このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年6月27日日曜日

EVシフトを考える⑭

 長らく続いた未来ネット「EV推進の嘘」のシリーズも、遂に第11回、最終回が公開されました。

『EV推進の嘘 #11』EV車とガソリン車 これから買うべきクルマは?(加藤康子・池田直渡・岡崎五朗) - YouTube

私は結局全部見ましたけど、結論としては賛同できない部分が多く、おススメは出来ません。ただ、私の主張に懐疑的な方は、御覧になるのも良いと思います。異なる視点があって当たり前です。

最初のうちは、中立的と思える語り方でしたし、データを元にした議論も「ナルホド!」と思わせる説得力もありました。メディアが報道する表面的な内容や、短時間で分かりやすいけど実はかなり歪んだ政治家の発言などに惑わされてはならない、と認識を新たにしたところです。しかし・・・総合すると、あまりにもこのご三方はナショナリスト的過ぎると思いました。自動車好きというのは良いんですけど、自分たちの都合の良いように他者に攻撃的になっています。さらに、気候変動の問題も、本当には信じていない人たちであるとも思いました。岡崎五郎さん、ファンだったけど、残念です。加藤康子さんは、グレタトゥンベリさんを「インチキ」の様に言ってましたね。

最終回の話、結論が傑作です。これだけ議論を尽くしてきたはずなのに、「国は何も規制をするな」みたいになっている。開いた口が塞がらない。それでいいわけないです。何のための議論?さらに、加藤康子さんの「どのクルマを買ったら良い?」の問いに、「好きなクルマを買ったら良い」なのも、いかにも自動車ジャーナリストらしい無責任回答でした。クルマが庶民の憧れの対象だったり、自分を表現するライフスタイルアイテムだったり、純粋にこれを趣味とする人が沢山いたりしたのは、ずっと以前のことであり、それらは全て終わっているんです。大半の人は、「(趣味として)欲しい」クルマを買っているわけではなくて、経済的条件や使用条件に最適なクルマを選んでいるだけです。それぐらい、ある意味日本における自動車の位置づけは成熟したとも言えるでしょう。そうすると、日常の使用環境(ガソリンスタンドか充電スタンドか、ガソリン代VS電気代はどうか、税制上の違いや補助金の有無は?)などが、車の大きさやタイプなどの他に重要な判断材料になります。すなわち、過剰なほどにでも政府がEVを優遇する様な事があれば、EVが優位になり、そちらに消費者が流れるのは当然ですし、それをどう誘導するのか、したいのか、したいならそれは何故か、正しいのか、をはっきりさせなくてはならない、ということです。岡崎さんの言う「俺は6リッターのV12に乗りたいんだ!」なんてことを思うのは、旧時代からの生き残り、もうすぐ死滅する恐竜世代だけで、その嗜好は未来の世代には全く影響を与えません。本来なら、そういうクルマに乗りたい人には重税ではなくて、e-Fuelを義務付けて、リッターあたり1000円の燃料代を払ってもらうのが一番良いと思いますが、世の中から安いガソリンを無くすわけにはいかず、安いガソリンが趣味の馬鹿野郎に悪用されてしまいます。何故安いガソリンが必要かと言えば、農機具や軽トラ、除雪機などの道具を動かすためです。田舎に来たら分かります。生活の足にも使われているけど、軽トラが本当に生活、仕事を支えている事実が。軽トラをEVにするなんて、しばらくは考えられません。除雪機も、あれだけのパワーを出すにはガソリンしかありません。そして、それらは安い燃料で動かせることが、まだこの先20年以上必要になるでしょう。だからガソリンスタンドは無くなっては困りますし、ガソリン価格も超重税をかけて高くされては困るのです(田舎の人が生活できなくなる)。一方で、都会に生息するその6リッターV12のアストンマーチンだかフェラーリだかは今すぐやめてもらう必要があります。リッター150円の安いガソリンで3キロぐらいしか走らないクルマね。ならば、やっぱり年間500万円ぐらいの重税とかで責任をとってもらうしかないですかね?

自動車ジャーナリストは、趣味としての自動車を信じていますし、クルマを好きだからこそ、やれこれからEVなんでしょ?とかHVとディーゼルのどっちが良いの?とか気にせずに「好きなのに乗ったら良いんだよ!」と言いたくなる気持ちも分かります。私自身はクルマ好きですから、その気持ちはとても分かります。しかし、EVシフトの是非の議論は自動車好きのためにしているんじゃないんです。そして、恐らく95%以上の人は、自動車に物凄くこだわったりしていません。それでも、自動車の保有率は高いのです。それは国民が皆自動車好きだからではなくて、本当に自動車が必要とされているからです。私が、それを確信を持って主張出来るのは、さらに趣味性が圧倒的に高く、実用上は全く不要な二輪車をこよなく愛する馬鹿であり、その愛する二輪車が絶滅寸前の状況になっていることを知っているからです。

日本におけるバイク(原付除く)の販売台数は最盛期の1/3程度に低下しました。さらに傑作なのは、購入する人の平均年齢が、二年ごとに調べられる統計で毎回ほぼ二歳ずつ上がっているということです。2020年の調査では、なんと54.7歳です!

