このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年5月14日金曜日

2050年発電コスト試算

 2050年カーボンニュートラル達成宣言を受け、エネルギー基本計画の見直しが進められています。YUCaN研究センター準備会のウェブに分科会の資料をリンクし、若干コメントを書きました。特に再エネと原発の比率が異なる複数のシナリオを想定し、2050年時点での発電コスト(円/kWh)をRITEが試算したものです。これは、資源エネルギーに関する審議会に提出されたもので、こういう資料はちゃんとアクセスできる様になっています。

膨大な資料なので、私はちゃんと全部読んだわけではありません(多分読まないです)が、資料1が経産省が準備した、EUと英国の脱炭素戦略の分析と、RITEに委託した日本の発電コスト試算のベースとなる考え方と各技術における課題をまとめたもの。資料2がRITEが提示した(中間報告としての)分析結果です。最も気になるコスト試算の結果は46,47ページの表にまとめられています。資料3は次期エネルギー基本計画の基本的枠組みの案、資料4が計画見直しについて寄せられたパブリックコメントをまとめたものです。

この資料が提出された分科会は2時間です。24名の委員の先生方は、それは著名な方々であり、適任であることには疑いは無いです。しかし、どれ程優秀な先生方であったとしても、これだけの膨大な資料を2時間の会議の中で読み込み、適切な判断を導くための議論を尽くせるとは思えません。もちろん、この分科会1回で決めるということではなくて、何度も会議は招集されるのだとは思います。ただ、資料にはそれを出す側の意図が少なからず入っていて、それによって議論の行方を誘導しようとしていると感じます。一番疑問を感じるのは、資料2が示し、誘導しようとしている結論と、資料4にあらわれる民意の食い違いです。

こうした「いつものやり方」を見て思い起こすのは、例の一件以来日常用語として定着した感のある「忖度」という2文字です。誰かにとって都合の良い結論となる様に、それを意図して資料を作っている感じがします。では一体誰に忖度しているのか?一部の既得権者のためではなくて、実は「国民に忖度している」と思うのです。いや、資料4にあるパブコメと正反対の結論になるじゃないか!?と思うかも知れません。資料4は、ことごとく原発廃止を訴え、再エネの拡大を求めています。しかし、パブコメは「一部の環境ファナティックな人の意見」と見られています。こんなところに意見を送ってきたりはしない(私は送っていません)サイレントマジョリティが求めているのは、結局は安い電力なのだから、それを最も確実に実現できる結論に誘導するように、国民への忖度を資料に込めたのです。「再エネ100%にしたりすれば、電力コストは今の4倍以上になりますよ!こんなの誰も払いたくないですよね!産業ボロボロになっちゃいますよね!」という数字を見せ「原発やむなし」という結論を誘導しようとしています。それが「国民のためである」という忖度の下に。

「お前は何も分かっていない!最も確からしい中立的な推定から導かれた試算結果だ!思想まみれのお前にこれが出来るか!?」とお叱りを受けそうです。もっともです。私には出来ません。RITEの優秀な研究者の方々が、膨大なファクターを分析し、積み上げて導き出した試算なのだと思います。しかしそれでも中立かと言えばそんなことはなく、再エネ100%は無理、原発やむなしの結論ありきで試算が成されています。それぐらい、不確定要素が多いのが実態だからです。2050年までほぼ30年あるわけで、この30年の変化を見通せるわけがありません。

試算は客観事実ではなくて、意図に沿って導かれるものだと断言できるのは、NEDOが過去に策定した2030年までの太陽光発電のロードマップ、PV2030が見事に外れたことを知っているからです。2004年に最初に策定され、2009年にPV2030+として見直しもかけられ、2030年までにどの様にしてグリッドパリティ、7円/kWhを達成するか、というロードマップだったわけですが、たった12年前に見直されたPV2030+のロードマップでさえ、その後実際に起こったことをことごとく外しています。

