このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。
ラベル 原発問題 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 原発問題 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2021年8月4日水曜日

抵抗勢力?

 今朝こんなニュースがありました。

2030年度時点の発電 総合的には太陽光はコスト高に 経産省試算 | 環境 | NHKニュース

つい先日、(やっと日本でも)太陽光発電が一番安上がりな発電方式になる、と認めたところでしたが、「いやいや、やっぱり原発とLNG(さらには石炭?)ですよ!太陽光そんなに増やしたら、電気代高くなりますよ~!」という脅し?

太陽光や風力では発電量が一定しないため、それを補うためのバックアップ用火力発電の増設が必要だから、というわけです。太陽光が揺らぐ・・・そんなの小学生だって知ってるわい!バックアップに火力?じゃあCO2は増えるのね?そんなこと出来るわけありません。当然CCSなりCCUで出てきたCO2は環境中に放出しないことが新造の条件です。で、そのコストはLNGの発電コストにちゃんと入ってますか?さらに言えば、原発の後処理にかかるコストは?福島第一原発の後片付けにいくらかかるのか?放射性廃棄物の最終処分方法も決められていない状態で、「本当の原発のコスト」など誰にも分からないと思います。分からないから、自分の都合の良い方で計算する(除外する)。LNGや石炭もそう。CCSのコストははっきりしないし、リスク分析もちゃんと出来ていない。それを化石燃料起源の発電コストにちゃんと組み入れることは出来ないでしょう。だから、そうしない。なのに、太陽電池を増やすと、火力発電が増えると言ってコスト高であるという数字を見せる。何故?何故それほどまでして自分たちの既得権にしがみつき、新しい挑戦に進もうとしないのか?若者諸君、そんな霞が関を許すな!

2050年カーボンニュートラル宣言が本気なら(そう言っている長老が恐らくみんな生きていないんですよね・・・2050年には。だからこういうのがまかり通る)、CO2をバンバン出す石炭やLNGをこれから増やすなんて絶対無いんです。最初っから、それは除外です。太陽光発電を増やしたら、発電量が揺らぎまくって大変です。そうです。大変です。だから大規模蓄電技術と水素、アンモニア、e-Fuelへの転換技術開発を急いで、最初は酷くコストが高くとも、これらを実装しなくちゃならないわけです。だから、恐らくは本気でやると、今回の試算以上に太陽光発電のコストは上がります。でも、石炭やLNGは無い。原発も基本的には排除の対象で、無くすまでのロードマップ整備が必要。今は時間稼ぎのために再稼働することは確かに有効です。日本は既に炭素予算を使い過ぎました。だから、いつまでに原発への依存をゼロにする、というシナリオの提示が必要ですね。LNGや石炭も出来るだけ早期にやめたい。政府には是非いついつまでに石炭、LNG、原発をやめる、という目標も設定して欲しいものです。

2021年7月30日金曜日

その魚、どうするの?

 今朝見たこのニュースに唖然としました。

福島第一原発 放出濃度の処理水で魚の飼育試験 実施へ | 福島第一原発 | NHKニュース

海洋投棄される予定のトリチウム汚染水(を規定の濃度に薄めたもの)の中で、ヒラメなどの魚を飼育して、安全性を確認するというのです。いかにも、らしい、と言えばその通り。これが全く意味をなさない、無力なことだと当事者は分かっていると信じたいです。こんなことで、風評被害が無くなるとか低減されると思ったら大間違い。

万一魚に異常が起こるとかだと、これはもちろん「やべェ」わけですが、恐らく魚は育ってくれるかな。で、その魚はどうなるのでしょう?恐らくは切り刻まれ、放射線量を測定されるだけで、捨てられるのでしょう。それは虐待ですよ。命をもてあそんでいる。放射線量に問題が無いとして・・・じゃあ食べますか?東京電力の社員食堂で提供する予定?社長さんが役所の人との会食で一緒に食べる?それやったら、恐らく多くの人が東京電力を退職しますよね。要するに、みんな絶対食べたくないと思っているわけで、それこそが風評被害なのです。放射線量がどうのこうの、ではない。放射線量に問題が無いのに拒絶されるのは正しくない、と本気で思うなら、やっぱり社員食堂で出してください。例えば日本海側のヒラメの半額でそれを出してみるとかね。

