クリーンなエネルギーキャリアとして、水素が注目されています。まずは石炭、石油、ガスなどの有機燃料の燃焼から、再エネによる発電と社会システムのオール電化、そして究極的にはカーボンニュートラルな化学燃料に戻る、というのが理想でしょう。なぜ化学燃料が優れているかと言えば、これは圧倒的なエネルギー密度の高さ(小さいけど力持ち)と貯蔵が容易であるという点です。エネルギー密度の高さという点では水素はとても良いですが、貯蔵は簡単ではありません。もう一つの水素の大きなメリットは、使用の場でゼロエミッション(水蒸気しか出ない)ことでしょう。すなわち、排気ガスの処理が事実上不要になります(NOxは多少問題?)。但し、どの様に水素を作るかがやはり課題で、工業的に大規模に行われている石炭の水性ガス反応ではCO2が出てしまいますから、カーボンニュートラルになりません。太陽光発電の電力で海水を電気分解する、などが必要になります。
さて、水素の話をしたら長くなるので、本題の水素エンジンに移ります。水素で走る燃料電池車としてトヨタは既にMIRAIの第二世代を一般向けに販売しています。水素をいつでも買える環境にある方なら購入を検討するに値します(高いですけど、補助金も沢山付きます)。燃料電池は、水素を電極上で燃焼して発電し、電気モーターを動かしますから、MIRAIは実質電気自動車です。これに対して、水素を従来のエンジンの様にシリンダー内で爆発燃焼させる水素エンジンも開発されています。歴史は結構古くて、BMWやMAZDAが試作車を出していたのは私もよく覚えています。今回、トヨタが燃料電池とは別に水素エンジンも開発を進めていて、それを積んだカローラスポーツでいきなり耐久レースに出るそうです。エンジンは、同社のGR YARISに搭載されているモノをベースとしているそうです。詳しくは、実際の走行動画も出てきますので、以下のYouTubeビデオ(モータージャーナリストの島下泰久さんと難波賢二さんが運営しているRIDE NOWというチャンネル)を是非見て下さい。
密着取材!トヨタ水素エンジンレーシングカー初テスト(RIDE NOW)
必ずしもエコの観点からの興味で話しているわけではないので、やれ内燃機関の振動とか音が・・・と新しい世代には古臭く思えるコメントもあるかも知れません(私は・・・とても共感します!)。驚く程普通に見えるところが(若干遅いか?)逆に凄いと思いました。従来のガソリン用に作られたエンジンで、燃焼を制御するだけで水素が使えてしまうわけです。プロパンガスで走るタクシーは昔からありますが、あれと同じで、マルチ燃料の自動車というのも作れてしまうかも知れません。当然水素(しかも、人工的に作った純水素で不純物無し)なら水しか排気しませんが、例えば液化アンモニアを燃焼して水と窒素を排気する内燃エンジンも将来可能かも知れません。
作りやすさ(一次エネルギーを再エネにすることを条件に)と貯蔵、運搬のしやすさ、そして将来のコストを考えた時、水素に限らず様々なエネルギーキャリアを検討できるだろうと思います。そして、それをパワーに変換する手段は燃料電池とは限らず、この様にただ空気で燃やしてしまうという選択もあるでしょう。トータルとしてカーボンニュートラルであることが大切ですし、例えば既存の自動車の燃焼制御をガソリンからメタノールに変更するぐらいならば、その自動車をまだまだ使い続けられることになり、LCA的なエミッションを低減できる大きな可能性があります。簡単に買い替えるわけにはいかない飛行機については、バイオ産生の低炭素燃料が既に検討されています。既にあるインフラを使い続けるというのもカーボンニュートラルに向けた重要な考え方で、必ずしも新しいモノに置換するのが最良なわけではありません。
もう一つ、内燃機関を存続させられる可能性として、水素だと2ストロークエンジンも有望?というコメントが大変気になりました。元々クリーンな水素ですから、多少燃え残りがあっても環境汚染しないことに加え、とても発火しやすいので、2ストロークとの相性が良いようです。古くからのバイクファンなら知っていると思いますが、2ストエンジンはとてもコンパクトでハイパワーなので、クリーンであるならば復活させるに値する技術だろうと思います。
未来のエネルギーの主役はまだ確定したわけではないと思いますし、「これが究極!」と一つに絞ることは可能性を潰すことになります。物質も技術も多様な選択肢の中から探し続けるべきでしょう。それぞれに、問題点はあるでしょうが、良さもあると思います。今回、水素を燃やすエンジンを通じて改めてそう思いました。まだまだ多様な可能性があり、とてもワクワクします。トヨタ頑張っていますね。
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