<4D6963726F736F667420576F7264202D203039303630385F312ECCDFDABDD8D8B0BD8A54977694C55F955C8E862696DA8E9F5F93FA957496B382B55F2E646F63> (nedo.go.jp)

7円/kWhは、何の技術革新も要することなく、単なる産業のグローバル化(特に中国の台頭)によって2015年頃には達成されてしまいます。今や、それよりはるかに安価です。その結果として、日本の太陽光発電産業は事実上死滅しました。また、有機系は電力用には見捨てられ、ペロブスカイト太陽電池も学者が論文を書くネタになっているだけで、製品を出しそうなのは中国だけです(多分すぐ壊れます)。タンデム、超高効率など結局は不要。蓄電はちょっとだけならLiイオン、真剣にやるならRFBやNaS、さらには水素やアンモニアへの変換貯蔵へとシフトしていきました。短期間にこれほど様変わりしてしまったのです。なので、このPV2030が振り返られることもありません。私は2013年頃までNEDOの太陽光発電プロジェクトで色素増感型太陽電池の研究をさせてもらいましたが、その時には、常に不動のガイドラインとして存在したのがこのPV2030であり、この目標実現に資することがプロジェクトの研究を受託する研究者の責務だったのです。

このPV2030の根底にあったのは、日本の太陽光発電産業を如何に発展させるか、という意図です。それは産業界への忖度、そしてその受益者たる国民への忖度でしょう。しかしその太陽電池が日本製でなかったとしても、太陽光発電は既に安いという利益を国民が享受することは実現したのです。元に戻って、2050年カーボンニュートラル達成への発電コスト試算に、どこまでの客観性があるでしょうか?グリーン水素やそれによるアンモニアの製造、CCUSの確立が全く成されていない段階で、どれ程の中立性、確からしさがあるでしょうか?再エネ100%では現実的ではないコストになる、と10-17円/kWhという不当に高い太陽光発電コストを用いて結論付けられているのです。仮にそのコストが正しかったとしても、100%再エネが現実的でないかどうかは国民が決めることです。

確かに、カーボンニュートラルは失敗の許されない世界全人類が取り組む大事業です。国民から「電気代が高くなった!」とか「気候変動が収まっていないじゃないか!」という不平不満を聞きたくないから、事故さえ起こらないと楽観すれば、廃棄物の問題は後回しにして原発を積極利用した方が良い、そういう考えに「国民に忖度して」行き着いたのではないですか?

そして、資料4のパブコメを「一部のファナティックな・・・」と片付けないで欲しいとも思います。この試算を始める前に、政治家の皆さんは民意を聞き、その方針に沿って分科会は試算をすべきです。今までのように、試算によって民意を動かそうとしてはいけません。不確定要素が沢山あることは事実なのですから、分からないことは分からないこととして、技術的には再エネ100%も可能であること、但し電力コストは最悪の場合として今の○○倍になる可能性もあり、少なくとも●倍ぐらいにはなると思われる。それを一定程度緩和出来る可能性があるのは原発の積極利用だが、国民の皆さんはどうしたいか?とまず問いかけるべきでしょう。でなければ、最終的に起こる結果についても、国民の一人一人が自分の選択の結果としてそれを受け入れることが出来ないと思います。そもそも、そうした民主の考え方、民意が政治を作るという考え方は、この日本には成熟していないのだ、だから私たちが忖度して、予めケアしてあげるんだよ、という考えが見えてきます。これが再三言っている「国民を赤子扱いする村の長老」の態度だと感じるのです。成功の喜びも、失敗の痛みも、受け入れることになるのは未来の世代、今の若者ですよ。だったら、その人たちにしっかり勉強してもらうと共に、彼女ら、彼らを信用してあげましょうよ。

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125

 「125」この数字が意味するのは何でしょう?はい、私はオートバイが大好きで、特に手に余らず、使い切れるパワーで軽量な125ccクラスのバイクが好きです。高速道路は乗れないけど、バイクで高速道路走っても、ちっとも面白くないし、二人乗りだって出来るし、燃費良くて維持費安いし。今ウチ...