このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年11月26日金曜日

食用コオロギ!

 ちょっと前に、NHKの山形ローカルニュースでやっていて、物凄いショックだったのがこのネタです。

飼育したコオロギを加工 食べ物として発売開始 新庄市の工場|NHK 山形県のニュース

うぎゃー!私は無理です!いやねえ、確かに牛は成長するまでの極めて多くの穀物飼料を食べ、沢山水を飲み、沢山糞尿をし、沢山ゲップをした上に、ちょこっとだけお肉を作ります。タンパク質を作るプロセスとして大変効率が悪い上に、温室効果がCO2の300倍にもなるN2O(糞尿から)や25倍のメタン(ゲップから)を沢山生産する、とても持続性の無い環境負荷の高い食料です。そのトウモロコシや水を人間が食べれば、もっと多くの人がお腹を空かせずに済むはず、牛肉を減らしましょうとはよく言うハナシ。それに対して、昆虫は僅かな餌でタンパク質を効率よく作ります。だから、持続可能で気候変動も抑制する昆虫食を見直そう!とはよく言われることです。イナゴとか蜂の子とか、サナギとか、日本では昔から昆虫食はありました。何を隠そう、私の故郷の岐阜でも、クロスズメバチの幼虫は「へぼ」と呼ばれる高級食です(私は食べたことありません)。さらに言えば、エビとかカニとか、もし陸を歩いてたら昆虫と何も違わないですよね?ウニとかホヤとか、海の生き物ならばもっとオゾマシイものを食べるじゃないですか!

でもねえ・・・。私はてっきり「え、これ本当にコオロギなんですかぁ?」って感じで、粉末化するとか、元の昆虫の姿が全く見えないものなのかと思っていました。ところが、ビデオに出てくるのは、あのコオロギさんそのもの!まあ、バッタと似たようなもの?いや、あの黒光りする羽根がねえ・・・あの「ゴ〇ブ〇」を連想させるでしょ?だから、これは無理だなあ・・・。本当に食べる物が無くなって、お腹が空いたらきっと食べますけどね。でもそうならないことを願っています。来るべき時に備えて、食品を開発する方はもちろん非難しませんし、賞賛しますけど、私はちょっと遠慮します。生涯食べずに済むことを願っております。皆さんはいかがです?

2021年11月25日木曜日

凄いぞ!ドイツ!

 今日一番衝撃を受けたニュースはこれ!

新政権発足のドイツ 核兵器禁止条約会議にオブザーバー参加へ | ドイツ | NHKニュース

先の選挙では、長らく首相を務めたメルケル氏率いるキリスト教民主社会同盟(黒色)を社会民主党(赤色)が打ち破り第一党となったものの、緑の党が第三党として躍進、第四党の自由民主党(黄色)も支持を伸ばして、社民党が過半数に届かないため、連立交渉となっていました。しかし、割と早く決着し、赤緑黄の信号機連立が成立し、社会民主党のショルツ氏が近く首相に就任する見込みです。ちなみに、黒緑黄の連立の可能性もうわさされていましたが、そちらはジャマイカ連立と言われていました(ジャマイカの国旗の色だから)。まあそんなことはともかく、緑の党が大躍進して、政権入りしたことで、今後ドイツの脱炭素へのリーダーシップはいよいよ強化されそうですね(ただ、自民党は緑の党と正反対の主張ですけど)。

そして、その政権発足からすぐに、上記の驚くべきニュースだったわけです。脱炭素と関係無いかと言えば、大ありだと私は思います。米英仏などの核兵器保有国を含む軍事同盟であるNATO加盟国は、当然その立場上は核兵器禁止条約を批准することなど出来ないわけで、アメリカの同盟国である日本も残念ながら同じ立場です。ところが、そのNATOの主要加盟国であり、EU最大の経済であるドイツが、オブザーバーとはいえ、核兵器禁止条約締結国会議に参加するというのです!まあ、ノルウェーも同じ立場ではありますが、やはり9000万人の人口を抱え、世界4位の経済を誇るドイツが参加するという意味は大きい。岸田首相!やるなら今ですよ!広島の人たちの期待に応えて!

脱炭素のことを真剣に考えれば考えるほど、争い合っている場合ではないと思います。誰も戦争を望んではいません。戦争を絶対しないのに、どうして核兵器が必要でしょうか?人が死ぬのはピストルで撃たれても死にます。人を殺すのは人であり、兵器は手段でしかありません。人殺しは悪です。悪事を働くために、それを実現する手段を準備してはなりません。地球号は沈没寸前です。いや、地球は人間など歓迎していないかもしれないけど、我々は地球が無くなったら生きていけないのです。沈みかけた船の中で、餌の取り分を巡って争い続けるドブネズミが今の人間と思えてなりません(あ、ドブネズミに失礼ですね)。争いなどやめて、人類全てのために立ち上がるべき時ですよね。ドイツがどこまでやれるのかは分かりませんけど、こういう行動には最大限の賛辞を送りたいです。日本と同じ、暗い過去を負った敗戦国ですよ。日本に出来ないことはないはずじゃないですか?

