このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年10月13日水曜日

EVシフトを考える⑱

 久々に、このテーマです。私事で恐縮ですが、実は最近新しいクルマを買いました。実際にはそれを購入することを決断したのは今年の2月のことでしたので、半年以上待たされました。コロナの影響もあって、生産が遅れたんですね。納車後1か月で既に4000キロ以上を走り、慣れたところです。で、その選択が物議をかもしていまして、果たしてカーボンニュートラルを語る人物がそんなもの使って良いのか?というお叱りに対して、反論したくもあり、そのネタで少し書きたいと思いました。

果たしてその選択は?実は自動車ではなくて、分類でいうとトラックです。ピックアップトラックと言われる、普通のクルマみたいにエンジンフードがあって、5人乗れるキャビンがあって、その後ろに荷台があります。もちろんEVではないですし、ハイブリッドさえありません。ここからが問題なんですけど、「エコカー」の一種に区分されることもある、ディーゼルエンジンの車両です。実は、長い車歴の中で、初めてのピックアップトラック、初めてのディーゼルでした。燃費低減策としてはアイドリングストップがある程度、DPFも尿素洗浄もあるので、排ガスはクリーンです。2.4Lですけど力持ちで、重たい車両をちゃんと走らせます。ここまで説明したら、知っている人はどのメーカーのどの車種かもう分かりますよね?

で、なぜそれか。実はその前に乗っていたのは、フィアットパンダというクルマでした。4輪駆動で、雪にはめっぽう強く、とても小さいのに実用的で乗り心地も良く、大好きだったんですけど、たった5年にして、あり得ない様な故障が発生し、その信頼性の低さに手放しました。エンジンはたった0.9 Lの2気筒ターボで、燃費はだいたい16-18 km/Lぐらいは走っていましたから、経済的でした。ただし燃料は高価なハイオクガソリンです。それで、そのクルマを予定外に手放すことになり、しばらくは自動車無し生活をしておりました。まあ、嫁さんのクルマがあるのと、いざとなったら使えなくもないキャンピングカーがあるので(巨大で燃費悪いので、旅行以外は基本的に使いません)何とかならなくはなかったのですけど、雨の日にちょっとそこまでにも足が無く、やはり不便極まりなかったです。ただ、トンデモナイ高性能車まで過去には乗り、軽トラックにも乗り、結局ミニマリズムに行き着いて喜んでいたパンダがあんなことになりました(華奢なクルマはもう嫌!)。さらには、世の中ではEVシフトが叫ばれ、カーボンニュートラルへの変革ははっきり不可避なものになる中で、今、どういう選択をするべきなのか、についてはなかなか結論が出ませんでした。自動車の無いライフスタイルというのも、考えられなくはないのでしょう。ただ、年間に凄い距離を走る「移動バカ」である私にとっては、移動の自由がいつでもあることは、やはり必須でした(そういう意味では、確かに私は悪者です)。一方で、どう考えても、今選ぶべきがEVとは思えませんでした。やれパワーがどうの、とか、自分でギア変えるマニュアルじゃなくちゃ、は、だんだんどうでも良くなりました。一方で、頑丈で長持ちすること(使い減りしないこと)、トラブルを起こさないこと、いつでも頼りになること、はとても大切と思いました。ここ米沢の冬はいつも豪雪。当然四輪駆動でないと安心出来ません。それから、確かに一人で乗る時には無用にデカいのですけど、子供がどんどん大きくなり、活動範囲が広がる中で、家族を安心して乗せられること、荷物が沢山積めること、特に魚釣りとかスキーに行く時にはオープンデッキが便利、ということで、上記選択となったわけです。

で、私のケチ臭い運転のお陰もあると思うのですけど、全く期待以上の燃費の良さで、この4000キロの平均燃費が14 km/Lを超えています。これはメーカーの公表しているカタログ値を大きく上回ります。最高では15.7 km/Lを記録しました(ちょっとエラー入ってると思います)。ご存知のとおり、軽油はハイオクガソリンよりもリッター当たり30円くらい安いので、燃料代はパンダよりも少なくて済みます。利便性も期待以上で、アウトドア用品の積み下ろしは物凄く楽です。雨で濡れるのが問題ですけど、何とかなるものです。ということで、メデタシメデタシ、で終わったら単なる自慢話になってしまいます。ここからが本題。

燃費が良くて、軽油が安いからディーゼルは経済的なのはともかく、本当にエコか?というのが問題。とある自動車狂が「ディーゼルはリッターあたりでガソリンよりもずっと多くCO2出すんだぞ!そんなの買うんじゃない!」と言うわけです。本当でしょうか?「ずっと多く」は考え方次第ですが、実際リッター当たり10%ぐらい余分にCO2を出します。

資料4 燃料別の二酸化炭素排出量の例 (env.go.jp)

ところが、熱量当たりだとガソリンと軽油ではほとんど同じ、それから重量kg当たりのCO2排出量もほとんど同じになります。実は「軽油」なのに、ガソリンよりも重いのです。要するに、エネルギー密度の高い燃料なんですね。厳密に言うと、炭素と水素の比で、軽油はガソリンよりも若干炭素比率が高いので、熱量に対するCO2排出もほんの少し多いのですが、それは無視できるレベル。日本で軽油がガソリンよりも安いのは、税率の違いだけなので、軽油の方がガソリンよりも粗悪品なわけではありません。ただ、いわゆるプレミアムガソリンが高価なのは生産コストの問題と思われます(添加剤が入っている)。ということは、LCA的にも環境負荷がレギュラーガソリンよりも高いことになりますよね(誰かご存知ですか?)。

