このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年11月12日金曜日

EVシフトを考える⑲

 いよいよ明日でCOP26も閉幕となりますが、果たして意味のある、そして拘束力のある国際的合意に到達することが出来るでしょうか?石炭火力発電からの脱却、排出権取引の国際的ルール取り決めなど、議長国イギリスとしては、絶対に有効な国際合意を得たいところでしょうが、明らかに各国の思惑が大きくずれるところであり、極めて難しいと思われます。

脱炭素の切り札であるかの様に扱われ、やはり国際的な取り決めが試みられているのが、EVへのシフト、ガソリンやディーゼル車の廃止とその時期です。石炭火力廃止ではそれに依存するしかないインドネシア等が反対姿勢ですが、いざガソリン車の禁止となると、今までの勢いはどこへ行ったのか、主要自動車生産国が反対の姿勢(合意に不参加、というだけですけど)です。

COP26 電気自動車などに移行のための行動計画まとまる | COP26 | NHKニュース

主要市場では2035年までに、世界全体でも2040年までにガソリン等を使用する自動車の販売を禁止し、全てEVや燃料電池車に切り替える、という計画について、英国、カナダ、スウェーデン、チリ、カンボジアなどの23か国が参加に対し、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、中国などの主要な自動車生産国は不参加、というのが面白い、というか正直な結果です。英国、スウェーデンは結構自動車を作っていますけど、チリ、カンボジアって?自動車がその国の主要な産業となっていない国は、売っちゃいけないというルールを作るだけですから、何とでも言えるでしょう。しかし、自動車を取り巻く技術と資源の現実を知っている国、日本、アメリカ、中国だけでなくて、あれ程EVに前のめり姿勢のドイツやフランスも不参加なのです!それから、日本のEV比率が低いのは当然として、中国はその台数で圧倒的ナンバーワン、新車販売に占める比率も4.4%とほぼEUと同じであることは驚きです。一体どこでそんなに沢山のEVを充電しているのでしょう?石炭の電力使ってですけどね!環境ファナティックなスウェーデンや、EVなんてまだ全然走ってないカンボジアが賛成し、現実を理解している国は反対する、当然こうなりますねえ。

COPで合意されたルールは絶対に守られるべきです。努力目標であって、出来れば達成したい、ではダメなのです。でなければ、あれ程の努力を払って国際会議を開く意味がありません。ドイツやフランスも、そのことを理解し、尊重しているということでしょう。出来ない約束はしない、ということです。EVの充電インフラや水素ステーションの整備まで含めて、世界の一部では2035年にガソリンをやめることは可能かも知れません。しかし、グローバルにとなれば、それは2040年でも絶対に無理でしょう。もしも、現在の自動車生産国が、ガソリンやディーゼル車の開発生産販売をやめてしまえば、途上国からはモビリティーが失われることになります。そんなの絶対無理なのです。そもそも、リチウムも、コバルトも足りませんし、供給する電力や水素を完全クリーン化することも無理です。

EUがEVシフトを戦略的に進めていることは、このブログで繰り返し取り上げている通りです。それは本当です。先日のNHK BSの国際報道でも、Northvolt社の戦略が紹介されていました。今度の日曜日のNスぺは、「EVシフトの衝撃」というタイトルでEVの話題が取り上げられます。例の「日本は出遅れてはならない!」の論調にならないことを期待しております。影響力が大きいので、変なことは言わないで欲しい。技術を担う人たちは、精一杯真面目に考え、頑張っていますよ。100 kWhの化け物みたいな電池を積んだEVが未来だなどと言ってはなりません。まあ、どういうまとめ方になるか、注目です。予告は以下で見れます。

「EVシフトの衝撃〜岐路に立つ自動車大国・日本〜」 - NHKスペシャル - NHK

続きです!NHKのウェブに、上記の2040年までにガソリン禁止の詳細が書かれています。

“排出ガス車ゼロ2040年までに”なぜ日本は参加を見送ったのか | COP26 | NHKニュース

参加国のリストが全部書かれていますけど、思わず笑っちゃいます。オランダなんかは「マジか?」と思いますけど(自動車産業に相当食い込んでいる国なので)、ポーランド?ポーランドも相当クルマ作っていますよ。それで、石炭火力の割合が凄く高く、EV充電のインフラ整備も相当遅れている。自ら、自動車の無い生活に戻っても構わないと宣言している様なものです。これらの国々は、電源のクリーン化とEVインフラ整備を全てやる覚悟があるのでしょうか?その大半は、当事者意識が低いので、主要自動車生産国に対して「やってよ!」と言っているだけと感じます。全く実効性の無い国際合意ですね。

もう一つ、二つ、上のレポートで気になることがあります。まず、NHKはミスリーディングな書き方をすべきではありません。「日本はハイブリッドを含めた形で脱ガソリン車を図ろうとしていて・・・」とありますが、ハイブリッドは「脱」ガソリンではありません!ガソリンを効率良く使う、というだけです。で、それは正しいのです!CO2を減らす手段として、明らかに実効性があります。でも、「脱」と誤解されてはなりません。今COPで議論しているのは、いつまでに脱するか、の議論なのです。だから日本は脱ガソリンには後ろ向き、それは事実ですが、現実的選択でもあります。だって、世の中にまだグリーン電力やグリーン水素が無いのに、自動車だけEVやFCVにしても「脱」にならないじゃないですか!

もう一つは、ホンダ技研の大津社長のインタビュー。最後の「さみしいですけどね…」この言葉を社長が言ってしまうようであれば、今後のホンダにはやっぱり期待出来ません(個人的には大好きなのによお!)。F1で培った技術を総動員して・・・とか全然響きません。エンジンでZEVは無理、とか言わないで欲しい。e-Fuelを作ったら良いじゃないですか!トヨタの水素エンジンは、「どうせ無理」なことをやっていると言うの?水と二酸化炭素と太陽光からガソリンを作れるようになれば、V12気筒のF1エンジンを高らかに歌わせたらいい。それが技術者の夢ってものです。諦めムードの中でEV化を進めるというホンダには、大変落胆します。自ら人工光合成にもチャレンジして、吉田研の学生を雇ってよ!

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125

 「125」この数字が意味するのは何でしょう?はい、私はオートバイが大好きで、特に手に余らず、使い切れるパワーで軽量な125ccクラスのバイクが好きです。高速道路は乗れないけど、バイクで高速道路走っても、ちっとも面白くないし、二人乗りだって出来るし、燃費良くて維持費安いし。今ウチ...