再エネ施設見学

 先日紹介した浪江町のFH2Rは再エネの未来像とも言える施設でしたが、ある意味普通の従来からある再エネ施設を最近訪れていました。山形県内や近隣県にも多くの再エネ施設があります。

まず最初は、家のすぐ近くに建設が進められている「川西ソーラーパーク」。潰れてしまったスキー場の跡地を利用して、なだらかな山を覆う様にソーラーパネルが設置されています。この場所は時々通りがかるのですが、突然ソーラーパネルで覆いつくされていたので驚きました。どれぐらい広いのかこの写真ではよく分かりませんが、25 MWということなので、国内では結構大規模なソーラーファームですね。近くまで行ったのですけど、工事中で入れません。その昔のスキー場ホテルと思われるコンクリの建物がお化け屋敷の様に朽ち果てて、そのままになっています。いずれ見学できる様になるのかも知れませんが、現状は遠くから見るのみです。何しろ雪が沢山降る地域ですから、ソーラーパネルは全部陸からかなり持ち上げられて設置されています。最近の事故を受けて、しっかり基礎の工事をやっていると信じたいですけど、傾斜地ですし、大雨の時に土砂崩れとか起こさない様にして欲しいですね。でも、ふもとにはほとんど住宅などはありません。こういう場所も上手く使わないと、日本ではソーラーを拡充するのは難しいですから、しっかり対策をしたうえでこういう施設を増やしていって欲しいものです。
次は、山形県庄内町にある「立川ウィンドファーム」。元々この地域は立川町だったみたいです。最上川に沿って吹く「清川だし」と呼ばれる風の好立地のため、古くから国内での風力発電推進のための研究もここで行われていたようです。広大な田んぼの中に10基程度、そして周辺の山の上にも10基程度、合計20基程度の風車を見ることが出来ます。1基あたりの出力は600 kWぐらいのようです。「ウィンドーム立川」という施設があり、地域での風力発電開発の歴史を紹介する施設や、電気カーにも乗れる子供の遊び場などありますが、ややさびれた感じで、展示物はちと古臭い感じではありました。まあ、近々洋上風力発電が本格稼働することになるでしょうけど、さきがけの地として、再エネを皆さんに考えてもらう施設を拡充して欲しいものだとは思います。田んぼの中にある風車は、そのすぐ下にまで行くことが出来ます。巨大な羽根がグルグル回る様に、子供たちは「怖ーい!」。確かに、もし落っこちてきたらどうしよう、という感じはします。しかし、その大きさを見ることで、電気にも大きさがあって、エネルギーを生み出すのは大変なことなのだ、ということを子供たちも数字でなくても理解した様に思います。
最後は、福島県奥会津金山町の「道の駅奥会津かねやま」に併設された、「みお里」という水力発電を紹介する施設です。2020年にオープンした出来立ての綺麗な資料館(?)で入場は無料で、絵ハガキのオマケまでくれます(私が行った時点での話なので、もらえなかったらゴメンナサイ)。阿賀野川の支流、尾瀬を水源とする只見川は、高低差が大きい深い谷を流れる川で、戦前からその水力発電利用の開発が進められたそうです。本格的には、戦後東北電力の初代会長となった、あの有名な白洲次郎氏がその開発の指揮をとったんです。
白洲次郎、カッコ良すぎて男の子はちょっと憧れちゃいますよね。あの時代に、あんな国際人がいたこと自体が伝説になっちゃいます。この椅子、マッカーサー元帥に送ったもの(たぶんレプリカ)だそうですよ。座ってみましたけど、座り心地は良くない。白洲次郎の生き様を紹介するコーナーのほか、4K画像のシアターでは、水力発電開発の歴史などを学べます。そしてハイライトは、実は美術館なんです。奥会津の景色などを描いた絵画やステンドグラス、そしてあの片岡鶴太郎氏の絵画も展示されています。
子供たちは、このプロジェクションマッピングによる、只見川の水力発電施設の紹介や、インタラクティブな水力発電の仕組みを学ぶ模型、東北電力管内にある太陽光、地熱、バイオマス、風力などの再エネ施設などの紹介を楽しんでいました。無料でしたけど、結構楽しんでしまいました。近くへ行った時は是非立ち寄ることをお勧めします!
最後は、みお里の近くにある、沼沢湖を訪れました。カルデラ湖だそうですが、只見川よりも200メートルほど高地にあり、只見川とトンネルで結ばれていて、揚水式電力貯蔵が可能な水力発電が地下に建設されているそうです。凄い!電力が余った時には只見川から水を汲み上げてこの湖に貯めて、発電する時には湖の水を只見川に落とす仕組みです。実際大分登りますけど、川のすぐ近くなので、こんなことが可能なんですね。揚水式ダムはとても有効な再エネ電力貯蔵設備になりますが、なにしろそんなのに適した場所は多くはありません。なので、やはり巨大な電池とかの蓄電設備が必要になってしまいますね。
というわけで、近くにこれほど再エネ施設があるということが嬉しい驚きでした。中が見れなくても、斜面を覆いつくすソーラーパネルや巨大な風車が動く様を見るだけでも、脱炭素に向けて色々考えさせられてしまいます。新しい時代の到来を(その困難さも含めて)リアルに感じるためにも、是非足を運んでみることをお勧めいたします。次は地熱発電を見に行きたいと思ってます!