前にも書きましたが、風評被害は絶対無くなりません。そして、その被害に対して金さえ払っておけば良いというのも大きな間違いです。漁業者が求めているのは、一生懸命働ける環境を取り戻すこと。美味しい魚をとって、提供する自らの仕事に誇りを持って取り組めることです。お金さえもらえれば良いとは誰も思わないでしょう。だから、取れる方法はただ一つ、トリチウム分離回収技術が確立されるまで、汚染水を貯め続けるしかありません。その現実に向き合い、原発と共に生きる未来は無いのだと認めることです。

まだ反発する向きもあるでしょう。しかし、では「私の責任」とばかりにヒーロー気取って東電の幹部の方がそのヒラメを食べたとします。でも、それをあなたたちの可愛い孫にも食べさせますか?ためらいはありませんか?それが風評被害なのです。他人事にして片付けないで、自分ごととして考えたら誰にでも分かることではないですか?

2021年6月20日日曜日

トリチウム分離技術公募

 福島第一原発で問題となっている、大量のトリチウム汚染水からトリチウムを分離する技術開発を東京電力が公募しています。

東電 トリチウム分離技術を公募 福島原発の処理水問題で | 福島第一原発 処理水 | NHKニュース

公募はNine Sigmaを通じて行われています。公募情報のページは以下です。

NineSights Community - Need Gallery: ‪NineSigma Asia Pacific Gallery‬

様々な放射性物質を含む汚水は、多核種除去装置によって処理され、重い放射性物質を除去したALPS処理水となり、これがあの多数のタンクに貯蔵されています。しかし、三重水素、トリチウムは水分子に取り込まれ、HTO(分子量20)として存在し、H2O(分子量18)に混ざっていますから、これを短時間で大量に、効果的に除去する方法が確立されていません。ゆえに、海洋投棄しかない、という政府の決定になっているわけです。トリチウムは半減期12.3年でベータ崩壊して安定なヘリウムの同位体3He(通常のヘリウムより軽い)になります。

(3)T ➝ (3)He + e- + ν (18.6 keV)

なので、高濃度になれば当然危険です。通常の運転であっても、原子炉では常にトリチウムは生成しており、これを除去することが出来ないので、全ての原子力発電所からはトリチウムが海洋投棄されています。だから福島第一原発の汚染水についても、海洋投棄はやむなし、という考えなわけです。

しかし、以前も話題にしたとおり、だから問題ナシで、トリチウムが投棄された海から獲れた魚を喜んで食べるよ、とは誰も思わないわけです。「風評被害を防ぐために丁寧な説明をして」というのが全く無力であることに、ようやく気付いたのでしょうか。出来る出来ないでは許されず、出来るまで挑戦しろ、ということです。思考停止してはいけませんね。

電気化学的な反応とか、H+とT+を分離できる高分子電解質とか、何か出来ることはあるかも?もしトリチウム分離に成功すれば、事故の後処理だけではなくて、世界中の原発からのトリチウム排出を無くせるかも知れません。機会があるならば挑戦したい課題ではあります。今科学を学ぶ皆さんも、是非一緒に考えましょう。

2021年6月19日土曜日

コミュタン福島

 

今日は福島県三春町にある「コミュタン福島」に家族で行ってきました。

コミュタン福島-福島県環境創造センター交流棟| (com-fukushima.jp)

5年ほど前にオープンした施設だそうですが、皆さんご存知でした?恥ずかしながら、私知りませんでした。原発事故からの福島の復興拠点の一つとして、同じ敷地に国立環境研究所(NIES)と日本原子力研究開発機構(JAEA)の研究施設、福島県の施設もあります。福島第一原発から直線距離でおよそ50キロ。トンデモナイど田舎にあるので、通りがかりにたまたま見かけることは絶対にないと思います。探して行かないとたどり着きません。行ったことが無い方、超おススメです。是非行くと良いと思います。特に子供連れで。

