このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年5月9日日曜日

EVシフトを考える②

 EVシフトについての2回目です。前回紹介したEV推進の嘘、御覧頂いたでしょうか?長いので見るの大変だと思いますが、EVを取り巻く世間の理解に色々な誤解があることが分かるのではないかと思います。賛同する声ばかりではなくて、「変化を拒むとは何事か!」と批判する意見もあるようで、番組内で「EVがダメとは言っていない、EVだけにするというのがダメなのだ」という反論もされています。全くその通りだと思います。恐らくは自らEVユーザーとなり、「これぞ未来」とEVに心酔されている方などは、EVの良い面だけを見、一方で化石燃料を使う自動車の負の部分だけを批判したいのだと思いますが、ファナティックになってしまったら、カーボンニュートラルへの道を自ら閉ざすことになってしまうと思います。「あっちをやめて、こっちにする」という様な単純な変化で解決するわけはありません。自ら選択肢を狭める必要などないわけで、それぞれの場面で最適な手段を選びつつ、脱炭素に向けたトランジッションを確実に進めていくことが大切と思います。

私自身EVを所有したことはありません(電気バイクなら以前所有、使用していました)が、最新のEVを運転したことはあります。滑らかで力強い加速や静粛性の高さなど、多くの点でガソリン車を上回る良さはありますが、山形の様な地域では充電インフラが不十分な不都合もあり、デメリットがメリットを上回る印象です。また、EVは決してゼロエミではなく、製造時に多量のCO2を排出するだけでなく、当然電力もカーボンフリーではありません。そこでよく言われるのがライフサイクルアセスメント(LCA)による環境負荷を考えるべき、ということです。製造、使用から廃棄に至るまでのトータルで評価するということです。そうすると、現状ではHVに軍配が上がる様です。PHEVもダメです。動力源とエネルギー貯蔵容器を2セット積んでいるのは、明らかに非効率です。

それでも、使用の現場でCO2が出ないEVは、あたかもゼロエミッションであると誤解させる魅力を持っています。実際、以前訪れた中国の深圳ではタクシーやバスが全部EVで、混雑した都市でも排気ガスの臭いがしないのは明らかにメリットと感じました。自動運転も含めた自動車の電化に対する期待値が先行し、それを推進することで政治のリーダーも環境対策を短時間に分かりやすく説明出来るため、先述の大EVキャンペーン的な発表となったわけです。これに早速反発する様にして、トヨタ自動車社長、自動車工業会会長の豊田章男さんの怒りの会見がありました。

自工会豊田会長が全面EV移行に懸念 小泉環境大臣「脱炭素への考えは同じ」(テレ東BIZ)

現状、原発の多くが止まっている日本の電源構成では、自動車の生産に伴うCO2排出が多くなり、例えば同じクルマを原発比率の高いフランスで生産した方が良いことになってしまうこと、日本の路上にある450万台をEV化すると、原発を10基新造しなくてはならなくなること、などが語られています。拙速なEVシフトを進めれば、550万人の雇用を生み出し、GDPの10%以上を稼ぎ出している日本の自動車産業を破壊しかねないことになります。自動車業界として、決して2050年カーボンニュートラルに後ろ向きなのではないことは最初に豊田氏も語っています。政府には日本のエネルギー政策をどうするのか、それと一体でEV化についても国民と業界に対して責任ある道筋を示して欲しい、そういうことだと思います。もっともです。

さらに危惧されるのは、多くの人が日本のお家芸だと信じているLiイオン電池産業が、既に中国、韓国メーカーに奪われているという実態です。自動車用電池は、既にICT機器用の生産規模を上回っています。その生産からパナソニックが撤退し、韓国のLG、サムスン、さらにそれを中国のCATLとBYDが上回るというのが構図で、EV生産が伸びて一番喜ぶのは中国です。ディーゼルの失敗で一旦はEVシフトを大規模に進めるかの様だったEUは、EU内に電池メーカーが無いことに気付き、最近ではe-Fuelを真面目に語り始めています(相当先の技術です)。CATLは既にドイツに車載用電池の工場を持っていて、産業のグローバル化という点では、出自がどの国であろうと関係ない、とも言えるかも知れません。BYDの電気バスは既に日本の路上も走っていて、トヨタ自動車が出資しています。しかし、色々な場面で国際的なルールを無視する中国(例えば中国国内で販売するEVは中国製のバッテリーを積まなくてはならないというとんでもないルールを課している)をどこまで信用していいのか、という不安は残ります。

EVシフトの問題はまだまだ続きますが、今回はここまで。


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125

 「125」この数字が意味するのは何でしょう?はい、私はオートバイが大好きで、特に手に余らず、使い切れるパワーで軽量な125ccクラスのバイクが好きです。高速道路は乗れないけど、バイクで高速道路走っても、ちっとも面白くないし、二人乗りだって出来るし、燃費良くて維持費安いし。今ウチ...