このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年6月4日金曜日

EVシフトを考える⑩

 EVのハナシも遂に10回目になりました。あまり長く書きたくないですが、まずはモンスターEVの馬鹿らしさについて。スポーツカーメーカーとしてその名を馳せてきたポルシェはタイカン(「体感」じゃないよ)というEVスポーツカーを販売しています。そのレポートは動画等含めてあちこちあるので、興味のある方は見て下さい。きっと素晴らしい走行性能であろうことは疑いようがありません。実は私、ポルシェに乗っていたことがあります。997というコードネームの911というガソリンエンジン(3.6 Lで325 PSという控えめのヤツ)のクルマをなんと新車購入した馬鹿者です(その前にボクスターというのも乗っていた)。いや、相変わらず自動車好きなので、これだけは誤解の無い様に言っておきますが、確かに、20世紀に始まった自動車産業が進化し、物凄い自動車を生み出すまでになったことは事実で、そうした高性能車を生み出すこと自体が過ちだったと言うのはあまりにナイーブです。工業製品として正常に進化を続けて到達した極みと言えましょう。私が乗っていた911はギリギリまだ楽しいと言えるスピードであり、大変な感銘を受けた、自身の自動車経験の中で頂点にあるクルマであったことは間違いありません。文化文明テクノロジーの進化の象徴としては、高性能なスポーツカーは博物館にとっておかなくてはなりません。しかし今やヘビー級スポーツカー(やスーパーSUV)はそれを遥かにしのいで無用と断言できる程になってしまった・・・。自らの拡大を止めることが出来ず、遂に絶滅した恐竜を想起させます。これを続けたら自動車文化そのものが滅びるのです。乗り物としてのタイカンは恐らくポルシェ流に洗練されまくっていて、乗って悪かろうはずがありません。しかし・・・。

タイカンの最上級、ターボSというモデルは、静止状態から時速100キロまでの加速に要する時間がたったの2.8秒です。最高速度は控えめな260 km(ははは・・・)。93.4 kWhのバッテリーを積み、とても重いクルマなので、電費は悪く、実質3 km/kWh程度だそうです。電費の優等生はEVのパイオニアと言える日産リーフで、実質8 km/kWh程も走る様ですが、実は新型になって、若干ですが電費が悪化しているみたいです。客の要望に応じて豪華で大きくなり、モーターのパワーも向上すれば、当然効率は低下する。燃焼制御によって飛躍的に燃費が向上した内燃エンジン車は、さらにハイブリッドで大幅に効率向上しましたが、EVに関してはkWhあたりの走行距離は今後もさして伸びないでしょう。EVは元々効率が高いのです。エネルギー回生制御による伸びしろもさほどなく、むしろバッテリーが過熱しない様にチビチビと電気を出すのが一番効率向上に効果的です(出すのも入れるのも、小さい電流にすると損失が減るのがバッテリー)。EVが注目される様になって以来、その効率の良さは忘れ去られ、運動性能や航続距離ばかりが注目されている様に感じます。

で、そのEVへの注目を巻き起こしたのは、やはりテスラでしょう。今年登場した最新のEVスポーツカー、テスラロードスターは、あきれる程の高性能車です。普通のモデル(爆笑!)でも0-60 mph (96 km/h)の加速が2.1秒、オプションの「スペースXロケットスラスター」なるものを装備すると、それがなんと1.1秒(!!!)になるのだそうです。乗員が気絶しますけど、いっか、自動運転でしたね!最高速度は400キロを超えるそうです。カッコイイですよ、画像は以下にあります。