2021年11月15日月曜日

EVシフトを考える⑳

 遂にこのシリーズも20回目になりました。まあ、そんな数字はどうでも良くて、それぐらいEVをめぐる動きからは目が離せないということです。そんな中、昨日のNHKスペシャルでは「EVシフトの衝撃」というタイトルで、この問題が取り上げられました。

「EVシフトの衝撃〜岐路に立つ自動車大国・日本〜」 - NHKスペシャル - NHK

御覧になりました?「衝撃」ねえ・・・。ほとんど何も知らなかったという人には、確かに衝撃かも知れません。ただ、ちょっと間違った衝撃を感じてしまう様な内容だったかなあ。まあ、重要なことも触れられてはいましたが、それを深彫りすることなく表面的な驚きだけをレポートしたので、全体の雰囲気としては「日本は相当遅れているぞ!」「このままでは大変なことになるぞ!」という衝撃だけが見る人の印象に残ったのではないかと思います。で、この問題の本質はそんなものではなくて、もっと重大な世界的競争、覇権争いと結びついていて、脱炭素のためにはEVシフトを進めなくてはならない、なんていう単純な前提は問題を見誤ることになると、繰り返しこのブログでも訴えてきたとおりです。

しかし、まずもって今回の番組は、ちょっとホンダびいき過ぎないでしょうか?なんか、全体としてホンダは過去と決別して未来にチャレンジする集団、対するトヨタは変化に抵抗するコンサバ集団という様になっていました(それから、生き残りをかけて中国と手を組む裏切り者日本電産?)。それら全部ハズレですよ。全固体リチウムイオン電池は何もホンダが世界をリードしている技術ではありません。試作品を出してはいましたが、固体の多層構造を量産する製造技術が実は問題であって、試作品をデモ出来ても、結局量産過程で頓挫する可能性が高いのが全固体電池です。さらに「EVの次の革新的なゼロエミッションカーの開発が進められています!」みたいな感じで出てきたのがなんと水素酸素FCV、何だか意味深にボカシまで入れてね(クラリティの次期世代実験車か?SUVスタイルの様に見えましたね)。あのね、トヨタはもうとっくにFCVを一般消費者向けに販売していますよ。それも既に第二世代のMIRAI。その航続距離はワンチャージで850キロ。もちろん、水素ステーションも限られているので、飛ぶように売れているわけではありません。一方ホンダも一応クラリティFCVを販売しました(限定的だったのと、既に販売中止になりました)。なので、こんなの全然新しくない。それで、最後に出てきたのが「F1の技術で空気抵抗減らします」だって。F1は滅茶苦茶速いので空気の壁を切り裂く様に走りますが、一般車両の平均時速なんて30キロ程度です。ストップ&ゴーを頻繁に繰り返します。そういう領域では空気抵抗よりも重量の減少の方が効果が大きいですよ。超軽量化技術とかの紹介の方が面白かった。

まあ、そんな技術関係のレポートのチグハグさはさておき、重要だったのはEUのEV化戦略ですね。ここのレポートが甘かった。先日のBS報道番組ではNorthvoltの取材を報じていたのに(再エネ100%、リサイクル率97%で環境性能ベストのバッテリーをEUメーカーに供給する)、今回それが全く利用されていなかった。あの報じ方では、EUが何故EVシフトにそれほどまでに熱心なのかが見る側に分かりませんよ。ルノーのスナール会長のインタビューに、ちらっと見えてはいました。「我々EUが自動車産業の中心に返り咲くのです!」と不敵な笑みを浮かべていたところです。LCA手法によるCFPの算出とその低減を根拠にした規制の導入のことは触れられていましたけど、それを国境炭素税に結び付けて、中国や日本の製品をシャットアウトしようとするEUの本当の狙いまでには踏み込んでいませんでした。EUはEVシフトを千載一遇のチャンスと思っているのです(で、その企みは恐らく失敗すると私は思っています、日米中韓印がそれを許しません)。だから、全体としては「EVがこれからの流行です」ぐらいの軽い話になってしまっていた。本当の話をしてしまうと、国際問題、さらには日本政府の批判にもつながるので、大人の事情でもって報じられないというのがNHKなのかな?でも、これを見て間違ったメッセージを受け取ってしまった人はかなり多いと思いますよ。NHK、責任あるんだから、ちゃんとやってください!

