最近、あちこちで、特に子供向けに海洋プラスチックごみの話をしました。持続可能性を脅かす数々の問題の一つに過ぎないとは言え、プラスチックを餌と間違えて食べて死んでしまう海の生き物のことを知ったりすると、それは衝撃で、身近な目に見える問題なので、例えば温室効果ガスの濃度が増えて異常気象が多発する、その原因と結果の因果関係とかよりもストレートに分かりやすく、特に子供の関心を引く「つかみ」としては大変有効ではありました。毎年800万トンものプラごみが海に流れ出し、このままだと2050年には海のプラごみの重量が魚全部の重量よりも多くなる、なんて聞いたらショックですよね。
丈夫で軽いプラスチックはとても便利で、容器や道具としてだけでなくて、衣服として着てもいますが、そもそも化学合成的に極めて丈夫な高分子を作り出しているわけですから、勝手に分解したりしない。プラスチックをやめて紙や木に変えれば良いというものでもなくて、紙を作るにもたくさん水、薬品、エネルギーを使います。プラスチックを使った包装が無ければ、スーパーとかコンビニとか絶対成立しませんから、プラスチック万歳!なのです。中身を取り出したらすぐにその包装紙(プラスチック容器など)を捨ててしまうこと、毎日それを繰り返していることに罪悪感は感じますけどね。だからってやめられない。大半のプラごみはサーマルリサイクルされます。単に燃やして燃料にします。これをリサイクルと呼んで良いかどうかについては異論もあるでしょうが、最新の高温焼却炉では僅かな灰分がガラス状に無毒化されますし、CO2になってしまうこと以外には問題とはならないでしょう。今はそのCO2が問題なんですけどね。
しかし、心無い人が捨てたのか、風で飛ばされたのか、理由は何であれ、我々がこれだけ大量のプラスチックを作り、利用しているわけですから、当然環境中への流出は避けられません。お魚大好きなうちの娘も、そりゃあ悲しむわけです。すぐに分解されて消滅する生分解性プラスチックとかは、用途が限られてしまいます。一方丈夫なポリエチレンとかPET樹脂とかは流出すると微小なマイクロプラスチックになるだけで分解されず、それが上記の問題を引き起こしているというわけです。しかし、その後はどうなっちゃうの?と思っていました。ゆっくりとはであっても、自然環境の中で加水分解されたり、酸化されてやっぱり消滅するのかなあと思っていました。しかし、どうやらもっと凄いことも起こっているようなんです。なんと、プラスチックを分解する微生物がいるんです。
プラスチックを「食べる」スーパー酵素はプラスチック問題を解決できるか | CAS
そんなの常識でしょ!?という方もあるんでしょうね。私が知らなかっただけかも。上記には結構詳しく発見までの経緯や最近の研究について説明されています。2016年にプラスチックのリサイクル場で、PET樹脂を分解して、それを代謝して増殖する微生物が日本で発見されたそうで、プラスチックリサイクルの一助となるのでは、ということでその分解力を向上させるバイオテクノロジー研究が進展しているようです。腸内にこのプラスチック分解微生物を飼っている虫まで見つかっているみたいです。コイツはプラスチック容器をかじったりするんですかね?
プラスチックを食べる幼虫をカナダの大学が発見。マイクロプラ除去システム開発に貢献か | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD
泥臭いケミストリーしか知らない私は心底驚き、生き物の能力の凄さに感銘を覚えました。この微生物が直ちに海洋プラスチックごみの問題を解決してくれる様なことは恐らく無いんだろうと思います。今まで通りプラスチックをバンバン使って、そのゴミを虫に食べさせて、その虫を食べる???いや気持ち悪いなんて言ってられないです。人の身勝手な行動で生じた問題を自然が解決してくれるなんて、ちょっと都合良すぎ。もちろん、この微生物を人の目的に合わせて改良して、ゴミの解決と再資源化に活かす可能性を探る研究は良いと思うし、ワクワクしますね。
しかしまあ、このことを知って思ったのは「風の谷のナウシカ」の世界観なんですよ。宮崎駿さんって、本当に凄いな。終末戦争で荒廃し、汚染されきった地球(?)は腐海と呼ばれる毒ガスを出す植物(菌類みたいなやつ)に覆われ、それを守る巨大昆虫が共生している世界ですが、ナウシカはその腐海が水や大地を元の綺麗な姿に戻していることを見つけるんですよね。自然との共生の大切さを訴える、良く出来たドラマだと思います。そしてこの、プラスチックを食べる生き物の存在。これって、太古の昔から生存していたのでしょうか?PETが発明されたのが1941年、広く流通したのは戦後ですから、それまでは自然にはPET樹脂なんて存在しなかったハズです。そうすると、それを餌にする生き物がいるとも考えにくいですよね。ひょっとして、人間が大量のプラスチックごみを生むようになってから、それを食べる生き物が進化によって生まれたのですか?火を付けたら燃える化学エネルギーですから、それをエネルギー源にすると生きられるよ、という能力を新たに獲得するってこともある?まさに、ナウシカの世界ですよね。人が荒らしまくった世界を元通りにしようとする生き物が生れてくる?だとしたら、自然の力って本当に凄いです。ただ、それに甘えていたら、きっと人類は絶滅するんですよ。仮にそのプラスチックを食べる生き物が新たに生まれてきたのだとしても、それは愚かな人間を救うために生まれてきたのではなくて、この地球環境を守るために生まれてきたんです。でもまあ、とにかく自然の偉大さにただただ感心するばかりです。久々に、重苦しい嫌な話でなくて、夢のある話題でした。
0 件のコメント:
コメントを投稿