このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年11月15日月曜日

EVシフトを考える⑳

 遂にこのシリーズも20回目になりました。まあ、そんな数字はどうでも良くて、それぐらいEVをめぐる動きからは目が離せないということです。そんな中、昨日のNHKスペシャルでは「EVシフトの衝撃」というタイトルで、この問題が取り上げられました。

「EVシフトの衝撃〜岐路に立つ自動車大国・日本〜」 - NHKスペシャル - NHK

御覧になりました?「衝撃」ねえ・・・。ほとんど何も知らなかったという人には、確かに衝撃かも知れません。ただ、ちょっと間違った衝撃を感じてしまう様な内容だったかなあ。まあ、重要なことも触れられてはいましたが、それを深彫りすることなく表面的な驚きだけをレポートしたので、全体の雰囲気としては「日本は相当遅れているぞ!」「このままでは大変なことになるぞ!」という衝撃だけが見る人の印象に残ったのではないかと思います。で、この問題の本質はそんなものではなくて、もっと重大な世界的競争、覇権争いと結びついていて、脱炭素のためにはEVシフトを進めなくてはならない、なんていう単純な前提は問題を見誤ることになると、繰り返しこのブログでも訴えてきたとおりです。

しかし、まずもって今回の番組は、ちょっとホンダびいき過ぎないでしょうか?なんか、全体としてホンダは過去と決別して未来にチャレンジする集団、対するトヨタは変化に抵抗するコンサバ集団という様になっていました(それから、生き残りをかけて中国と手を組む裏切り者日本電産?)。それら全部ハズレですよ。全固体リチウムイオン電池は何もホンダが世界をリードしている技術ではありません。試作品を出してはいましたが、固体の多層構造を量産する製造技術が実は問題であって、試作品をデモ出来ても、結局量産過程で頓挫する可能性が高いのが全固体電池です。さらに「EVの次の革新的なゼロエミッションカーの開発が進められています!」みたいな感じで出てきたのがなんと水素酸素FCV、何だか意味深にボカシまで入れてね(クラリティの次期世代実験車か?SUVスタイルの様に見えましたね)。あのね、トヨタはもうとっくにFCVを一般消費者向けに販売していますよ。それも既に第二世代のMIRAI。その航続距離はワンチャージで850キロ。もちろん、水素ステーションも限られているので、飛ぶように売れているわけではありません。一方ホンダも一応クラリティFCVを販売しました(限定的だったのと、既に販売中止になりました)。なので、こんなの全然新しくない。それで、最後に出てきたのが「F1の技術で空気抵抗減らします」だって。F1は滅茶苦茶速いので空気の壁を切り裂く様に走りますが、一般車両の平均時速なんて30キロ程度です。ストップ&ゴーを頻繁に繰り返します。そういう領域では空気抵抗よりも重量の減少の方が効果が大きいですよ。超軽量化技術とかの紹介の方が面白かった。

まあ、そんな技術関係のレポートのチグハグさはさておき、重要だったのはEUのEV化戦略ですね。ここのレポートが甘かった。先日のBS報道番組ではNorthvoltの取材を報じていたのに(再エネ100%、リサイクル率97%で環境性能ベストのバッテリーをEUメーカーに供給する)、今回それが全く利用されていなかった。あの報じ方では、EUが何故EVシフトにそれほどまでに熱心なのかが見る側に分かりませんよ。ルノーのスナール会長のインタビューに、ちらっと見えてはいました。「我々EUが自動車産業の中心に返り咲くのです!」と不敵な笑みを浮かべていたところです。LCA手法によるCFPの算出とその低減を根拠にした規制の導入のことは触れられていましたけど、それを国境炭素税に結び付けて、中国や日本の製品をシャットアウトしようとするEUの本当の狙いまでには踏み込んでいませんでした。EUはEVシフトを千載一遇のチャンスと思っているのです(で、その企みは恐らく失敗すると私は思っています、日米中韓印がそれを許しません)。だから、全体としては「EVがこれからの流行です」ぐらいの軽い話になってしまっていた。本当の話をしてしまうと、国際問題、さらには日本政府の批判にもつながるので、大人の事情でもって報じられないというのがNHKなのかな?でも、これを見て間違ったメッセージを受け取ってしまった人はかなり多いと思いますよ。NHK、責任あるんだから、ちゃんとやってください!

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125

 「125」この数字が意味するのは何でしょう?はい、私はオートバイが大好きで、特に手に余らず、使い切れるパワーで軽量な125ccクラスのバイクが好きです。高速道路は乗れないけど、バイクで高速道路走っても、ちっとも面白くないし、二人乗りだって出来るし、燃費良くて維持費安いし。今ウチ...