0-96km/h加速がたったの「1.1秒」! 新型テスラ ロードスターがロケット搭載!?  | clicccar.com

で、これがもちろん必要となる性能でないのは明らかです。必要かどうかの問題じゃなくて、一番凄いモノを手に入れたいという人の欲望に応えるということですよね。きっと色んな制御が入りまくって、危険な状態には陥らないのだと思いますが、スポーツしているのは自動車のほうであって、運転している腹の出たオッサンではないですよ!要するにですね、技術が新しくて考え方が古いのです。デッカイ液晶画面が付いてるとか、無線通信してるとか、そんなギミックはどうでも良いです。技術は最新の2021年製ですが、こんなものを欲しがる人は、20世紀型、恐竜時代の思想の古い人たちです。

もちろん、このロードスターはテスラにとってのシンボル的車両であって(こんなものをシンボルにするな、と個人的には思えど)もっと効率が良くて安くてコンパクトなEV(モデル3という車両)も主に上海工場で作っていて、販売が伸びているのはこちらです。日本での価格は429万円で、80万円の補助金が付くから実質349万円。テスラはさらに安価なモデルを準備していて、いずれ200万円を切るモデルも出てくる様な噂がありますが、性能、航続距離は妥協せざるを得ないでしょう(これは物理法則なので奇跡は起こりません!)。で、そんなのが出てきたら、日本車はやられるぞ!とテスラの凄さを強調する五味康隆さんのレポートがありました。

「このままでは日本車は本当にヤバい」自動車評論家が決死の覚悟でそう訴えるワケ (msn.com)

私はテスラを運転したことがないので、テスラがどうかを語る立場にはありませんけど、想像は出来ます。EVはある部分ではエンジン車に勝るでしょうけど、全てにおいてではありません。上記のコラムでは、上海の新興EVメーカー、NIOのことも書かれています。確かに、他国がやりたくってもなかなか実現出来ていないバッテリースワップ式(充電済みの電池と3分で交換)を導入するなど、見るべきところが多いです。自動運転技術についてもテスラ以上と言われています(しかし、レベル3以上の自動運転を可能とする法整備には時間がかかりますよ、中国以外は)。NIOのクルマが日本に入ってくるのは当分先(永久に無い?)でしょうから、全く馴染みがないでしょうけど、ご関心のある方はグローバルのウェブをご覧ください。

NIO - Home

これ、開発している技術者がほとんどヨーロッパから来ているみたいです(特にドイツ)。EUで実践出来ないことを中国政府がやらせてくれる。法律も実験に合わせて変えてくれる。なんと有難い!?今やこういう開発競争において、中国は計画経済の強さを如何なく発揮していると言えますね。でも、EUはさらにしたたかですよ。自動運転も全固体電池も危ないうちは全部中国でテストし、進化させて、最後はEUに持って行った上でアジア製品をシャットアウトします。なんでそんなことが可能になるのかは多分今回は長いので書けません。次回以降。そのうち。

NIOの全固体電池(2022年と言われる)は150 kWhだそうです。ワンチャージ1000 km以上を豪語していますが、実質はせいぜい600 kmでしょう(電費4 km/kWhとして)。でも、それなら1日で消費し切ることはなかなか難しいし、スワップステーションの数が足りれば3分で「満タン」になります。「本当?」と疑ってかかる人もあるでしょう。発火などの事故を起こす可能性はあるものの、技術的には高性能で長距離可能で半自動運転が可能なEVってのは、不可能ではないと思います。それなら従来の高級車市場がこれにどんどん置き換わって、発展するでしょうか?ある程度は行くかもね。恐竜世代は買うかも。しかし、こんなモンスターEVたちには未来は無いと確信します。

