このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年8月26日木曜日

CO2を吸収するTシャツ!?

 「このTシャツは二酸化炭素を吸収します!」そんな触れ込みだったので、驚きました。

大気中のCO2を吸収する、“藻”で染めたTシャツ | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD

英国のVOLLEBAKというメーカーが販売していますが(1着110USDと高価!)、ポイントはアメリカのLIVING INKというベンチャー会社が開発した植物プランクトン(スピルリナ)由来のインクを染料につかっているということ。通常黒い衣類は石油由来のカーボンブラックで染色されているけど、光合成によってCO2を吸収しながら育った黒色の藻を使うことで、その生育過程で吸収したCO2をずっと閉じ込めておける、という主張。さらに、「なんと着ている間にもCO2を吸収し続けるんです!」と上記の日本語レポートにありますが、それはウソ。ちゃんとVOLLEBAK社のウェブには

"Once the t shirt has been built and printed, the black algae ink continues to lock in the carbon dioxide that it absorbed when it was alive. And it will do this for over 100 years. So the t shirt you’re wearing is storing carbon emissions."

とあります。要するに、生きた藻がくっついているわけではありません。そりゃ洗濯出来ないでしょう。ウェブには”Hand wash with cold water”と指示もありますが、それは色落ちしやすいというだけのことでしょうね。

CO2を吸収する服というのが、実は他にも色々出てきました。

CNN.co.jp : 未来のデザイン 二酸化炭素を吸収する「生きた」服

これも「生きた服」ってのにビックリしますが、説明を見てる限りバイオプラスチックを使った安っぽいレインコートです。どこが生きているんでしょうか?色も付いていませんから明らかに光合成しません。カビでも生えれば生きていることになる?

お次は、ファッションの本場フランス。プジョーシトロエングループの高級車ブランド、DSとファッションメーカーのコラボだそうです。

表面を生きた藻でコーティング CO2を吸収する「光合成する洋服」の可能性 | ELEMINIST(エレミニスト)

まあ、カッコイイかどうかは個人の判断に任せるとして、「生きた藻でコーティングされている」のだそうです。であればこれが本命?でも、Tシャツは全体がコートされているという割には色が付いていないですよね。

こういうハナシを米英は単に金もうけに使いそうなのに対して、フランスの人ってこういうことを真面目に主張しそうな感じがしますけど、だいたい詰めが甘いというか、実効性が無いんですよね、フランスの製品には。コンセプトは良いけど、クオリティーが低い、という印象です。DSのクルマって、実際そうですよ。

さてさて、最初は「おっ、スゲー!」と思った今回のネタでしたが、どうやらカーボンニュートラル流行りに乗じたインチキ商品っぽいです。そもそもね、インクを作るのに天然産生の色素を使うというのであれば、伝統的な藍染がそうですよ(ジーンズのインディゴ色素)。あれは防虫効果もあるそうですね。で、コットンはどうですか?光合成で生産されていますよ。しかし、これらも現代においてはカーボンニュートラルかと言えばさにあらず。農機具使います。農薬も化学肥料も使います。さらに繊維を作ったり染色したりのプロセスエネルギーの投入も必要。最後は燃やしても生分解されても閉じ込められていた炭素は再び二酸化炭素になって環境中に放出されます。だから、バイオマスは最良のケースでもカーボンニュートラル(投入エネルギーを全て太陽光発電などで賄ったとして)、ネガティブにはならない。実際にはプラスです。

石油由来の合成染料を使わない様にするというのは、アリでしょうね。それも既に大規模に行われています。漬物とかに色を付ける食用の着色料は天然産生のものが多いです。実際の毒性がどうなのかは良く分かりませんが、やはりイメージとしても合成着色料よりもそちらの方が良いですよね。発色性や耐光性には劣るのかも知れませんが、体に直接触れる衣服の染色にも天然色素が良いのではないでしょうか。要するに草木染ですね。

着心地が良いとか、汗の吸収が良いとか、伸縮性があるとか、発色が良いとか、そういう理由で元々天然の素材で作っていた衣服が、いつの間にか合成繊維と合成染料に完全に置換されていた、それだけのことですか?持続性を考えたら、天然素材に回帰するというのは当然の流れでしょうか。ただし、エネルギーの収支も含めて本当に循環可能、持続可能な産業にしていくということが大切です。

そういう真面目な考え方を基準とすると、ちょっと今回の光合成Tシャツのハナシは単なる便乗金もうけとしか思えませんね。

0 件のコメント:

コメントを投稿

125

 「125」この数字が意味するのは何でしょう?はい、私はオートバイが大好きで、特に手に余らず、使い切れるパワーで軽量な125ccクラスのバイクが好きです。高速道路は乗れないけど、バイクで高速道路走っても、ちっとも面白くないし、二人乗りだって出来るし、燃費良くて維持費安いし。今ウチ...