2021年11月14日日曜日

COP26閉幕

 英国グラスゴーで開催されていた、COP26が、1日の会期延長を経て13日閉幕しました。

COP26閉幕 気温上昇1.5℃に抑制「努力追求」成果文書採択 | COP26 | NHKニュース

さて、皆さんはどういう感想を持たれたでしょうか?驚くべきことは何も無く、予想通りではありましたが、事態を大きく改善し得る様な成果は何もないまま終わってしまった、というのが私の印象です。そうですねえ、パリ協定の時点では気温上昇2℃未満となっていたのが、1.5℃以内に抑制する、となったのは前進に聞こえますけど、その具体的計画は全く決められていなくて、各国の努力に委ねられていて、しかも不履行や未達成の場合の罰則はやっぱりありません。「努力を追求する・・・」とは何でしょうか?言葉遊びに聞こえます。しかも、気温上昇は既にほぼ1.1℃なわけですから、1.5℃以内(2030年度?)とするならば、例えば最大排出国である中国が宣言している「2030年までに減少に転じる(=それまでは増えても構わない)」では絶対にダメなわけです。でも、そんなことは何も触れられていない。なにせ「努力を追求する」だけですから「う~ん、もちろん、頑張ろうとは思ってみたんだよ」と言うだけでOK?最終局面で議長国イギリスの弱みに付け込んで一層合意文書を骨抜きにした(石炭火力を「廃止」➝「削減」に変更)インドも大変けしからん!削減ってのは、減ってれば良いってことです。100を99.9にしただけでも削減。廃止しようとすれば100を10に減らしても、「まだ廃止出来ていない」です。天と地の差。

ま、でもこうやって各国が足の引っ張り合いをすることは全く予想の範囲内でした。だから、グレタさんの言う通り、「Blah, Blah, Blah...」しか出来ないのがCOPです。

2021年11月12日金曜日

EVシフトを考える⑲

 いよいよ明日でCOP26も閉幕となりますが、果たして意味のある、そして拘束力のある国際的合意に到達することが出来るでしょうか?石炭火力発電からの脱却、排出権取引の国際的ルール取り決めなど、議長国イギリスとしては、絶対に有効な国際合意を得たいところでしょうが、明らかに各国の思惑が大きくずれるところであり、極めて難しいと思われます。

脱炭素の切り札であるかの様に扱われ、やはり国際的な取り決めが試みられているのが、EVへのシフト、ガソリンやディーゼル車の廃止とその時期です。石炭火力廃止ではそれに依存するしかないインドネシア等が反対姿勢ですが、いざガソリン車の禁止となると、今までの勢いはどこへ行ったのか、主要自動車生産国が反対の姿勢(合意に不参加、というだけですけど)です。

COP26 電気自動車などに移行のための行動計画まとまる | COP26 | NHKニュース

主要市場では2035年までに、世界全体でも2040年までにガソリン等を使用する自動車の販売を禁止し、全てEVや燃料電池車に切り替える、という計画について、英国、カナダ、スウェーデン、チリ、カンボジアなどの23か国が参加に対し、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、中国などの主要な自動車生産国は不参加、というのが面白い、というか正直な結果です。英国、スウェーデンは結構自動車を作っていますけど、チリ、カンボジアって?自動車がその国の主要な産業となっていない国は、売っちゃいけないというルールを作るだけですから、何とでも言えるでしょう。しかし、自動車を取り巻く技術と資源の現実を知っている国、日本、アメリカ、中国だけでなくて、あれ程EVに前のめり姿勢のドイツやフランスも不参加なのです!それから、日本のEV比率が低いのは当然として、中国はその台数で圧倒的ナンバーワン、新車販売に占める比率も4.4%とほぼEUと同じであることは驚きです。一体どこでそんなに沢山のEVを充電しているのでしょう?石炭の電力使ってですけどね!環境ファナティックなスウェーデンや、EVなんてまだ全然走ってないカンボジアが賛成し、現実を理解している国は反対する、当然こうなりますねえ。

