これぞ本当の脱炭素クリーンエネルギーと言える研究成果がNEDOからプレスリリースされました。
世界初、人工光合成により100m2規模でソーラー水素を製造する実証試験に成功 | NEDO
次世代エネルギーの本命と目される水素については、色々な話がありますが、よく調べると石炭や天然ガスから製造した水素(CO2が出てしまう)だったりします。しかしこれは太陽光のエネルギーで直接水を酸素と水素に分解し、その水素を回収する大規模実験に成功したというニュースです。人工光合成もついにここまで来ました!太陽光と水から燃料を作れるんですよ!
で、エネルギー問題は解決!とは残念ながらいかないんです。今回の実験で得られた太陽光から水素へのエネルギー変換効率は最大で0.76%とあります。一般的な太陽電池による太陽光から電気エネルギーへの変換効率が15から20%ですから、とても低い。しかしこの光触媒の反応量子効率はほぼ100%なんだそうです。量子効率と変換効率の区別が付かない人のためにちょっとだけ説明しますと、量子効率とは光触媒が吸収した光がどれだけ目的の反応に使われたか、の効率ということです。一方の変換効率は降り注いできた太陽光のエネルギーをどれだけ水素のエネルギーに変換できたか、の効率です。植物の光合成も量子収率はほとんど100%ですが、変換効率は0.3%程度です。それは自分が作ったエネルギーのほとんどを生きるために使ってしまうからで、食べたり燃料に転化出来たりする有機物への変換効率は非常に低いということですね。
一方、今回の光触媒の変換効率が低い理由は明らかです。写真を見て、パネルが真っ白なことから分かりますが、太陽光の主成分である可視光線を全く使えていません。使用されているチタン酸ストロンチウムという半導体は、太陽光に僅かに含まれている紫外線しか吸収できないのです。今後可視光も利用できる改良を進め(色が付くということです)、変換効率を5-10%程度に向上することが目標、とあります。もちろんね、でもそれが容易じゃないんです。恐らくは、太陽光発電の電力を使って水を電気分解する方がエネルギー変換効率はずっと高くなります。光から直接水を分解しようとするから効率が低くなる。
でも、どっちにしてもまだまだ問題があります。水電解の装置(光は使わない)は既に完成されていますが、その触媒には貴金属が使用されます。今回の人工光合成システムも、植物の様に有機物を使っているわけではなくて、全部無機材料です。チタン酸ストロンチウムの表面には、水の酸化と還元を起こすための反応の場所になる助触媒として、その表面にRh, Cr, Coの化合物が微量修飾されています。微量であっても、将来必要となるスケールを考えたら貴金属の使用は許容出来ません。しかし水の酸化と還元というのはかなり厳しい反応で、大抵の物質は水を分解しないで自らが反応して失われてしまうのです。それが貴金属を必要としている理由で、容易に代替物質は見つからないわけです。
今は貴金属を使ったとしても、実証をある程度のスケールで行い、展望を与えることが重要でしょうね。グレー水素が混ざったとしても、海外から水素を輸入して使用するインフラ整備を進めて、いずれ太陽光を利用したグリーン水素のコストが石炭やLNGに匹敵する状況を目指す。より現実的な取組みとしては、NEDOの支援と民間主体でそれが進められています。
NEDO、水素の輸入や発電を支援 CO2削減後押し: 日本経済新聞 (nikkei.com)
太陽光による安価な水素(あるいはアンモニア、ハイドロカーボン)の大量製造に向けては解決できるかまだ分からない問題が多く残されているわけですが、本当にサステイナブルな世界を実現するには絶対に避けられない課題なわけで、日本は真面目にそれに取組んでいるわけです。間に合うかどうかが大変な問題ですねえ。
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