このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年8月23日月曜日

本当に変われるだろうか?

 だいぶ間が開いてしまいました。ブログをやめてしまったわけではありませんよ。カーボンニュートラルに関わる話題や変化はとどまるところを知りませんので、まだまだ続きます。しかし、同じような話の繰り返しになっても良くないですね。脱炭素に向けて○○社が△△を宣言した、とかの話題は尽きないのですけど、その後どうなった?ということになると闇に消えていくケースが多いです。このブログをどのタイミングで見る様になるかは、色々あると思いますから、同様のインフォメーションが繰り返されることもそれなりに大切なのだと思います。しかし、個人的には近い将来へのもっと大きな潮流だとか、グローバルな動きをしっかりウォッチして、それを皆さんと共有しておきたいですね。

この間、夏休みなどもあり、家族と過ごす時間を多くとっていました。それが少し中断してしまった理由ではあるのですけど、実に多くの問題が直近の2-3週間の間に起こってしまったと思います。その全てをリアルタイムで追いかけていたわけでないため、どうコメントして良いかも分からず、小休止しつつカーボンニュートラル実現への課題を再考していました。

一番大きな問題としては、コロナウイルスの感染爆発でしょうね。実質的な感染拡大抑制の手段がワクチンしかないというのが日本の現状だと思います。法律を変えて、ロックダウンでもしない限り、第6波、第7波と繰り返されて、まだ2,3年は正常な状態には戻らないでしょう。そうこうしているうちに、永久凍土の融解で環境中に放出された未知のウイルスなど含め、次の感染症が世界規模で起こっても不思議ではありません。

そして、泣きっ面に蜂だったのは、西日本を中心に、ほぼ全国規模で起こった記録的豪雨と水害でした。2018年の岡山、2019年の長野、2020年の熊本に続き、今年は熱海の土砂崩れの衝撃がありましたが、それだけでは済まなかった。各地で記録を塗り替える降水量が報告されました。明らかに温暖化の影響であり、大気中の水蒸気量が増えたがために、雨の降り方のスケールが変わってきたということでしょう。繰り返される大規模水害に対して、集中豪雨発生の予測精度を高めることとか、治水工事を行うとかの議論はされますけど、根本の問題である気候変動についての議論には波及しないのが日本の意識のようです。

そして、この間起こった出来事で、実は一番気になったのは、タリバンによるアフガニスタンの掌握のニュースです。気候変動と全然関係ないし、脱炭素とは無関係と思われるかも知れません。しかし、これから起こるであろう変化や世界の潮流を象徴する出来事で、カーボンニュートラルな世界を実現することが到底不可能なのではないかと、さすがに気弱になってしまいました。コロナは乗り越えます。水害はむしろ脱炭素への動機になります。しかしそれら脱炭素実現への正の動機が十分であり、技術的努力によってそれが十分に可能であったとしても、世界を分裂させて、自らの社会を破壊することが避けがたい人の本性なのではないかと思われます。博愛主義、世界人類皆兄弟などは全くの嘘っぱちで、SDGsの達成など、絶対に不可能なのではないかと思えます。そうであるならば、カーボンニュートラル社会もやはり実現出来ないでしょう。一部の国家がそれを達成したと主張したとしても、それは目の前のゴミを片付けただけで、隣(貧困国)にゴミの山が出来ています。問題が「不可視化」されただけです。当然ながら、我々人類の存亡のため、持続性のある幸福な世界のためには、グローバルなカーボンニュートラル達成が必須です。

EUはタリバンのリーダーとの交渉の準備がある、と早速表明しました。対話しないよりははるかにマシですが、まともな法治国家が新たに誕生するとは到底思えません。民主主義とは対極にある、暴力が支配する無法地帯が生じると考えて良いです。相手は「ならず者」であり、自らをエリートと思っている国家、特にアメリカに対しては積年の恨みがあります。この状況は決して新しいものではなくて、冷戦下で列強の対立の場となって国土が荒廃しきった後に、その終結とともに見捨てられ、忘れ去られたアフガニスタンがテロリストの巣窟になり、そして2001年9月11日のアメリカ当時多発テロが起こったのです。今年あの衝撃的な事件から20年となります。あの時、私はパリに留学中で、研究室の仲間が"An airplane crashed into the world trading center in NY!" と騒いでいて、最初何のことだか分からず、テレビの映像を見て愕然としたのを覚えています。その後大規模な軍事作戦によりアフガニスタンは再び戦火に包まれ、タリバンは弱体化したものの、決して平和と安定、民主国家が成立はせず、アメリカの無責任な撤退によってならず者タリバンが暴力による支配を再び確立してしまったのです。