COPで合意されたルールは絶対に守られるべきです。努力目標であって、出来れば達成したい、ではダメなのです。でなければ、あれ程の努力を払って国際会議を開く意味がありません。ドイツやフランスも、そのことを理解し、尊重しているということでしょう。出来ない約束はしない、ということです。EVの充電インフラや水素ステーションの整備まで含めて、世界の一部では2035年にガソリンをやめることは可能かも知れません。しかし、グローバルにとなれば、それは2040年でも絶対に無理でしょう。もしも、現在の自動車生産国が、ガソリンやディーゼル車の開発生産販売をやめてしまえば、途上国からはモビリティーが失われることになります。そんなの絶対無理なのです。そもそも、リチウムも、コバルトも足りませんし、供給する電力や水素を完全クリーン化することも無理です。

EUがEVシフトを戦略的に進めていることは、このブログで繰り返し取り上げている通りです。それは本当です。先日のNHK BSの国際報道でも、Northvolt社の戦略が紹介されていました。今度の日曜日のNスぺは、「EVシフトの衝撃」というタイトルでEVの話題が取り上げられます。例の「日本は出遅れてはならない!」の論調にならないことを期待しております。影響力が大きいので、変なことは言わないで欲しい。技術を担う人たちは、精一杯真面目に考え、頑張っていますよ。100 kWhの化け物みたいな電池を積んだEVが未来だなどと言ってはなりません。まあ、どういうまとめ方になるか、注目です。予告は以下で見れます。

「EVシフトの衝撃〜岐路に立つ自動車大国・日本〜」 - NHKスペシャル - NHK

続きです!NHKのウェブに、上記の2040年までにガソリン禁止の詳細が書かれています。

“排出ガス車ゼロ2040年までに”なぜ日本は参加を見送ったのか | COP26 | NHKニュース

参加国のリストが全部書かれていますけど、思わず笑っちゃいます。オランダなんかは「マジか?」と思いますけど(自動車産業に相当食い込んでいる国なので)、ポーランド?ポーランドも相当クルマ作っていますよ。それで、石炭火力の割合が凄く高く、EV充電のインフラ整備も相当遅れている。自ら、自動車の無い生活に戻っても構わないと宣言している様なものです。これらの国々は、電源のクリーン化とEVインフラ整備を全てやる覚悟があるのでしょうか?その大半は、当事者意識が低いので、主要自動車生産国に対して「やってよ!」と言っているだけと感じます。全く実効性の無い国際合意ですね。

もう一つ、二つ、上のレポートで気になることがあります。まず、NHKはミスリーディングな書き方をすべきではありません。「日本はハイブリッドを含めた形で脱ガソリン車を図ろうとしていて・・・」とありますが、ハイブリッドは「脱」ガソリンではありません!ガソリンを効率良く使う、というだけです。で、それは正しいのです!CO2を減らす手段として、明らかに実効性があります。でも、「脱」と誤解されてはなりません。今COPで議論しているのは、いつまでに脱するか、の議論なのです。だから日本は脱ガソリンには後ろ向き、それは事実ですが、現実的選択でもあります。だって、世の中にまだグリーン電力やグリーン水素が無いのに、自動車だけEVやFCVにしても「脱」にならないじゃないですか!

もう一つは、ホンダ技研の大津社長のインタビュー。最後の「さみしいですけどね…」この言葉を社長が言ってしまうようであれば、今後のホンダにはやっぱり期待出来ません(個人的には大好きなのによお!)。F1で培った技術を総動員して・・・とか全然響きません。エンジンでZEVは無理、とか言わないで欲しい。e-Fuelを作ったら良いじゃないですか!トヨタの水素エンジンは、「どうせ無理」なことをやっていると言うの?水と二酸化炭素と太陽光からガソリンを作れるようになれば、V12気筒のF1エンジンを高らかに歌わせたらいい。それが技術者の夢ってものです。諦めムードの中でEV化を進めるというホンダには、大変落胆します。自ら人工光合成にもチャレンジして、吉田研の学生を雇ってよ!

2021年11月8日月曜日

グレート・リセット

 昨日(11月7日、日曜日)夜9時から放送された、NHKスペシャル「グレート・リセット」御覧になったでしょうか?

