資本主義経済がもたらした膨張を基本とした社会活動の拡大と脱炭素社会は両立するわけもありません。しかし国籍や人種、宗教などとは無関係に共通する人類の願いは発展的で健やか、自分自身の成長を実感出来て、未来への夢と希望を持ち続けることの出来る社会であり、どれだけ沢山(使いもしないものを)所有しているかなどではなくて、どれぐらい世界は良くなり、自分自身はより良い人として成長出来るのか、にかかっています。これは今までにやったことが無い変革へのチャレンジであって、それをこれからの30年で達成したいと言っているわけです。
30年という時間は、既に55歳となってしまった私には、責任を果たすことの出来る制限時間を越えてしまっています。30年後も生きているかも知れないけど、既に傍観者(社会のお荷物?)と化していることでしょう。一方、今学生をやっている人たち(このブログを見てくれていると良いのですが)は30年経ってようやく今の私の年齢に達します。つまり、この大変革を実行する、その人たちです。
しかし、カーボンニュートラル社会の実現というのが、如何に多くの課題を含み、それらが複雑に絡み合い、全てのセクターからの参加と協力が欠かせないことであるのかは、これまでに取り上げてきたいくつかの事例を見るだけでも明らかです。創エネとか省エネとかそういう技術課題だけでなくて、食料生産だとか、社会の物流システムだとか、それらを運用する社会のルール作りであるとか、全てを変革していかなくてはなりません。そして、どうやったらカーボンニュートラルになりますよ、という答えを年寄の世代が持っているわけではない、ということも覚えていて欲しいことです。「先生、どうしたら良いんですか?」「先生、答えは合っていますか?」といういつもの問いかけに対しては、返事が来ません。過去の世代がしくじったからこそ、今までこの流れ、持続しない形での社会の膨張を止められなかったわけで、古い世代はその問題に一緒に取組み、考えること、なぜそうなってしまったのかを振り返ること、これは出来るかも知れませんが、これから30年の挑戦を担い、実現していくのは、今学生である世代だと思います。
そうすると、様々な分野において、高度な知識と技能を持った主導的立場を担う人の存在が欠かせません。すぐに年上に甘えて、助けを求める様な、ついていくだけの弱っちい若者ばかりでは困ります。大きな課題、チャレンジであると同時に、それを担い率いるスーパーヒーローを社会が求めているわけで、それこそ我が人生と前に突き進むパワーを持った次世代が強く求められています。言うまでも無く、大学院博士課程で学び、高度な専門性を持った人材です。未来志向の気持ちだけで出来ることではありません。一方で社会活動に直結しなくても「学問は人類の文化ですから」と言っていられた過去の博士課程(私の時代)とも違います。本当の意味で、社会のリーダーになる人、そういう人には高度な知識、技能、見識を持っていてもらわないと、その役割が務められません。なので、以前よりも博士課程人材は社会的実践的役割を担う人としてリアルに求められています。
そして、そのことを当然政府も意識していて、有識者会議から政府に対して博士課程学生の経済的支援を拡充(自己負担ゼロで学問の集中できる環境の整備)するよう申し入れがされました。
博士課程の学生に経済支援を ”若者が活躍できる社会”で提言 | NHKニュース
全ての分野が重要ですが、特に理工系における女子比率の向上が期待されています。それは、歴史的に女性を排除してきた負の遺産を清算するということであって、活用の機会を逃していた人材に道を開くという意味があるでしょう。
博士課程人材はどう変化しているのか、それは5年ごとにまとめられて、公表されています。
科学技術政策担当大臣等政務三役と総合科学技術・イノベーション会議有識者議員との会合 (cao.go.jp)
H18年度をピークとして、微減しています。H30年度でも7万4千人あまりで全体数はほぼ横ばいと言っていいですが、実は内訳が大きく変化しています。会社員をし、給料をもらいながら博士課程にも在籍する、いわゆる社会人ドクターが44%にも達する程増加していて、反対に留学生を含むコースドクターはピーク時の5万5千人から大きく下がって4万2千人ぐらいに縮小しています。少し古い2015年データですが、8大学理工系について、博士課程学生2200名のうち、半数は留学生で、特に理工系分野は留学生によって支えられていると言っても良い状況です。
PowerPoint プレゼンテーション (meti.go.jp)
受入側の問題、学位を有する高度人材を日本の社会が十分に活用できていないことから、留学生からも見捨てられる傾向にあり、ちっとも増えていないのが大きな問題です(留学生は稼げるかどうかで判断する)。入れ物は作り、施設は拡充しても、肝心の担い手はやってこない。社会システムの一部として博士課程が機能出来ていないというのが問題ですね。
しかし、それがゆえにこの現状が変わっていくということを確信を持って伝えることが出来ます。今、博士課程への進学を迷っている学生さんへ、「絶対に進学した方が良い」です。もちろん、高い志と情熱、特に今後30年の社会変革を率いるリーダーとなるのだ、という決意の下に学び、努力貢献してください。あなたに全ての期待がかかり、全てのチャンスが回ってきます。それ以上エキサイティングな人生があるでしょうか?社会人ドクターなんて、絶対やめてください。私は何人も見ていますが、社会問題に対する現状認識がしっかりしていたり、自分が必要とするスキルに対するイメージが具体的であったりする一方、考え方に全くダイナミックさがなく、リーダーになれる人が居ません(飼い慣らされた人だから無理もない)。コースドクターは、危ない橋を渡ったからこそ、自分を信頼して挑戦出来るのです。「戻るところ」がある人なんて、伸びませんよ。社会人は目的がいわゆる箔を付けることだけなので、その学問をどう飛躍させるとかいう考え方が無い。だから、今学生の諸君は、奨学金だけもらって(私の時代はそれも無かった)、何の保証もない世界に飛び込んで、チャレンジしてください。そこから自分の生き方を見つけられるかどうかは自分次第です。それをしない限り、本物にはなりません。今世界はそういう人を求めているのです。「経済的にどうの・・・」なんて絶対に言い訳に使っちゃダメですよ。志あるところに道は拓かれます。
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