国産車新規購入ユーザーの平均年齢が54.7歳に【自工会 二輪車市場動向調査】│WEBヤングマシン|最新バイク情報 (young-machine.com)

サザエさんのお父さんの波平さんの設定年齢が54歳だそうです。だから「バイク乗りは波平さん」と言われています。かく言う私はそれより一つ年上の55歳。保有するバイクは4台(1200のロードバイク、450のオフロードバイク、125のスポーツバイク、125のカブ)。ね、ドンピシャでしょ?要するに、私の世代でバイク趣味ってのは既に終わったのです。今や「バイクって良いものだよ!」という声には誰も反応してくれませんし、全く周囲は共感してくれません。いまどきバイクに乗る若い子は、かなり変わった子ですよ(偉いぞー!)。

バイクは、その小ささ、軽さゆえに、走行距離あたりの燃料消費は四輪車よりもはるかに少ないです。しかも、基本的にマニュアル、とっても趣味性の高い乗り物で、相応の身体能力が無いと安全に乗ることも出来ません。例えば、うちの1200のバイク、リッター30キロぐらいは普通に走りますよ。カブに至っては50キロ以上。どんなエコカーを持ってきてもこれらには敵わないでしょう。しかも、純粋に趣味で乗っています。だから、そういう趣味としての乗り物が欲しい人は、こういう選択肢だってあるのです。さらには、電動キックスケーターとか、先日紹介の三輪車Noslisuとか、バイクの良さを電動化することで、もっと環境に良いミニマルな移動手段ってのは可能で、二輪車を見直しても良いハズと個人的には思っています。まあそれはさておき・・・。

結局、この二輪車が辿った運命は、これから先にそうした趣味性の高い四輪車が辿るであろう運命を示しています。つまり、それが新たに生産されることは無いでしょうし(バイクの新型車は実質旧モデルの改良程度が多い)、求める人も極めて少ない。そして、それで良いんです。四輪車は特に趣味性など関係ない(自動車も大好きな私としてはとても寂しいですけど)。必要だから買っている人の方が圧倒的に多いわけですから。とするなら、それをどの様に変えていくのか、脱炭素を見据えた誘導をしていくのか、これは政府だけでなく、自動車産業に関わる人たち全てが真剣に取り組まなくてはならない課題です。両者は対立していてはいけません。協力しつつ、脱炭素時代のモビリティーをどうするのか、そこにどの様な先進的取組みをするのか、を考えてすぐに実行してもらいたいです。EUやアメリカがEVどんどんやっているから、EVで追いつき追い越す、ではないのです。日本が出遅れたのに、今さら同じことを考えて焦ることではないでしょう。日本の得意とする軽規格を基準として、例えばバッテリー容量を15 kWh以下に制限する代わりに税金ゼロのマイクロEVカテゴリーを新設すべきと私は思います。

趣味の自動車は・・・?博物館行きです。クローズドコースで、e-Fuel使って遊んだらいいじゃないですか。趣味でクルマに乗りたい人のためには、それらを末永く使える環境は残しておいて欲しいですね。バイクもフル電動化は難しいし、そもそも需要が無い(実用性で乗るものではない)ので、今のバイクはやっぱり博物館行きです。マイクロEVや電気スクーター、電動キックスケーターなどに置き換えられ、生活はそれで大丈夫です。極力小さいバッテリーで、発電所を沢山作る必要もなく電化を進めるのが一番スマートじゃないですか?水素製造は日本では土地が足らなくなりますから、それこそ日射条件の良い国で大量に生産してもらい、それを輸入するスタイルになるでしょう。そしてFCVが長距離レンジ、バス、トラックなどを担うことになります。さらには、船舶や航空機も水素で行けるでしょう。平地の少ない日本の環境を逆手にとった独自の戦略が日本には必要と思います。

まだまだ考えるべきことはあるし、行動を起こし、変化を導くことが政府や技術者の責任です。大学の我々も未来を先導する立場だし、その責任がある。未来ネットのお三方は、そういう意味で思考停止してしまっています。そして怒りの矛先を他国にばかり向けるナショナリストぶりを発揮しているので、ちょっと最後はガッカリでした。

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125

 「125」この数字が意味するのは何でしょう?はい、私はオートバイが大好きで、特に手に余らず、使い切れるパワーで軽量な125ccクラスのバイクが好きです。高速道路は乗れないけど、バイクで高速道路走っても、ちっとも面白くないし、二人乗りだって出来るし、燃費良くて維持費安いし。今ウチ...