原発事故の罪滅ぼし的に作られた施設であることは明らかです。特に子供に向けて、原発事故がどんなに大変だったかの記録を残すことと(でもホラー的展示ではないのでご安心を)、原発に頼らない未来への福島の再生を展望する(反省よりも希望)様な施設で、事故後の放射線量や野生動物生態の変遷、温暖化が進むことの地域環境への影響などをデータを元に見ることが出来ます。気候変動とか脱炭素はメインテーマではないですけど、やはり原発のない未来ということで、それらの課題は展示にかなり入っています。最先端の映像施設、インタラクティブな展示などがあります。ど田舎としては想像を絶する立派な施設があり、しかも無料です。今日は天気も悪く、折からのコロナ蔓延の影響もあって、来場者はまばら(両手で足りる程で、ほぼ貸し切り状態)、恐らく説明員の人数の方が多かったです。とても綺麗な施設で、掃除も行き届いており、相当なランニングコストがかかっていることは間違いありません。しかも、データも新しいものでは2020年時点のもので、作りっぱなしでアップデートされていないわけではありません。

というわけで、色々考えさせられてしまう施設ではあるのですけど(存続できるかな?)、あって良いか悪いかでいったら、当然良いです。誰も来ないとしたら全くもったいないです。アクセスは決して良くないですけど、行ったことない方は是非どうぞ。家族でエネルギーの未来、持続可能な社会を考えるとても良い機会になるでしょう。もちろん、学生さん同士で行くのも良いと思いますよ!

以下、少し写真です。

入口すぐのところに、事故後の福島第一原発の模型があります。綺麗なジオラマではなくて、滅茶苦茶に壊れた施設の状態を再現しているところが良い。
この球状シアターが圧巻です。直径12.8メートルの球体スクリーンの中に入ります(廊下がガラス張り)。360度全方位のスクリーンに映像が映し出され、音響も素晴らしく、没入感が凄いです。5歳の息子はあまりの迫力に怖がってしまいました。今日のお話は2本、地球の中心への旅(地震のメカニズム)と、宇宙誕生の歴史でした。最初のナレーションはピーターバラカンさん、二本目のナレーションは竹中直人さんだったと思う(声がそうだった)のですけど、そうですか?この映像体験だけでも500円ぐらい取られるのが普通と思いますが、無料だなんて、凄いです!
放射線に関わる展示も多数ありますが、注目はやっぱり再エネです。色々インタラクティブな仕掛けがあり、子供は大喜びです。説明はほぼバイリンガルですから、今度留学生が来た時には絶対連れて行きます。
極めつけはプロジェクションマッピングによる3Dフクシマ。少し低いところから水平に近く見ると、本当に立体的に浮き上がって見えます。この10年間での放射線量の分布や野生動物の生態域の変遷、再エネ施設の拡大などが投影されます。




2021年5月28日金曜日

小型モジュール原子炉にIHIが出資

 本当にこの道が正しいのかな?と私は疑問に思わずにいられませんが、IHIは安全性と機能性が高いと期待される、小型モジュール原子炉SMRの開発を進める、アメリカのベンチャー企業NuScaleに出資することを表明しました。

IHI、米ニュースケール社への出資による小型モジュール原子炉(SMR)事業に参画(NIKKEI)

SMRという技術は、50-70 MW級の小さい原子炉(普通は1 GW級)モジュールを12基ぐらい組み合わせたシステムらしいです。従来の原子炉が現地で建設し、検査等を経て運用される施設であったのに対して、SMRでは原子炉モジュールを工場で組み立て検査し、これを現地でアッセンブリーする、セキスイハイムみたいな建て方をするため、工期が短く低コストなこと、そしてモジュールをON/OFFすることで出力を多段階調整出来ることが特徴のようです。冷却が容易なので安全とも主張しています。以下の資源エネ庁のページにSMRの説明があります。

原子力にいま起こっているイノベーション(前編)~次世代の原子炉はどんな姿?(資源エネ庁)

安定な核分裂反応を維持するためには、原子炉の出力を上下させることは出来ず、基本的には立ち上げると最大出力のまま一定、立ち下げるとゼロになる宿命があり、原発が30%に届こうとしていた過去には夜間電力が余るので、エコキュートの普及を進めて夜間割引を適用した、ということがありました。しかし今では逆のことが起こっていて、太陽光や風力の様に変動しまくる電源があると、それを調節するためにLNGを増やさなくてはならなくなります。LNGだと、30分ぐらいで出力を上下させられるらしく、再エネの発電量見込みを勘案して平準化するための運転調節が可能になります。

