このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年9月7日火曜日

EVシフトを考える⑰

 ドイツ最大のモーターショーが、これまでのフランクフルトからミュンヘンに開催場所が変更になり、IAA Mobilityという名称のイベントとなって、9月7-11日の期間開催されるそうです。

IAA MOBILITY 2021 - MOBILITY OF THE FUTURE

そのジャーナリスト向けプレビューからのレポートがいくつか出ています。

VWやルノー、量販EV発表 独で自動車ショー開幕: 日本経済新聞 (nikkei.com)

上記日経のレポートにはビデオもあります。昨今の流れからの予測通りですが、ヨーロッパメーカー各社EVの新型車(やそのコンセプトモデル)を続々登場させました。日本メーカーは不参加ということで、例によってメディアは日本のEV出遅れ感を強調する様な書き方をしていますが、コロナ禍で集客が見込めない中、費用対効果が低いという賢明な判断なだけだと思います。EVで日本は遅れているわけではありません。しかし、吉利汽車に買収されたVOLVOのEVブランドPolestarはもちろん、NIOなどの新興中国メーカーはこぞって出展しているとのことで、EU市場への切り込みを狙う中国の前のめり感が分かります。

詳しい内容についてはまだ不明の点が多いのですが、出てきた新しい顔ぶれを映像から判断する限り、内容的には全く驚きがありません。というか、やっぱり心配している通りの誤った方向性が見えてきます。ドイツ御三家、ベンツ、BMW、アウディは、やっぱり大きく豪華で高性能なEVを出してきました。そういう恐竜型EVに未来が無いことは繰り返し主張している通りです。電池開発の現場でも、エネルギー密度やパワー密度を上げるために、色々な元素を使った材料開発が進められていて、一方では安全性を高めるという矛盾した課題を突き付けられています。コストとか省資源という観点はひとまず置き去りにされます。そして、その大量の電力をどうやって生み出すのかという観点も忘れられています。むしろEVはいかにコンパクトに軽く作り、小さくて安くて安全な電池でも十分に役に立つものを開発するかが持続性という観点からは最上位にあるべきと思います。それでは自動車メーカーは儲からないから、新種の贅沢を提供してそれを買って消費して欲しいわけですよね。でも、それが今に至る、そして将来危惧されている気候変動、環境危機の元凶なわけで、その考え方を改めることから始めなければ脱炭素は必ず失敗するでしょう。

唯一注目に値すると思ったのは、フォルクスワーゲンが公開した、ID.LIFEというコンパクトEVのショーモデル(まだ市販タイプではない)です。既に販売されているID.3がフォルクスワーゲンの主力車種であるGOLFのEV版という感じなのに対して、このID.LIFEはUPという一番小さいやつのEV版という感じでしょうか。日本で対比すると、ホンダのHonda-eに近いかな?詳しい内容はまだ分からないのですが、想定価格が2万ユーロ、260万円ぐらいということなので、大したサイズのバッテリーではないはずです。そこはHonda-eもコンセプトは同じで、いたずらに走行可能距離を伸ばしたりせず、EVはEVらしく、シティユースを中心として、無駄に大きくて重い、高価なバッテリーは積まない様にしましょう、ということです。しかし、Honda-eは500万円ぐらいする、馬鹿らしい程高価格なEVです(ギミックの類いが多すぎ)。それに対して、2万ユーロを公言しているのは脅威ですね。もっとも、ガソリンエンジンのUPは200万円を切りますから、EVは高価ということは変わりません。UPはリッター20キロは軽く走る低燃費車ですし、3分でガソリンを補給して500キロノンストップで走れるクルマです。だからまだまだ、ではあるのですけど、ID.LIFEには遥かに未来への可能性が感じられます。繰り返しVWの悪口を書いてきましたけど、結構真面目かな?と少し考え方を改めました。

で、日本のEV戦略は、やはりマイクロEVカテゴリーを新たに作ることから始めるべきで、行政のリーダーシップが大切と思います。電動キックスケーターとかも、レギュレーションが無いまま乱立していたのでは、産業としての方向性や成熟が果たされません。最初は、民間のアイデアに任せるのは良いでしょう。それで大体メリットと問題点がはっきりしてきた段階で、道路交通法の法改正も含めてちゃんとしたレギュレーションを作り、メーカー側の開発競争を促して輸出産業に育てるべきです。

その意味で、やっぱりマイクロEVはバッテリーサイズで制限をかけるべきです。20 kWh。それだけあれば、上手に作れば500キロ走れるEVも可能と思います。通常のLiBでも全固体でも何でも良いです。サイズも、安全性まで考えたら全長4 m、幅1.7 mまで許容して良いでしょう(ちょっと前の5ナンバーコンパクトカーのサイズ、これなら国際的にも通用する)。バッテリーのサイズが限定されていたら、無暗にクルマを大きく出来ません。軽くしたうえで、出来るだけゆとりのある室内空間を確保したり、走行安定性を向上したりする努力が進みます。それはこれまでの軽自動車開発において、日本メーカーが得意とすることだと思います。走行性能や航続距離を20 kWhの制限の中で目いっぱい向上させることが必要になります。そこに全固体電池の技術を導入するなら、それも良いでしょう。安い電池で賄うのもOKです。方法では限定をかけず、限定はバッテリー容量のみ。それを満たしたら免税として、普及を支援する。急速充電で5分で満充電出来る様になったとしても、全量が20 kWhであるなら過大な電力需要の増大を生じません。もし、そこに開発資源を集中して、2050年ゼロカーボンの時代に必要とされるEVを日本が先行して形にしたならば、きっとその時代にもモビリティー産業を担う国として、日本は元気で居続けられることでしょう。EUもアメリカも、恐竜EVに未来が無いことにはすぐに気づきますよ。日本は得意とするミニチュア化で先行すべきです。

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