このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年9月1日水曜日

貴金属フリー水素生成触媒?

 東工大のグループが、ごく低温でアンモニアから水素を生成する、貴金属フリーの触媒を開発したと報じられました。

貴金属フリーでアンモニアから水素を生成する高性能触媒、東工大が開発 | TECH+ (mynavi.jp)

かの有名な細野秀雄先生らのグループです。アンモニアを窒素と水素に分けるのですから、別にエネルギーを生産しているわけではないのですけど、少し冷やすか圧力をかければ簡単に液化するアンモニアは、水素に比べたらはるかに貯蔵輸送しやすいです。しかし、アンモニアを直接利用する燃料電池は触媒の不活化の問題があり、直接燃焼する場合もNOxの生成を抑制しなくてはならないなど、燃料としては水素の方が扱いやすい、という事情もあります。簡単なコンバーターで、液体アンモニアから水素を抽出できるようになれば、水素酸素燃料電池や水素エンジンを搭載した移動機械には大きなメリットになりますよね。

ポイントは、CaNH(カルシウムイミド)という物質の表面に、アンモニア分解触媒として知られるNiナノ粒子を担持したことにあるようです。CaNHにはNH2-が欠損した欠陥があり(水酸化物になっている?あるいはフリーエレクトロンがある?)そこにNH3が捕捉され、NがNiに強く引き付けられて低温での分解が進行する様になる、ということらしいです。NH2-はアンモニアから脱プロトンした化学種ですから、それを安定化するカルシウムイオンが大切で、NH2-の欠損したサイトにNH3が水素を放出しながら吸着され、Ni上でN2が生成するということでしょうか。

しかし、気になるデータが示されています。繰り返し実験でNH3が吸着されて水素が生成しているのは最初の3回ぐらいで、すぐに反応しなくなっています。同時に、欠陥に由来する黄色い着色が反応後に無くなっています。NH2-欠陥が無くなると、NH3は吸着しなくなると説明されています。だとしたら、それを触媒と呼んで良いのでしょうか?単なる化学反応であって、物質が消費されてしまっています。これは50℃くらいの低温での実験データなので、高温動作させれば欠陥が再生するのであれば、まあ触媒になるのかも知れませんけどね。この欠陥の挙動と末路を理解することが大切そうです。

1 件のコメント:

  1. 原田です.
    城石研究室時代の直属の先輩の論文でした.(米沢にも来たことあります)
    リンク先を見て驚きました

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