ただ、そんなLNG発電を増やすことも出来ません。「再エネを増やしたらGHGがかえって増える!」と主張する人の根拠はこれでした。再エネ導入が進むから、今後SMRの様な調節式原発の事業は伸びる、というのが今回のIHIの決断のようです。でも、原子炉の立上げたち下げって、そんなに急に出来るものでしょうか?再エネ電力の安定的利用には、大規模蓄電と余剰電力の化学燃料への変換貯蔵だと思いますけどね。それらの技術開発こそ重要だと私は思います。

2021年5月22日土曜日

電事連会長「原発再稼働必要」

 電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)が、2030年の46%GHG削減達成には原発再稼働が不可避なので、その準備を進めなくてはならない、という趣旨の発言をされたそうです。

電事連会長 脱炭素化中間目標実現には「原発再稼働率向上必要」(SankeiBiz)

国民の生活基盤である電力安定供給への責任があり、その重責を果たしている当事者の長であるご苦労は認めた上でなお「それを決めるのはあなたではない」と申し上げたい。そう信じるなら是非黙って準備を進めてください。発言によってそれしか方法が無い様な印象を国民に与え、議論を誘導しようとする余計なことは民主の原則に反しています。影響力の大きさを考えて欲しい。是非長老は黙って、次世代の方々に判断を委ねましょう。

2021年5月14日金曜日

2050年発電コスト試算

 2050年カーボンニュートラル達成宣言を受け、エネルギー基本計画の見直しが進められています。YUCaN研究センター準備会のウェブに分科会の資料をリンクし、若干コメントを書きました。特に再エネと原発の比率が異なる複数のシナリオを想定し、2050年時点での発電コスト(円/kWh)をRITEが試算したものです。これは、資源エネルギーに関する審議会に提出されたもので、こういう資料はちゃんとアクセスできる様になっています。

膨大な資料なので、私はちゃんと全部読んだわけではありません(多分読まないです)が、資料1が経産省が準備した、EUと英国の脱炭素戦略の分析と、RITEに委託した日本の発電コスト試算のベースとなる考え方と各技術における課題をまとめたもの。資料2がRITEが提示した(中間報告としての)分析結果です。最も気になるコスト試算の結果は46,47ページの表にまとめられています。資料3は次期エネルギー基本計画の基本的枠組みの案、資料4が計画見直しについて寄せられたパブリックコメントをまとめたものです。

この資料が提出された分科会は2時間です。24名の委員の先生方は、それは著名な方々であり、適任であることには疑いは無いです。しかし、どれ程優秀な先生方であったとしても、これだけの膨大な資料を2時間の会議の中で読み込み、適切な判断を導くための議論を尽くせるとは思えません。もちろん、この分科会1回で決めるということではなくて、何度も会議は招集されるのだとは思います。ただ、資料にはそれを出す側の意図が少なからず入っていて、それによって議論の行方を誘導しようとしていると感じます。一番疑問を感じるのは、資料2が示し、誘導しようとしている結論と、資料4にあらわれる民意の食い違いです。

こうした「いつものやり方」を見て思い起こすのは、例の一件以来日常用語として定着した感のある「忖度」という2文字です。誰かにとって都合の良い結論となる様に、それを意図して資料を作っている感じがします。では一体誰に忖度しているのか?一部の既得権者のためではなくて、実は「国民に忖度している」と思うのです。いや、資料4にあるパブコメと正反対の結論になるじゃないか!?と思うかも知れません。資料4は、ことごとく原発廃止を訴え、再エネの拡大を求めています。しかし、パブコメは「一部の環境ファナティックな人の意見」と見られています。こんなところに意見を送ってきたりはしない(私は送っていません)サイレントマジョリティが求めているのは、結局は安い電力なのだから、それを最も確実に実現できる結論に誘導するように、国民への忖度を資料に込めたのです。「再エネ100%にしたりすれば、電力コストは今の4倍以上になりますよ!こんなの誰も払いたくないですよね!産業ボロボロになっちゃいますよね!」という数字を見せ「原発やむなし」という結論を誘導しようとしています。それが「国民のためである」という忖度の下に。