世界で加速する脱炭素社会への大転換 NHKスペシャル「グレート・リセット ~脱炭素社会 最前線を追う~」|予告動画 |NHK_PR|NHKオンライン

正直、今さらこの内容?と思う程で、ズッコケました。登場人物に、例えば環境研の江守先生にまで「グレートリセット」という言葉を言わせるあたり、ちょっとクサイなあと思いましたが、そんなことはともかく、一体これのどこが「グレート」リセットなの?と思う内容の浅さでした。

肉を食べない様にする、とか、飛行機じゃなくて電車に乗る様にする、とかのどこが「グレート」なんでしょうか?産業革命以降、本格的には第一次世界大戦と相前後する頃からこれまでの経済発展の基礎となった資本主義、これを改めることが「グレート・リセット」なのではないですか?このタイトルを見た時に、「おお、NHKも遂にそこに踏み込むのか!」とワクワクしたのですけど、実際の内容は上記の通りで、「肉を食べるのをやめましょう」ですから、相当ガッカリです。

こういうことを考えさせられる材料は、番組の中でも沢山紹介されてはいました。例えば、ロイヤルダッチシェルが環境対策が不十分であると市民団体から訴えられ、敗訴したこと。そして、フランスの石油メジャーTOTALが原子力ではなくて、太陽光、風力、水素などのオルタナティブエネルギーに参入し、これを牽引するマルチエネルギー企業に転身しようとしていること、などです。シェルの件は、あくまで民主主義的なプロセスによる社会主義国家、自由経済ではなくて、計画経済の社会を目指せるのかどうか、という問いかけになります。一方でTOTALの件は、金儲けの矛先が変わっただけで、企業の本質は何も変わらない、変えられないということをよく説明しています。社会が求める価値の変化に対して、率先して行動して市場を支配し続け、自らを太らせ続けようとする資本主義の権化の姿そのものです。やっていることが変わるだけであって、思想には全く変化はありません。時代の要請に応じて・・・は資本主義が常にやってきたことです。

従来の資本主義、自由経済の仕組みに任せた経済発展と決別すること、それこそ「グレート・リセット」ではないですか?100年続いた資本の支配、金が金を生むルールは、格差をこの上なく拡大しました。今や世界トップクラスの大富豪は、一国家を上回る程の富を蓄えてしまったのです。こうした仕組みをリセットすること、それぐらいであればグレートとも言えるでしょう。そして、それぐらいのことをしなければ、この気候変動によって人類は破滅への道を歩み続けることになってしまうでしょうから。

もう一つ、番組で印象に残ったのが北京大学の先生へのインタビューです。「中国は共産党の優れた指導力の下で国民が一致団結して、必ず脱炭素への約束を果たすでしょう」という確信に満ちた言葉。北京らしい、政治と一体化した発言ですけど、これは本当だと思います。「国民が一致団結」は「国民が犠牲を払うことで」と読み替えられます。それを可能にするのが中国の仕組みだからです。一方の自由経済に基づく社会のバラバラさ、結局のところ、経済成長を全く諦めようとはせず、自らの生き残りのためには他者の犠牲を厭わない、変わらない人間の本質を見ると、恐怖政治によって民衆を完全支配することによってしか、この気候変動を回避することは出来ないのではないか、とさえ思えてしまいます。

嫌ですね。自由は何物にも代えがたい。だから、一人一人が学び、共に考え、話し合うことで、民主主義的なプロセスによって、持続可能であることを経済成長に優先させる社会民主主義を成立させること、組合の様な考え方が必要なのではないかと思います。トップダウンではなくて、ボトムアップで社会主義を成立させる社会の大変革へ、それこそグレートリセットだろうと思います。

2021年11月4日木曜日

中国、ロシア、インドに物申す!

 英国で開催中のCOP26では、またしても日本が不名誉な化石賞を頂きました。

日本に「化石賞」国際的な環境NGO “温暖化対策に消極的” | COP26 | NHKニュース

岸田首相がその演説の中で、再エネによる発電量変動を緩和するピーカー火力発電の開発に言及したことが良くなかったと思います。「水素やアンモニアを使った火力発電の夢を信じてる」とか「そうした未熟な技術が化石燃料の採掘を促進することを知らない」とか、一部事実ですが、やっぱり「そういうお前は何が出来るっての?」と言い返してやりたい。前回は石炭にしがみついたので、化石賞もさもありなん、でしたが、水素やアンモニアを本気でやることは全然間違っていません。でなきゃ、どうやって船舶をカーボンフリーにするつもり?電池では絶対無理ですよ。飛行機もね。密度の高い化学燃料をソーラーを一次エネルギーとして得ることは、もちろん極めて困難ではありますけど、絶対にやらなくちゃならないことです。確かに、オーストラリアの褐炭から水素を作って日本に輸入しようという「水素ふろんてぃあ」の話なんかは、ちと恥ずかしいです。しかし、それとて水素を安定燃焼させる火力の研究開発を前に進めるためには必要でしょう。でなきゃどうやってそこに到達するんですか?

