このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年6月3日木曜日

PETM

 今回は古気候学のお話。先日5月31日に行われた第2回目のYU-SDGs cafeで講師のお一人だった東京大学の安川和孝先生からPETM (Paleocene-Eocene Thermal Maximum)についてお話をうかがい、ビックリしたのでそのことについて。今回のSDGs cafeはとっても面白かったです。地球温暖化について、3名の若手の先生が全く違う視点から講演されました。東京海洋大の稲津先生は気候変動データの実際について、九大の辻先生は炭酸ガスを地中に埋めるCCSについて。これらについては、私相応に理解がありましたので、より詳細を知る良いお話だったのですが、安川先生のPETMについては、その内容と起こった事をほとんど何も知りませんでした。確かに「地球は過去に凄く温暖化した時期があって、今の温暖化も自然現象の一つだから人為的な温暖化は嘘だ」と主張する人たちがいるのは知っていましたけど、実際に危惧されるのはPETMよりも恐ろしい変化で、やっぱり今の温暖化は自然現象なんかではないと思います。SDGs cafeを見逃した方は、YouTubeで見ることが出来ますよ。以下のページにレポートとビデオへのリンクがあります。私、大変興味があったので色々質問しちゃいました。

【開催報告】第2回YU-SDGsカフェを開催しました(5/31)|YU-SDGs EmpowerStation|山形大学 (yamagata-u.ac.jp)

さて、話をPETMに戻します。Thermal Maximumは良いとして、PaleoceneとかEoceneって何?Paleoceneとは「暁新世」(ぎょうしんせい)6600万年前から5600万年前の期間、Eoceneとは「始新世」(ししんせい)で5600万年前から3390万年前の期間だそうです。それで、丁度その間の僅か20万年(地球の時間に比べたら短い)ぐらいの期間に地球の気温が5℃から8℃ほども上昇したのです。これは地球上の生命を全く作り変える程の影響を与えましたが、何故それが起こり、そして収束したのかについては解明されていないようです。私がいい加減な説明を続ける前に、PETMに関する以下の10分程のYouTubeビデオをおススメします。私が大好きなHank Greenさんが軽妙な語り口でPETMを解説してくれています。上記リンクのWikipediaの説明読むのより楽だと思いますが、全編英語です。自動翻訳で日本語字幕出せますが、かなりハチャメチャな訳です。

The Last Time the Globe Warmed - YouTube

特に極地での気温上昇は凄くて、北極や南極の気温は平均23℃、水温20℃で、南極のビーチで泳げたことでしょうね。当然氷は無いどころか、今でいう熱帯雨林が極地にまで広がり、ワニ、カメなどの両生類やシダ類、イチョウなどの暖かい地域の植物の化石が実際に見つかるようです。逆に赤道付近の気温は36℃にも達し、生き物が暮らすには厳しい気候だったようです。なぜそれが始まったのかは良く分からないものの、鉱物の分析などから大気中のCO2濃度がスパイク状に急上昇していたことが分かっています。大量のCO2のために海洋が酸性化して、特に海洋生物が著しい打撃を受けた一方で、陸の生き物は生き延び、この時期に霊長類が台頭することになったようです(人類はまだ)。だから、仮にこれだけ気温が上がっても、生き物が全て滅びるかと言えば、そんなことは無いのでしょう。もしそうだったら私たちは存在していません。

この時期に形成された鉱物には植物が濃縮する12Cの13C(同位体)に対する比が上昇しており、大気中に放出されたCO2は植物起源であると考えられています。理由は定かでないものの、永久凍土のメタンハイドレートが溶けて、メタンが放出されてそれがCO2になったという説が有力です。年間17億トンものCO2が4000年間にも渡って放出されたと考えられ、この様な大きな気温上昇を招いたわけです。どうしてそれが終わったのかは良く分からないものの、シダ類の浮草が大量発生し、それが海に沈んで大気中のCO2濃度を低下させたと考えられています。だからまあ、自然に回復するということですかね。

そうした気温の上昇と低下が自然現象であるならば、不可避だし、心配してもしょうがない。今の人類社会に大きなダメージがあったとしても、生命は続いたのだし、きっと自然の回復力ははるかに強大なのだ、と思いたくなる気持ちも分かりますが、PETMと今起こっている温暖化は違います。それが先日の安川先生のお話でもあったのです。現在の人為的CO2排出では毎年98億トンとPETMの時期の5倍以上で、世界の平均気温も僅か100年で0.7℃も上昇してしまいました。PETMの時期には1000年くらいかけてそれが起こったので、全く未経験の速い気温上昇です。心配されるのは、この人為的影響による気温上昇がトリガーとなって、PETMの時の様にメタンハイドレートの融解が起こり、温暖化を一気に加速する正のフィードバックループが作用してしまうことです。最近シベリアで多数発見されているメタン爆発による巨大クレーターは、既にその始まりを示している様に思われます。だとしたら、PETMを超時短で見る様な気候の暴走をもう誰にも止められない?いや、恐ろしいですね。人類は未経験なものの、PETMを乗り越えて命がつながれたことは歴史が証明しています。ただ、我々人類が今の様に暮らしていくことは絶対に無理だろうと思います。

温暖化の暴走が起こると地球環境がどう変化するのか。少なくともそれはPETMが残した傷跡を調べることで分かり、今後を予測することが出来るのですね。でも、それ起こって欲しくないなあ。

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