「お前は何も分かっていない!最も確からしい中立的な推定から導かれた試算結果だ!思想まみれのお前にこれが出来るか!?」とお叱りを受けそうです。もっともです。私には出来ません。RITEの優秀な研究者の方々が、膨大なファクターを分析し、積み上げて導き出した試算なのだと思います。しかしそれでも中立かと言えばそんなことはなく、再エネ100%は無理、原発やむなしの結論ありきで試算が成されています。それぐらい、不確定要素が多いのが実態だからです。2050年までほぼ30年あるわけで、この30年の変化を見通せるわけがありません。

試算は客観事実ではなくて、意図に沿って導かれるものだと断言できるのは、NEDOが過去に策定した2030年までの太陽光発電のロードマップ、PV2030が見事に外れたことを知っているからです。2004年に最初に策定され、2009年にPV2030+として見直しもかけられ、2030年までにどの様にしてグリッドパリティ、7円/kWhを達成するか、というロードマップだったわけですが、たった12年前に見直されたPV2030+のロードマップでさえ、その後実際に起こったことをことごとく外しています。

<4D6963726F736F667420576F7264202D203039303630385F312ECCDFDABDD8D8B0BD8A54977694C55F955C8E862696DA8E9F5F93FA957496B382B55F2E646F63> (nedo.go.jp)

7円/kWhは、何の技術革新も要することなく、単なる産業のグローバル化(特に中国の台頭)によって2015年頃には達成されてしまいます。今や、それよりはるかに安価です。その結果として、日本の太陽光発電産業は事実上死滅しました。また、有機系は電力用には見捨てられ、ペロブスカイト太陽電池も学者が論文を書くネタになっているだけで、製品を出しそうなのは中国だけです(多分すぐ壊れます)。タンデム、超高効率など結局は不要。蓄電はちょっとだけならLiイオン、真剣にやるならRFBやNaS、さらには水素やアンモニアへの変換貯蔵へとシフトしていきました。短期間にこれほど様変わりしてしまったのです。なので、このPV2030が振り返られることもありません。私は2013年頃までNEDOの太陽光発電プロジェクトで色素増感型太陽電池の研究をさせてもらいましたが、その時には、常に不動のガイドラインとして存在したのがこのPV2030であり、この目標実現に資することがプロジェクトの研究を受託する研究者の責務だったのです。

このPV2030の根底にあったのは、日本の太陽光発電産業を如何に発展させるか、という意図です。それは産業界への忖度、そしてその受益者たる国民への忖度でしょう。しかしその太陽電池が日本製でなかったとしても、太陽光発電は既に安いという利益を国民が享受することは実現したのです。元に戻って、2050年カーボンニュートラル達成への発電コスト試算に、どこまでの客観性があるでしょうか?グリーン水素やそれによるアンモニアの製造、CCUSの確立が全く成されていない段階で、どれ程の中立性、確からしさがあるでしょうか?再エネ100%では現実的ではないコストになる、と10-17円/kWhという不当に高い太陽光発電コストを用いて結論付けられているのです。仮にそのコストが正しかったとしても、100%再エネが現実的でないかどうかは国民が決めることです。

確かに、カーボンニュートラルは失敗の許されない世界全人類が取り組む大事業です。国民から「電気代が高くなった!」とか「気候変動が収まっていないじゃないか!」という不平不満を聞きたくないから、事故さえ起こらないと楽観すれば、廃棄物の問題は後回しにして原発を積極利用した方が良い、そういう考えに「国民に忖度して」行き着いたのではないですか?

そして、資料4のパブコメを「一部のファナティックな・・・」と片付けないで欲しいとも思います。この試算を始める前に、政治家の皆さんは民意を聞き、その方針に沿って分科会は試算をすべきです。今までのように、試算によって民意を動かそうとしてはいけません。不確定要素が沢山あることは事実なのですから、分からないことは分からないこととして、技術的には再エネ100%も可能であること、但し電力コストは最悪の場合として今の○○倍になる可能性もあり、少なくとも●倍ぐらいにはなると思われる。それを一定程度緩和出来る可能性があるのは原発の積極利用だが、国民の皆さんはどうしたいか?とまず問いかけるべきでしょう。でなければ、最終的に起こる結果についても、国民の一人一人が自分の選択の結果としてそれを受け入れることが出来ないと思います。そもそも、そうした民主の考え方、民意が政治を作るという考え方は、この日本には成熟していないのだ、だから私たちが忖度して、予めケアしてあげるんだよ、という考えが見えてきます。これが再三言っている「国民を赤子扱いする村の長老」の態度だと感じるのです。成功の喜びも、失敗の痛みも、受け入れることになるのは未来の世代、今の若者ですよ。だったら、その人たちにしっかり勉強してもらうと共に、彼女ら、彼らを信用してあげましょうよ。