(注・追記;歴史についての認識が甘いので、正確な書き方をしていないと思います。1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻で戦ったのがムジャヒディーンという反政府組織で、これをアメリカが軍事的に支援します。その反ソの戦いに参加していたビンラディーンが組織したのが、アルカイダで、2001年米国同時多発テロの首謀者です。アメリカが育てた反ソ組織がテロリスト化してアメリカを攻撃したというわけです。で、結局これらが元になってタリバンという組織になっているようです。イスラム国とかも、結局分派というか、考え方や地域が異なる派閥が色々な組織を形成しているようです。暴力団とかギャングも派閥の分裂とか統合とか繰り返しますからね。テロ組織と認定されている組織はとても多くあり、複雑すぎて分からない。)

結局やっていることは同じことの繰り返し。起こってしまった問題からの学び、過去の過ちへの反省が全くありません。当事者が異なり、構図が多少違ってはいても、世界大戦以後も民族間の対立、不信に基づく紛争は絶えることなく続きました。列強はそれを忘れ去り(銃後の世界はそれを知りもせず)弱者は徹底的に傷つけられ、搾取の対象となって貧富の差は拡大し続けました。膨大な難民が生じ、住むところを奪われ、人生そのものを破壊された人たちは生きる力だけを糧に世界をさまよい続けます。直近では、ミャンマーの軍事クーデターも多くの難民を生むでしょう。恐怖政治が支配する非民主国家では、貧困な地域を支配する暴力的な政府に善良な市民が苦しめられています。恨みは募るばかりで、それを晴らしてくれるなら、テロリストはヒーローにさえなります。

その全てを正確に語れるだけには十分に学習していませんが、資本主義システムによる近代化が始まり、加速し続けたこの100年くらいの間に起こった世界各地での紛争、戦争、難民の大量生産の歴史を振り返ると、メンタリティーとしては全く進化しておらず、反省もなく、他者の失敗からも学ばず、人の欲望の暴走は止まらず、過ちを何度も繰り返していると思います。問題なのは、暴力の技術的手段はこの100年で大きく進化しているということです。貧困国のテロリストでも容易に入手出来そうな殺人ドローンなどはこれから起こるテロの姿を変えることでしょう。核兵器でさえ、テロリストが入手できないものと断言は出来ません。これだけ世界に核兵器が拡散してしまったのです。北朝鮮、インド、パキスタン、中国、ロシア、本当にその流出を絶対に起こさせないでしょうか?まともな国家間の戦争は、恐らく破壊的兵器によってではなく、サイバー攻撃によることでしょう。しかし、テロリストは相手を恐怖に陥れることを優先します。次のテロは、マンハッタンでスーツケース核爆弾が炸裂するのか、あるいは生物兵器が使われるのか。そんなことが起これば、世界は一気にその終わりへと突き進んでしまうことでしょう。

コロナのことも、豪雨と水害のことも、結局は人間の愚かさが自ら招き入れた問題としか思えません。ゆえに、過去を反省し、より良い世界を実現するために全人類が協力することなくして、持続性を最上位概念とした世界にはたどり着けそうにありません。だからSDGsはカーボンニュートラルの上位概念だと思うのです。そしてその実現というのは、過去の過ちからの学びの無さを思うと、残念ながら全くもって不可能としか思えないのです。

8月のお盆休みは、我々日本人にとって過去への反省を新たにする特別な時期でもあります。つい先日、博士論文を志す学生と対話していて知った衝撃の事実があります。「8月15日は何で休みなの?」「知りません」「!」終戦の日です。76年前、300万人以上の日本人が亡くなった太平洋戦争が日本の無条件降伏によって終結しました。「ところで、広島に原爆が落ちたのは何月何日?」「え?」8月6日です。8月9日が長崎の原爆。日本の大学生ならば、当然知っていると思っていたので、少なからずショックでした。学校で教えないから、満州で行われた関東軍731部隊による残虐行為(生物兵器開発)などを知らないのは仕方ないかと思っていましたが、今日に至る重要な起点である終戦がいつだったのかぐらいは知っていると思っていました。その学生を責めようというのではありません。それが今という時代なのだと認識を新たにしました。しかし、社会の忘却力の高さ、不勉強さ、都合の良いことだけを言い、聞き、信じ、都合の悪いことは意識の外に置く、興味ない。世界中でそれが行われているから、何度でも紛争や戦争は繰り返されるのです。

だからお願いです。このブログを見てくれている、志を持った若者たちは、是非自ら歴史を学び、外の世界に視野を広げて下さい。大戦からまだたったの76年なのです。平和が(日本に限ったことですが)100年も続くことなく、再び戦火に覆われるのではないかと心配です。その時は、きっと復興も出来ないくらいに、世界は破壊されつくすことになるでしょう。「カーボンニュートラルを!」などと言っていた頃が懐かしい、などとなっていないこと(口がきけるなら)を願います。まずは知ってください。そして、自らの頭で考えてください。「続くことを確信できること」が幸せの基盤であるという共通認識の下に、皆がより良い世界を創る当事者となってくれることを願います。


 

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