そもそも、そんな巨大なバッテリーは滅茶苦茶高い上に、大量の希少な化学品を要し、製造にかかる環境負荷が高く、大量生産などしてはなりません。さらに製造と使用に要する大量の電力を一体どの様に得るのでしょうか?これ以上化石燃料は使えないし、原発も少なくとも拡大は難しい。再エネは必要分を賄えるまで拡大するのが優先で、おもちゃで遊ぶために準備する程の余裕は無い。そして、そういう超高性能なEVが不要であるという事実にいずれ気づいて(それか恐竜世代が絶滅して)、大幅に伸びたりは絶対にしないと思います。そもそも、環境負荷など顧みずにスピードに酔いしれる恐竜世代は、1リットル1000円でもガソリンを買ったら良いじゃないですか。そしたら、昔のF1エンジンでも何でも使って、狂気の雄叫びを上げながらこれ見よがしに爆走したらいい(迷惑だけど)。太陽光発電による電力で水とCO2を還元して水素とCOを作り、フィッシャートロプシュ反応で合成グリーンガソリンを作ったらいいです(リッター1000円では買えないぐらい高い)。要するに、モンスターEVはそれと考え方が全く同じで、未来の無い乗り物だということです。

一番現実的で、有用なのは、トヨタが販売を予定しているC+podの様なEVです。

トヨタ C+pod | トヨタ自動車WEBサイト (toyota.jp)

二人乗りで、性能は控えめ、軽いから日常使用には十分な航続距離があり、バッテリーも小さいので安価、環境負荷低、充電速い、電費良い、良いことずくめです。先進的な運転支援や安全装置は当然入ります。これは二人乗りですが、四人乗りで少し荷物を積めるバージョンも出るでしょう。今や軽自動車だって十分快適なのですから、乗ってて危険を感じる様なことはないと思います。今日常的に使っているクルマをみんながこれに換えてくれたら、それだけでも相当低炭素が進みますよ。ただ、やっぱり電源の脱炭素が前提ですけど。電源が汚いなら、燃費の良い軽自動車やコンパクトカーと環境負荷はさして違わない。

「ちっとも面白くない?」そう思う人は少し恐竜の血が入ってますか?(かく言う私は明らかに恐竜の生き残りです)これだと持続するんですよ。だから価値がモンスターEVより高い、より先進的で優れている、普段乗っている大きすぎるクルマをこれに換えることはカッコイイ生き方である。そういうのが本当のEVシフト(思想のシフト)で、全然我慢や諦めじゃなくて、進化と成長ですよ。長距離の移動が必要な時はFCVをレンタルしたらよろしい(シェアリングでも良い)。こういうの作らせたら、日本はまだまだ強いと思います。ミニマリズム、盆栽、日本人の美学。だから、五味さんはテスラを美化し過ぎ。私は全然同意出来ません。本当にバッテリーをじゃんじゃん作ったら、地球環境は即死ですよ。その前に過ちに気付いて止まります。資源がもちません。だから、日本はどんどんこういうミニマルEVを開発して、街の景色を変えちゃいましょう。そしたら、アメリカも中国も、EUも入ってこれません。軽自動車にこそ、日本のオリジナリティーがある。その考え方は、今最も進歩的だと言えます。問題は・・・儲からないんですよ。小さくて安いクルマは利ザヤも小さい。そこを政府が助けてあげてください。モンスターEVには支援ゼロ、ミニマルEVは補助金タップリで、今の軽より買いやすいぐらいにする。ミニマルEVが進化すると、世界が(特にこれから需要が伸びる途上国の都市部では)「あ、あれ良いな」となって、強い輸出産業になりますよ(以前紹介したPCXエレクトリックからの上級移行)。日本国内で、早く電源のクリーン化を進めること。ミニマルEVを優遇する道路交通法の改正など、購入の補助金以外でも色々やれる支援はあります。モノ作って沢山売ることしか考えていない古い世代は発想が貧困なんですよ。だから恐竜は絶滅したの。もう食べ続けるのやめなさい。

本当はもっと書きたいことがあるのですけど、とても長くなったのでここらでやめます。EVのハナシはまだまだ続きますよ。




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125

 「125」この数字が意味するのは何でしょう?はい、私はオートバイが大好きで、特に手に余らず、使い切れるパワーで軽量な125ccクラスのバイクが好きです。高速道路は乗れないけど、バイクで高速道路走っても、ちっとも面白くないし、二人乗りだって出来るし、燃費良くて維持費安いし。今ウチ...