2021年5月12日水曜日

トリチウム汚染水海洋投棄

 福島第一原発の事故によって発生した大量の放射性物質を含む汚染水をどうするかが大変な問題となっていることは皆さんご存知の通りです。政府は海洋投棄する方針を決定しました。一般の人にとって、普段放射性物質についての知識を得たり、それについて考える必要は本来ないのですが、あまりにも情報が適切に開示されていないことに加え、事故を起こした東電側や国にとって都合の良い話だけを押し付ける傾向があり、特に直接的な被害を受けることが確実な漁業関係者とまともな対話をしていないことに大変な憤りを感じます。中でも一番おかしいと思ったのは、「基準以下に薄めてから海洋投棄するから大丈夫」の様な説明があることです。海に投棄した時点で無限希釈に近いぐらい希釈されるわけで、予め希釈することで一体何が変わるというのでしょうか?放射性物質の絶対量は全く変わりません。そんなこと、中学生でも分かる話です。

問題になるのは放射線の絶対量であり、福島で投棄するのは780兆ベクレルで、それを希釈しながら30年かけて投棄するという説明がされています。しかし、壊れた原子炉内を冷却するための注水により、毎日新たな汚染水が400トン程生じています。また、地下水の汚染もこれに加わります。もうすぐ一杯になってしまう汚染水貯蔵タンクを空けるために海洋投棄を始めたいというのが本当の理由であり、30年の予定が、実際にはいつ終わるのかも分かりません。

放射性物質の全容や特にトリチウムに関する実態について、私は専門家ではないので無責任に色々書かない方が良いですが、以下の経済産業省の資料は明らかに海洋投棄を合理化するために作られた資料と読み取れます。

008_02_02.pdf (meti.go.jp)

汚染水は様々な放射性物質を含んでいますが、これを浄化するALPS処理が行われています。しかし、水(HTO)として存在するトリチウムは除去することが出来ません。ALPS処理については、経産省資源エネ庁のウェブに説明があります。

安全・安心を第一に取組む、福島の”汚染水”対策⑦ ALPS処理水に関する専門家からの提言(資源エネ庁)

実際には、ALPS処理によって放射性の重元素の全てが完全に除去されているわけではなくて、かなり残留しているという噂もありますが、正確な数値は公表していないと思います。原発のオペレーションをするだけで、冷却水中に微量含まれる重水からトリチウムは必ず発生することになり、それを海洋投棄するのは普通にやっていることだから、という説明をしていますが、今回問題になっているのはトリチウムだけではないと考えた方が良いでしょう。また、トリチウムによる健康被害は大したことが無いかの様な中部電力の資料があります。

トリチウムについて (chuden.co.jp)

しかし、一方ではトリチウム投棄量と小児がん等の明瞭な因果関係が古くから報告されていることや、HTOでなくて、有機トリチウムになるととても危険であることなど、トリチウムによる健康被害に警鐘を鳴らす上澤千尋さんのレポートもあります。

科学5月独立P_上澤.indd (cnic.jp)

そもそも、原発と共に生きるという選択をした時点で、人為的な放射性物質の発生が不可避であり、ある程度の環境中への放出も避けがたいと考えるべきでしょう。温室効果ガスを出さないのは確かに原子力の大きなメリットですが、一方ではさらに恐ろしい放射性廃棄物を生じることに対して目をつぶることは出来ません。事故前から福島第一原発で発生したトリチウムは海洋投棄されていたそうです。しかし、どの程度までなら許容可能かなどの線引きを延々議論することは無駄だと思いますし、よそもやっているのだから今回のケースだけを問題にするべきではないという言い逃れも不適切だと思います。明らかに、今回のケースは余計な汚染を生じることになるのです。程度の問題ではありません。

科学技術的観点からは、それでも「大丈夫だ」「いや、許容できない」などの議論を続けることは出来ると思いますが、実際の問題はそこではないです。漁業関係者には確実に被害が出ますし、その漁業関係の方と同じ社会を共有する我々も確実に被害を受けます。「原発やる時点で汚染が起こることは了解済み。それでも安い電気が欲しいんだから、汚染された魚でも喜んで食べますよ!」と誰か言っていますか?都合の悪い事実を隠して、都合の良い部分だけの説明で誤魔化していないと言えるでしょうか?