まあ、それはともかく、今回は中国、ロシア、インドのカーボンニュートラル宣言に対して懸念を示したいです(それぞれ世界1位、4位、3位のGHG排出国)。中国とロシアは2060年、インドは今回初めて2070年までのカーボンニュートラルを宣言しました。これら、全く意味ないです。途中のロードマップが全く示されていないから。中国は、2030年までにGDP当たりの温室効果ガスを65%減少させるという目標を前から宣言していますが、これは全くインチキ。以前は超絶古臭いインフラでしたし、生産力も低い国でしたから、GDPは小さいのにGHGは大きい国でした。なので、この比率を改善するのは、金儲けの点で言っても必然。この比率を変えると言っているだけですから、GDPが激増すればGHGが増えても全然構わない、というわけですよ。いつ減少に転じるつもりなのか、2030年でも2040年でも良いので、その時点で何%削減するつもりなのか、それを示さないと、40年先の話をしても意味が無い。インドはもっと酷い。50年先ですよ。モディさんはその頃居ないのは当然。今のそのカーボンニュートラル宣言の責任を一体誰がとると言うのか?途中のマイルストーンはどうなっているのか?

ご存知のとおり、これらの国々は、いわゆるBRICS(Brazil, Russia, India, China, South Africa)、新興国なわけです。中国は未だに「我々は途上国なので・・・」と言いますが、全然的外れです。急激な経済の拡大をしているのですから、その拡大はGHGの拡大を極力抑えたものであるべきです。本物の途上国というのは、まだ発展から取り残されている様な国々です。それらに対しては、OECD諸国はしっかりとした経済的技術的支援をするべきです。百歩譲って、BRICSにも経済的支援は必要でしょう(だって、中国のお陰で色々な物が安く手に入ってるんだから)。これらの国々のリーダーが、2030年目標を出すことから逃げている。それを出させるために、経済支援が必要なら、リーダーたちは膝を付き合せて取引の案を議論すべきです。いくら必要なのか?いくら出せば目標をちゃんと示せるのか?それを出させることが出来ないのは、いわゆる先進国の失敗であり、責任です。こういう時には逃げて、別のところでは超大国顔する中国やロシアは尊敬出来ませんな。しかしまあ、そういうののしり合いでは先に進めません。上記のとおり、これらの国がロードマップを示せないのは、議長国イギリスをはじめ、先進国の問題ですよ。それが出せる様な環境を整えなければ、カーボンニュートラルへの確かな道筋は決して見えてはきません。

2021年11月1日月曜日

FH2Rに行ってきました

 

福島県浪江町にある、太陽光発電の電力から水を電気分解して貯蔵輸送してオンデマンド利用が可能なエネルギーである水素を製造する施設、福島水素エネルギー研究フィールド(Fukushima Hydrogen Energy Research Field = FH2R)に行ってきました。

再エネを利用した世界最大級の水素製造施設「FH2R」が完成 | NEDO

手前が太陽電池パネル、中央右側の四角い建物が水電解施設、その左側の背の高いタンクに水素を貯めていて、水素を配達するトラックも見えました。一般の見学が可能な施設ではありませんし、行ったのは日曜日ですから(人影なかった)内部を見学出来たわけではありませんが、同施設は棚塩産業団地という沿岸に新たに開発された団地内にあり、上の写真は展望台からFH2Rの施設を眺めたものです。この他に、無人飛行機(ロボット)の研究施設や木造高層ビルのための高度な集成材開発のための施設が同団地内にあります。晴れた1日の水素の製造量が150世帯の1か月分という能力らしいので、まだまだ大都市や産業のエネルギー源としては不十分ではありますが、今考えられる究極に一番近いグリーン水素の供給施設として、大変注目しています。今年の東京オリンピックで使用したFCVの燃料や、先日のトヨタの水素エンジンレースカーの燃料は、このFH2Rから供給されたそうです。周辺にはまだ太陽電池を設置出来そうな平地が沢山残されてはいたものの、既に10 MWの電解装置だそうで、それで上記の水素供給能力となると、単純にこれを拡大して主要エネルギーとすることはかなり困難とは感じました。いかにも、お金がかかっている感じではありました。しかし初めの一歩としては大変重要で、いつかこれが当たり前になる時代が来て欲しいものだと思いました。

ご存知のとおり、浪江町は福島第一原発のすぐ近く、距離にして8キロぐらいです。果たして行けるのかどうかも良く分からないまま現地に向かいましたが、米沢から現地までは自動車で普通に行けました。ただ、浪江町に近づくに連れて、驚く程車の数が減りました。実は線量計を持っていたので、途中の放射線レベルも測りながら行きましたが、途中帰宅困難区域を通り、そこでは車両内でさえ2.5マイクロシーベルト/時を超えることがありました(車外に出ると多分倍ぐらいです)。普通0.1ぐらいなので、25倍程(許容上限が年間20ミリシーベルト程度なので、ちょっと車で通ると病気になるとかいうレベルではありません)。途中見かけた民家は入り口が塞がれ、この10年時間が止まっていることが分かりました。道中の渓谷と紅葉はとても美しく、生活を奪われた人たちの無念さを思わずにいられませんでした。除染が進み、帰宅が可能となった浪江町の中心部では、線量は0.07マイクロシーベルト/時程度で、米沢と全く違いありませんでした。しかし、街は閑散としていました。実際に帰還した人は元の人口の10%にも満たないそうです。

