コロナウイルス感染が収束に向かう中、久しぶりに各国首脳が集まり、対面形式で行われた今回のG7サミットが、3日間の協議日程を終えて閉幕しました。菅総理からは、その成果について帰国後記者会見があると思います。日本政府としてその成果をどう評価しているのかは、その時に明らかにされると思います。会議の主要な成果や合意内容については以下に簡単にまとめられています。
G7閉幕 首脳宣言 “台湾海峡”に初の言及 五輪開催への支持も | G7サミット | NHKニュース
そもそも、自らを世界の主要国と言ってはばからないG7ですが、これをもって世界の方針が決定されたということではありません。強大な力を持った国家の仲良しクラブの会合であって、それを世界に示すことで反論できない仕組みを作ろうとする試み、と非難されても仕方がないところがあります。国連では逆に何も決めることが出来ない状況に陥るのが常であり、いかに世界には多様な考え方や事情が存在するのか、ある地域にとっては「当然のこと」が他の地域にとって「受け入れ難いこと」になるわけで、どちらが正しいなどとも言えないということを前提にこれらを読み解き評価する必要があると思います。
さて、今後一層具体的な変化が現れるのだろうと思いますが、就任以来「多国間主義」「アメリカによる国際秩序の回復」を掲げてきたバイデン大統領にとって初のサミット、その成果をバイデン氏自身高く評価しているようです。
バイデン大統領 “厳しい姿勢示せた” 対中国でG7各国の反応は | G7サミット | NHKニュース
新彊ウイグルや香港での人権問題非難、台湾海峡の平和と安定の重要性に言及、東シナ海の実行支配を強める動きへの警戒、「一帯一路」構想に対抗する途上国へのインフラ支援への合意、政治的な条件付けの無い途上国へのワクチン供与、など、多岐に渡って中国を非難し、これに対抗するという合意内容が報じられています。インフラ投資やワクチン供与など、豊かな国が当然果たすべき役割も含まれています。日本からは、これらを半ば当然のこととして、肯定的に評価する報道が多い様に感じられます。しかし、実はG7も一枚岩ではなくて、フランスのマクロン大統領は「G7は中国に敵対するクラブではない」と釘をさし、イタリアのドラギ首相は「地球温暖化やパンデミック後の復興については中国と協力する必要がある」など、特にEU諸国からは中国との関係をあまり悪化させたくない、という姿勢がうかがえます。さらに親中なのは、特に自動車業界が中国に多額の資本を投じているドイツだと思いますが、メルケル首相はバイデン大統領のアメリカがG7での協調路線に復帰したことを歓迎し、「素晴らしい」とコメントしたとのことです。トランプ大統領の時がひど過ぎましたからね。
さてさて、あからさまに中国非難を強めた今回のG7ですが、まあ事前の予想通りだったとは言えます。しかし、それ故に今後世界は協調どころか分断に向けて一層動くのではないかと心配になります。中国共産党からの正式な反発はまだ報じられていませんが、強く反発することでしょう。会議中には、開催国イギリスの中国大使館から「少数の国で操作されるべきではない」という反発コメントが発せられたようです。
G7サミット 最終日の討議始まる 中国への対応が焦点 | G7サミット | NHKニュース
これは、立場を変えて見れば当然のことであり、第三者的にも全くもって正当な主張と言えます。世界第二位の経済大国であり、15億とも言われる人口を抱える中国をさしおいて、自らを「主要国」と名乗るG7に対して、中国を非難し、指図する立場ではない、と言いたいわけです。G7では、北朝鮮の非核化問題やミャンマーの人権問題、そしてロシアの人権問題や平和を乱す行為に対する非難も発せられています。正直なところ、北朝鮮やミャンマーはこういう問題が無ければ議論の遡上にも上らない弱小国ですが、ロシアは歴史的に見てもG7とは異なる立場をとる大国です。これらを一方的に非難し、異なる立場に対しての理解を全く示さない上での国際秩序と平和を守る多国間主義というのは本当に可能なのでしょうか?特に中国からすれば、秩序を乱しているのはあなたの方ではないのか?となりますし、一方的に非難された上で「温暖化では協力を」と言われて協調路線が取れるとは思えません。互いの非難の応酬になってしまい、脱炭素が大きく遠のいてしまうことが心配です。そもそも中国が世界のGHGの3割を排出する様になったのは、世界中にMade in Chinaが溢れているからであり、GHG排出も含めて採算性の悪い製造業がどんどん中国に移り、様々な矛盾を中国が請け負うことで世界経済が急速発展した冷戦後の世界の構造にあります。もちろん、中国が経済的に大きく成長し、潤ったことは事実ですが、世界の工場として様々なDirty Workを請け負ってもらったという側面があることも忘れてはなりません。それがG7を含むその他の世界にとって必要なパートナーシップであるとするなら(そうでしょうね)、中国抜きの対話において中国を一方的に非難することは出来ないでしょう。民主主義対専制主義の対決であり、台湾や香港、新疆ウイグル問題など、個人を全く尊重しない中国の体制にはもちろん私も反発します。しかしその戦いをどこまで続けるつもりでしょうか?相手が降参して悔い改めるまでやるつもりならば、戦争になります。自らの主義主張とは異なったとしても、それが世界の多様性であると認めることは必要であり、一般通念に照らし合わせた人権問題に対する危惧の表明などは、国連に任せておくべきでしょう。
私には中国に住む中国人の義兄弟や義母、甥っこがいます(嫁さんは帰化したので日本人ですけど)。研究上で親密な付き合いのある中国の友人も多数います。その人たちは、邪悪なことを考えている悪の帝国の手先ではありませんよ。ほとんど私と変わることのない、普通に自分自身の成功や家族の幸せを願う心暖かい人たちです。確かにシステムとしての共産党一党独裁が引き起こす問題はあるとは思いますが、相互理解を深め、共存共栄の道を探るためには、15億もの個性がある中国を一つにまとめて非難する様なことを言うべきではありません。自分たちは見下され、尊重されていないと感じれば、どうやって対話の席につくことが出来るでしょうか?
さて、菅総理は自身の外交成果をどう説明するでしょうね?私は日本がアメリカへの同調を強め過ぎることには大きな懸念を抱き、不安を感じます。
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