後にどうなるかをイメージすると分かりやすいと思います。5年落ちのスマホ、誰も買わないですよね?つまり、Xiaomiは自動車をそういう工業製品と同じにしてしまったということです。5年経ったら価値ゼロ、3年で誰も見向きしなくなる。高価な工業製品である自動車で、それは困ったことです。スマホの様に数年ごとに買い替える?そうなってしまうことが心配です。

皮肉なことに、太陽光発電やEVといったグリーンテクノロジーに中国が注力したのは気候変動に対するリーダーシップを発揮するためではありませんでした。急速に拡大成長する経済に対して、エネルギー資源が不足する中国は、脱化石燃料を進めざるを得なかったのです。もちろん、これらのマーケットはグローバルにも拡大しました。稼げる産業として成功したのは、中国が早すぎず、遅すぎないタイミングでこれらを強力に推し進めたからでした。結果的には、中国をグリーンエネルギーの世界リーダーに押し上げることになりました。今や中国の田舎でさえEVや太陽光発電を多く見かけます。それで、メデタシメデタシ、皆さん中国を見習いましょう!とはいきません。気候変動対策、持続可能社会の構築、というのが主目標ではないまま、圧倒的なスピードで変化が起こっています。すなわち、「儲かるから」をモティベーションに猛烈なスピードで資源の消費が起こり、加速しています。持続可能であるための切り札の様に思われている太陽光発電やEVが、それ自体持続しないものとなってしまうかも知れません。中国で起こっている圧倒的ボリュームとスピードのEVシフトを目の当たりにして、早々にこのゲームが終わってしまうのではないかと心配になりました。


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