じゃどうしてディーゼルがエコカーと見なされるのか?これは単に効率が良いからですね。圧縮すると自着火する軽油は完全燃焼させやすいです。ガソリンはスパークプラグで点火する必要があり、HC(燃え残りの炭化水素)が出やすいです。なので、ガソリン自着火を目指したマツダのSkyactiv-Xが登場したわけです(以前このネタ書きましたよね)。比重の違いを考えると、容量当たりのCO2排出量を比較するのは適切とは言えません。資源量という点でも、重量当たりで考えるべきでしょう。そうすると、ガソリンと軽油の間には差はナシ。一方で、特に重量級の車両については、ディーゼルエンジンの燃費の良さは圧倒的です。実は、上記キャンピングカーはレギュラーガソリンの2.7Lの自然吸気エンジンです。重い車重に対して動力性能はギリギリ。燃費も頑張っても8.5 km/Lが限界です。あの大きさにしては燃費は悪いとは言えませんが、やはり大きく劣っていると言わざるを得ません(km/kgに換算しても、ディーゼルとの対比ではガソリン車の燃費を1割増しに見る程度ですから、絶対逆転しません。一般的に同クラスの車両でディーゼル車の燃費はガソリン車の二割以上高く、私の場合はほぼ倍でした、車両の大きさ若干違いますけど。)。お財布に対する負担の違いは圧倒的です。上記のとおりで、今回購入したトラックが、その巨体に似合わず小食なのは、ディーゼルエンジンのお陰と考えて間違いありません。トランスミッションの出来も良いため、内燃エンジンでやれる可能な限りの高い効率を達成していることは明らかです。

ならば、対EVではどうなのか?それについては、面白い比較記事がありました。

ディーゼル、 EV、ガソリン 本当にエコなのはどれだ!!! これで決着!!?? - 自動車情報誌「ベストカー」 (bestcarweb.jp)

これ、ディーゼル押しをしているマツダがやったスタディーなので、ちょっと公平なのかどうか怪しいところはあります。ただ、EVが全く優位ではないことは間違いないと思います。特に走行距離が少ないことが多い日本の使用環境では、EVは余計に不利になるでしょう。バッテリーの生産に伴うCO2排出量は技術革新とそれに用いる電力のクリーン化によって大きく改善するでしょうし、一番重要な電源のクリーン化によっては、EVの成績はずっと良くなる可能性はあります。ただ、現状で見ると、例えば石炭依存の高いオーストラリアでは、何十万キロ走ってもEVが優位になることはない、ということでした。日本も、一般的な買い替えまでの走行距離(13万キロ)の最後に逆転出来るかどうか、のレベルです。現時点においては、全くEVの優位性は無いというのが事実なのです。

さらに悪いのは、EVのバッテリー大型化と急速充電への欲求です。航続距離を伸ばし、充電にかかる手間を減らす。もちろんユーザーサイドからすれば当然の要求と思えます。しかし、充電している時の携帯電話は熱いですよね?当然電気にも損失があって、急ぐ程損失は大きくなり、バッテリーの寿命も縮みます。無用に大きいバッテリーを生産すれば、それに伴うCO2排出も大きくなります。だから、以前から主張する様に、EVは短距離移動のマイクロEVが良いのです。私の様な移動バカに対しては、ガソリンのハイブリッドか、ディーゼルか、が今日での現実的な選択となります。そして、ディーゼルの効率の良さは、オーナーとなり、実際に使用して実感しております。

ただ、それだからCO2を沢山出す内燃エンジンを使い続けて良いということではありません。EVの進化、電源のクリーン化は当然重要です。そして、やはり究極は水素燃料電池。これについては、燃料電池そのものの脱貴金属、低価格化に加え、どこでも太陽光由来のグリーン水素を買える様になることが必要ですね。それにはまだ10年でも足らないです。それぐらい難しい課題です。そうすると、今のトラックを捨てずにずっと使い続けることが、ひとまず最良と思えます。水素トラックもグリーン水素も買える様になった時に、自分がまだ自動車で飛び回る元気があれば、その時は買いますよ。ただ、その時代を迎える前に免許返納するかな?でも、私の次のクルマはもうどうでも良いんです(出来ればもう買いたくない)。ただ願うのは、そうして自動車を使って移動することの喜び、子供と一緒に釣りに行ったり、キャンプに行ったりする喜びを未来の世代も楽しんでいて欲しいということです(運転に没頭するなら、やっぱりバイクが良いぞ~!)。そのためには、それを持続可能な手段に置き換えることが絶対に必要ですよね。悪い大人ですいません。まだ石油燃やしてます。

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125

 「125」この数字が意味するのは何でしょう?はい、私はオートバイが大好きで、特に手に余らず、使い切れるパワーで軽量な125ccクラスのバイクが好きです。高速道路は乗れないけど、バイクで高速道路走っても、ちっとも面白くないし、二人乗りだって出来るし、燃費良くて維持費安いし。今ウチ...