気候変動に関する政府間パネル、IPCCの、第3作業部会(WG3)の8年ぶりとなる6次評価報告書が公開されました。WG3は気候変動の緩和、必要な対策の提言と効果の見積もりに関するので、これからの社会生活がどう変わるのかを予測する上で大変重要です。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第3作業部会報告書を公表します (METI/経済産業省)
“温室効果ガスさらに排出削減を” 国連のIPCCが8年ぶり報告書 | NHK | 環境
炭素半減に最大30兆ドル必要 IPCC、再生エネに投資促す: 日本経済新聞 (nikkei.com)
IPCC報告書要旨「CCSで1兆トン貯留可能」、障壁は多く : 日本経済新聞 (nikkei.com)
予想できた通りと言えば、その通りなんですが、極めて残念で厳しい内容となっています。まず、これだけ世界中で気候変動対策の重要性が認識されている中でも、年間のGHG排出量は世界全体では増え続けている(=温暖化の進行は加速している)ということを認識していなくてはなりません。一部の地域では再エネ導入、エネルギー効率向上、製造業の他国へのシフトなどにより年間GHG排出量は減少に転じていますが(出していないということではないですよ)、新興国や途上国におけるエネルギー消費増大がこれを打ち消して、世界全体では相変わらずGHG排出の伸びは加速しています(ここ10年ぐらいはやや「伸びが鈍化」している程度)。世界的なコロナウイルス感染拡大の影響で、2020年は少し減少したものの、やはりリバウンドして、2021年は過去最大を記録したそうです。さらにウクライナへのロシアの軍事侵攻が始まり、世界は協調どころか対立を深めています。暴走列車はスピードを落とすどころか、その終わりに向けて加速を続けています。
そのうえで、気温上昇が正のフィードバックループに乗って後戻り出来ない状況とならないための限界値、Tipping Pointと考えられている、産業革命以前からの気温上昇を+1.5℃以内(現在既に+1.1℃)に抑制するためには、2025年までに(あと3年!)減少に転じ、2030年には2019年比で-43%、2050年に-84%の大幅削減が必要である、と結論されています。「あれ、日本は2030年に-46%、2050年に-100%(カーボンニュートラル)だから、楽勝じゃん!」とか思わないように。これはグローバル、世界全体で、という意味です。エネルギーインテンシブな製造業を他国に押し付けて、非製造業分野での経済成長を担保した上でのGHG削減を一部の先進国が果たしたとしても、それは他国でのGHG排出増に貢献しているだけで、グローバルな削減には貢献出来ていません。この報告を受けて、国連のグテーレス事務総長も、やはりウクライナの戦争のことに言及しています。エネルギーや穀物の価格を押し上げて、国際的な協調をより困難にすると予想されます。エネルギー価格が上がれば消費が落ち込んでGHGが減るかと言えば、さにあらずです。効率やGHG抑制が後回しになり、世界の分断と対立がエネルギー獲得合戦に影を落とし、GHG排出を加速させます。実際、ロシアからの天然ガス禁輸を視野に入れて、ドイツでは封印する予定だった石炭火力発電の延長運転を決めています。だから、世界の平和と協調は気候変動との戦いのための大前提であり、それが損なわれていることへの嘆きをこのブログでも何度も取り上げているのです。
さて、その上でIPCCの報告書は「打つ手ナシ!」と言っているのではありません。必要とされる対策を具体的に示しています。ただ、それを見るとかなり絶望的な気持ちにならざるを得ません。最も効果が高いのは、やはりエネルギー分野での脱炭素化を進めることで、コストが下がってきた風力発電や太陽光発電を主力とするエネルギー供給の大転換を求めています。そして、再エネ由来の水素やメタンの活用も貯蔵出来るエネルギーとして拡大が期待されていますが、これはまだ技術開発途上です。運輸ではEVの効果が高いと言っていますが、これはもちろん電源の脱炭素とセットでなくてはなりません。脱希少元素も必要です。一方、やはり出す量を減らすだけでは難しく、例えばセメント産業で大量のCO2が出ることは避けられないので、地中にCO2を埋めるCCSも不可欠と考えられていて、CCSによるCO2貯蔵量の最大ポテンシャルは1兆トンにも及ぶと試算されていますが、技術、コストの観点だけでなくて、どこに埋めて誰が管理するのか、なども考えるとこの世界的な対立の中でそれが健全に進められるとはとても思えません。だから、先にも書いた通り、CCSは心理的な逃げ道を与えているだけなので、ひとまず封印した方が良いと思うのです。
それで、脱炭素を加速して上記の目標を達成するのに必要と見積もられているコストが衝撃です。2030年時点でグローバルなGHG排出を半減するために必要な設備投資が30兆ドル(3680兆円)だそうです。次の8年間で、ということです。実際今どれぐらいかと言えば、クリーンエネルギー関連投資が世界全体で1兆ドル程度だそうです。米国の全設備投資額が2.8兆ドル/年だそうですから、それを全部つぎ込んでも足らない。誰がどれだけの負担をするのか、なんていう話がまとまるわけもないことは、明らかです。従って、まだ可能性はある、我々は分岐点に立っている、やらなくてはならないことはコレです、とIPCCは真面目に報告書を出すわけですけど、世界の民衆がそれを支持しないことも明らかだし、各国のリーダーもそれを実行しようとはしないでしょう(だから政治に任せてもカーボンニュートラルは実現出来ないんです、やるのはあなた、我々自身です)。
仕方がない、と本当に言ってしまって良いのか、それは今立ち止まって考えなくてはならないと思います。この事実から目を背けてはいけません。持続しない生き方の先に、幸せはあるでしょうか?隣人を大切に思うのなら、子供や孫を大切に思うのなら、また自分が大切にされたいのなら、真剣に科学者の声を聞き、考えて行動を変えることは出来るはずです。それをせず、世界がその終わりを迎える時になってもまだ「仕方なかったんだ」と本当に言えるでしょうか?
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