浪江町には、去年オープンした「道の駅なみえ」があります。結構県外ナンバー(自動車だけでなくてバイクも!)がいて、にぎわっていました。

広くて綺麗で、ピカピカの施設です。地元の名産品の売店のほか、浪江で有名な「なみえやきそば」などを提供する綺麗なレストランもあります。なみえやきそば、食べました。正直に言って味はまあまあです。
他の道の駅のように、野菜があまり売って無かったのが少し気になりましたね。あっても買わない?生産者が戻ってきていない?短時間の滞在ではありましたけど、何だか異常な感じが街全体に漂っている感じはしました。一旦破壊されてしまった都市機能を取り戻す。ただ、元に戻るのではなくて、より良い未来に向けて街が活性化していく、それを実験的に目指しているのだという感じがします。この道の駅で最大の注目は、その電力が全てFH2Rの水素から供給されているということです。
設備の多くが恐らく地中にあるため、例えばデカい水素タンクとかは見えませんでしたけど、写真手前にあるのは恐らく調圧装置で、その奥が燃料電池です(違うかな?)。この設備は、道の駅の裏手にありまして、説明のプレートとか無かったので、どういうシステムになっているのかよく分かりませんでした。是非説明の看板を付けた方が良いと思います。この道の駅に行った人は必ず裏も見学しましょう!近くにはEVの急速充電器も5基あって、太陽光➝電気➝水素➝電気➝電池の系統によって完全にクリーンなモビリティーを実現出来ます。素晴らしい!でもこれを全国でやるというのは、当然困難なことですねえ。
帰路はもう一度放射線を浴びるのも嫌だったので、少し遠回りして、南相馬方面に北上し、宮城県をかすめながら山形に戻りました。道中線量は全く正常でした。恐らく津波で住宅が押し流されたと思われる平地には、至る所に太陽光発電施設が作られていました。ちっぽけな人間からすると、とてつもなく広大な太陽光発電が既に建設されていると感じるのですが、それでも我々の必要量の僅かしか供給出来ていないのです。まだ適地はあるようには見えるものの、2030年で-46%を実現するための再エネの倍増というのが本当に出来るのか、その困難さを感じずにはいられませんでした。

色々考えさせられた今回のツアー、行って良かったと思います。Fukushimaと聞くと、Chernobyl(チェルノブイリ)と同じくらい、国際的には行っちゃいけないところ、汚染されて危険な地域というイメージを持たれていると思います。福島産の食べ物も、例えば山形産と並んでいて、同じ品質同じ価格ならば避けられる方になってしまうのではないでしょうか?かく言う私自身も、今回本当に行っても大丈夫か、心配が無かったと言えばウソになります。例えば福島市に行っても、何か特別な異常を感じることは皆無ですが、今回浪江町に近づくに連れて感じた異様な雰囲気(例えば除染作業で出た大量の残土を見かけます)は、残念ながら普通とは言えないものでした。目に見えず、匂いも音もしない放射線は線量計によってのみ知ることが出来ましたが、はっきりと原発事故の爪痕は残っています。一方浪江町では生活の再建が始まり、線量も全く通常レベルにあることが確認出来ました。そこに長らく暮らしてきた人たちの願いはもちろんですが、より未来志向の豊かな地域を建設するために、皆が頑張っています。「大量の税金をつぎ込んで・・・」などと悪口を言うことなかれ。明日は我が身であったかもしれないのです。どう考えても福島が犠牲になってしまったのです。これを自分自身の問題として見れなかったら、単なる奉仕の精神であったら、問題の本質を見誤ってしまうと思います。なので、このレポートを見て関心を持った方は、是非現地を訪れて、福島の今、浪江の今を自分の目で見てみることをお勧めします。是非なみえ焼そばも食べてみてください。
写真一つおまけです。これが水素を運ぶローリーです。充填中なのか、配達先が無いのか、7台も停まったままでした。




125

 「125」この数字が意味するのは何でしょう?はい、私はオートバイが大好きで、特に手に余らず、使い切れるパワーで軽量な125ccクラスのバイクが好きです。高速道路は乗れないけど、バイクで高速道路走っても、ちっとも面白くないし、二人乗りだって出来るし、燃費良くて維持費安いし。今ウチ...