このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年7月21日水曜日

「炭素クレジット」への懸念

 経済的な仕組みの中でGHG排出量の低減を進める手段として、GHG排出削減量をお金に換算して売買する「炭素クレジット」が検討されています。

「二国間クレジット制度」は日本にも途上国にも地球にもうれしい温暖化対策|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

上記の環境省のちょっと古い説明では、日本と途上国の間での二国間取引を例としています。例えば日本が資金と技術が伴わない途上国の開発のために、低炭素、脱炭素なインフラ等を導入するための資金、技術供与を行い、その結果削減されたGHG排出量を日本の削減にカウントする、というもので、Win-Winの関係である、と説明しています。これは、安倍政権の時から日本が狙っていた戦略で、日本の技術の売り先を拡大しつつ、日本はGHGを削減したことにしてもらう、という一石二鳥です(地球全体でもGHG減るんだから一石三鳥だろ、という言い分ですけど)。これを国際社会から認めてもらおうとしていたわけですけど、NOを叩きつけられ、低炭素ではなくて脱炭素が目標となったわけです(炭素クレジットでは脱炭素にはなりませんよね、取引する炭素が無いと機能しない)。

で、上記はGHGをお金にカウントするところまでは行っていないですけど、さらに小口なものも含め、あらゆる手段でのGHG削減量をお金でカウントし、それを取引することが拡大していく、というレポートがありました。

温暖化対策の炭素クレジット 需要急増で注目 国内外企業が活用 | 環境 | NHKニュース

そのうち動画も出るかも知れませんけど、色々な事例がこのレポート中でも取り上げられています。GHG削減を売ることが出来れば、これをビジネスとして積極的に取組める。また、何らかの理由によって、自らGHG削減を果たすことが困難な事業体は、炭素クレジットを購入することで、GHG排出量から購入分をオフセット出来ます。良いことずくめ?

しかし、この炭素クレジット取引で、本当にGHGが低減されるかは大いに疑問です。常に適正な取引ばかりであれば良いのですけど、商業取引の闇の部分として、如何に利益を拡大するかが常に優先され、粗悪品でも売れさえすれば良い、となってしまうからです。例えば上記NHKレポートには、アメリカの農家が収穫しない作物を栽培して、それを炭素吸収量として売る、という話が出てきます。そもそも、農機具を使い、水を撒き、化学肥料を撒き、農薬を使う現代農業は、GHGを大量排出する営みであり、光合成によって植物が成長することによる吸収分など全く取るに足りません。さらに、収穫しなければ、一旦固定化された炭素は再び環境中に戻ることになり、一番良くても「ニュートラル」にしかなりません。せめてそれをバイオ燃料にでもすれば、ニュートラルなエネルギーになって他のGHG排出を伴うエネルギーの使用を削減出来ますが、放置すれば肥料になったとしてもいずれCO2になります。すなわち、例え農機具や化学肥料を使わなかったとしても、最良でニュートラルであり、それを削減量として売るのは間違っているし、買ったとしてもGHGを「削減」したことにはならないです。森林の吸収にしても同じです。ニュートラルでは意味がなくて、「マイナスカーボン」になっていれば売り物になり、買った側の排出量から引き算しても良いことになります。でも、バイオマスでマイナスにはなりませんよね。実際には投入エネルギーゼロとはなりませんから、農業では常にGHGはプラスです。

大気中からCO2を回収する事業やCCSの様な事業は、本質的に「マイナスカーボン」を生産している(そのハズ)わけで、これならば売っても良い炭素クレジットと認められるわけですけど、今後色々とそういう類いの事業者が出てきた時に、それがどこまで本物か、という疑問が残ります。GHGの削減効果を精密に正しく評価することは極めて困難です。例えばCCSにはCO2を圧縮して地中に注入するのに大量のエネルギーが必要で、下手すると埋められるCO2の半分の量のCO2を発生させてしまうと聞きました。だとすると、埋めたCO2の全量相当分を炭素クレジットとして販売したら、CCSを行った業者は大量にCO2を発生してしまったことになります(半分量を売るならニュートラル)。あくまで、本当に削減している量だけが販売できる炭素クレジットです。炭素クレジットを稼ぎ出そうとする試みにおいて、真の削減量をきちんと評価する第三者にも透明なプロセスが無くてはなりません。

果たして国際的に統一された基準を作り、それを元にしたフェアトレードを実現できるでしょうか?世界中で取引される色々な商品の例を見れば明らかですが、炭素クレジットを沢山販売しようとすれば、それこそ値引き合戦が始まっても不思議ではありません。激安だけど粗悪品(実際のGHG削減効果が少ない、とか、最悪削減していない、増加している、などなど)みたいなものが出回ることを禁止出来るでしょうか?もしもそんなことが横行すれば、表向きは「うちはGHGを○○%削減しました!」の様な事を言いながら、実態としては全く減っていないという状況に陥りかねません。それは、ゴミ問題で、ゴミを貧困国に輸出して目の前から消し去り「処分した」と主張しているのと同じ様に聞こえます。その輸出されたプラゴミは、貧困国で適正に処分されているのではなく、放火されて有毒ガスになっているのですよ!

残念ながら、人のこれまでの行動パターン、そこに見える本性を考えると、炭素クレジット取引は詐欺の温床になり、悪用された挙句気候変動問題をより深刻化させかねないと大変心配になります。例えば、某国のコロナワクチンが全く効かないことが問題になっています。ワクチン外交でプレゼントしている(恩を着せられるのでこれもタダではないですけど)場合もありますが、買っている国もあるのです(きっと有名なアレよりもずっとお安いのでしょうね)。粗悪品を売りつける。でも安ければ買う人はいる。アマ〇ンで売ってる危険なB級リチウムイオン電池みたい…。GHG削減が少しでも本物ならばまだいいですけど、全くの詐欺が登場する可能性さえ考えておいた方が良いように思います。

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