風評被害は確実に出ます。「人々の誤解を解くために丁寧な説明をしていきます」「それでも生じる被害については補償します」などと言っていますが、まず、無用な汚染を受けた魚を食べたくないと思うのは「誤解」ではありません。日本人は、直接の利害関係があるので口をつぐむケースが多いですが、これについては中国や韓国の反応の方が人の反応としては素直です(国家として反発するのはちょっと問題ですけど)。そして、お金で補償してもらうことを漁業関係者は求めているのではない、ということです。自分自身が漁業関係者だったらどう思うでしょうか?働かなくても、魚が売れなくても、お金がもらえるから良い、と思うでしょうか?額に汗して一生懸命良い魚を獲り、「うちの魚は最高だよ!」と誇りを持って仕事を続けたいと思うのではないですか?マイナス分を補填するという考え方ではないです。むしろ、原発事故の酷い経験を乗り越えて、福島、宮城、茨城の漁業を見事に復活させ、より良い漁業をし、社会にそれを届けること、「東北の魚は一番だ!」と言ってもらえる漁業を取り戻すこと、これが関係者の胸の内にあるのは明らかだと思います。なので、金で解決しますから、の様な話を真正面から持ち出すのは、漁業関係者を侮辱しているとさえ思います。

だから、一旦原発でこういう事故が起こると、本当に取り返しのつかない大変なことになるのだということを決して皆忘れてはならないと思います。そのうえで、やはりカーボンニュートラルのためにはその痛みも許容せねばならない、と民意が動くのであればそれも選択肢でしょう。私は、一刻も早く原発を選択肢から外し、これから使える炭素予算を全て原発を前提としないカーボンニュートラルの実現に向けた技術開発に投じるべきだと思います。EUは先行して炭素予算を脱炭素につぎ込んできたから、今こんなにも差が開いてしまったのです。これは明らかに政治の失態だと思います。


2021年4月29日木曜日

川内原発も運転延長検討へ

 昨日の福井県の原発再稼働に続き、九州電力管内の川内原発も40年を超える運転延長に向けた検討を開始したことが報じられました。

九電、川内原発の運転延長を検討へ 社長「地元の理解が第一」(毎日新聞)

2024年に運転開始から40年を迎える川内原発をさらに延長して運転することを検討するため、点検等を進めることを九州電力が表明しました。条件を満たせば、原子力規制委員会に対して運転延長の申請をすることになります。地元の理解が第一であるというコメントは当然と思いますが、そもそもこの様に急ピッチに再稼働や運転延長が検討されるのは(検討していなかったわけではないが、表明できなかった)、GHG46%削減宣言に後押しされていることが明らかです。繰り返し、政府と事業者には透明性のある真実を、国民が納得するまで説明することを求めます。

九州電力については、こちらも最近話題となりました。

太陽光発電などの電力 蓄電池で有効活用へ 三菱商事 NTT 九電(NHK)

九州は日照条件が良く、太陽光発電の導入が最も進んだ地域ですが、条件によって発電量が過剰となるために、発電を時々制限する事態に陥っていました。そこで九州に1000店舗以上あるローソン(三菱商事)やNTT電話局に蓄電池を設置し、余剰な電力を貯めて、使うという取組みです。災害時の電力供給に対応できる可能性なども考えると、とても良い取組みだと言えます。ただ、現状では大型のリチウムイオン電池等に頼ることになり、コストや寿命の点で大規模な電力貯蔵は難しいと予想されます。

エネルギーに対して後ろ向きな印象のある原発と、前向きな太陽光発電、同じ九州電力の取組みですが、綺麗ごとでは済まされないのがエネルギー問題の真の姿でもあります。ただ、クリーンエネルギー普及が原子力の免罪符に使われたりすることが無いように、原発の問題は問題として、真実の公開と正しい判断をするべきでしょう。

2021年4月28日水曜日

福井県40年超の原発再稼働へ

 心配していたことが警鐘を鳴らす前に次々に現実になってしまいそうです。

40年超の原発再稼働へ 全国初、福井県知事が同意(NIKKEI)

原則40年とする運転期間を超える、高浜、美浜の原発3基を再稼働することで、地元自治体の同意のもと、福井県知事が関西電力に対して同意したということです。これに対し、日本国政府からは1発電所あたり25億円の交付金(すなわち福井県には50億円)があるそうです。経済産業大臣からは「カーボンニュートラルの実現に向けた重要な一歩」と早速賞賛の声が発せられました。2030年までに2013年比でGHG46%削減宣言には、当然原発の再稼働が折り込み済みです。総発電量に占める原発の割合を現在の約6%から20%に上げる必要があり、それには30基の原発(全36基のうち)を再稼働する必要があり、原発の新規計画が現実的ではない今、その多くは40年を超えるベテランの原発になってしまいます。ですから、これはカーボンニュートラル達成への序章に過ぎないということでしょうか。

大量の放射線を浴びることになる原子炉は、古くなると金属の性質を失い、緊急時に水を入れた場合などに亀裂が起こる危険がある、そのため耐用年数を決めている、とはある専門家の話でしたが、「検査によって異常が無いことが確かめられた」というのがもちろん本件の再稼働について言われていることです。絶対に安全などという技術は無くて、例えばEVのバッテリーは発火する危険があります。しかし万が一の事が起こった時のリスクの大きさがEVとは比べ物になりません。自動車事故で亡くなる人も可哀そうですが、原発事故の恐ろしさを私たちは良く知っているはずです。安全ならなぜ東京湾に原発を作らないのか?もちろんそんなナイーブな問いに対しては、緊急時に数百万人の人を避難させる術が無い、へき地ならば全員避難が可能であり、人命を救うことが地域の放射能汚染よりも重大だから、リスクを最低限にするためにはへき地しかない、というのが原子力安全委員会の説明でしょう。しかし、本当に命が救われさえすれば、生まれ故郷が地図で黒く塗りつぶされても仕方ないのでしょうか?その程度のリスクを負わなければ、この暮らしを維持する方法が無いのだから、仕方ないのでしょうか?

少なくとも、我々は未来のエネルギーをどうするのか、選択をしなくてはなりません。私個人は地震国日本が核に頼ることには明確に反対ですが、フランスの様に原子力によってGHGを大きく低減している国もあります。正しい選択を考えるには、正しく情報が伝えられていることが何より大切です。ここでもまた、国民を赤子扱いする政府への不満と同時に、自分自身の将来が大きく影響されるにも関わらず、無関心な人が多いことに大きな不満と不安を感じます。今回の件で不信を大きくするのは、つい先日贈収賄事件が問題となった、高浜町と関電が関係しているからでもあります。

会社役員の贈収賄罪とはどんな犯罪なのかー汚れた原発マネー(YAHOO)

もうこの件をすっかり忘れてしまった人も多いのではないでしょうか?最終的にどうなったのか、誰が罰せられたのか、しなかったのか、については私も覚えていません。高浜町の助役から関電の役員に1億8千万円の金品が贈与され、その見返りに地元の土建業者が関電の関連工事を受注していた、という事件です。今回は国から50億、しかも「カーボンニュートラルのためによくぞやってくれた」とお褒めの言葉付き。その金が地域の経済を潤し、さらには地域の未来の世代にも豊かさをもたらすのなら、地元の方も再稼働には複雑な思いなのかも知れません。しかし、問題は原発所在地に限らず、近隣の兵庫県や京都府にも及びます。国民不在の状態で、この様に重大な事が決められていくことに大変な憤りを感じます。

今後旧式の原発再稼働をめぐる議論や場合によっては訴訟が頻発すると予測されます。事業者や国には都合の良い方だけではない真実の説明を求めます。国民には自ら真実を学ぶ責任を持ち、判断する主権を行使して欲しいと思います。


還暦

 私、1966年生まれ、丙午(ひのえうま)です。2026年になりましたので、還暦を迎えました。すなわち、今1歳です。あと何年生きられるでしょうか?ひとまず、60年で色々経験させてもらい、色々なことを学び、考え、行動することが出来るようになりました。出来ることが増えた一方で出来なく...