昨日、日本の国会議員に向けて、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで演説を行いました。演説の全文日本語訳は以下で見ることが出来ます(私はライブで見ていました)。
【全文】ウクライナ ゼレンスキー大統領 国会演説 | NHK | ウクライナ情勢
「日本とウクライナは核の恐ろしさを経験した国・・・」とか言って、広島長崎のこととか、福島のこととか持ち出すんじゃないかと少し心配でしたが、もう少し賢かったです(アメリカ議会向けには真珠湾の話をしましたからね、アメリカでは第二次大戦を終わらせた出来事として、原爆投下は肯定されています)。ロシア軍がチェルノブイリ原発を占領し、他の原子力発電所にも攻撃をしていることは糾弾していますけど。そして、「武器供与をしろ」などという無茶なことも言いませんでした。一安心。経済制裁への感謝と、その継続強化への要望は出されました。日本の政府は、恐らくそれに応えていくだろうと思います。経済制裁が戦争を終わらせることになるのであれば、私も賛同するところですが、そうはならないと思うのと、本当に糾弾し、罰したい人には害が及ばず、全く別のところに害が及ぶことになるので、実は経済制裁にも反対です。とは言え、終わりの見えない虐殺に、本当に恐怖と悲しみを覚えます。私の友人が決してその犠牲とならないことを祈るばかりです。その後どうなったのか、報じられていないので心配なのですが、激戦地帯の南部のマリウポリでは、老人や女子供1000人以上が避難していた劇場が爆撃を受けて、数百人が瓦礫の下にいると報じられましたが、恐らく救出されていません。想像を絶する恐怖と苦痛であったに違いありません。南無阿弥陀仏。
この戦争を何としても、可能な限り早く終わらせなくてはならないのですけど、それがまだ全く見通せません。先日も書きましたけど、己の正義感に打ち震えながら、悪の帝王プーチンを懲らしめようと、経済制裁や武器供与に勤しむ米国やEUは、より多くのウクライナ人、そして平凡なロシア人を苦しめていることに気付かなくてはなりません。オリガルヒと言われる、プーチンの取り巻きの大富豪も制裁の対象になっていますが、彼らが本当に困ると思いますか?いや、困っているし、腹を立てているでしょうけど、食べ物が無くなったり、命の危険を感じたりは絶対にしていません。巨万の富を抱えている人たちですから、死ぬのは一番最後です。戦争によって、食料も水も電気も断たれたウクライナの人に比べたらはるかにマシ、身から出た錆と言えば、そう扱えなくもないかも知れませんけど、一番苦しむロシア人は、そんな富豪や主導者たちとは全く無縁の罪のない普通のロシア人です。食料やエネルギーの価格が上がり、困窮するのはそういう人たちです。オリガルヒが何故お金持ちなのかと言えば、その下に働く数百万人のそういう普通の人がいるからで、そこから富を吸い上げる仕組みがあるからです。不公正で間違っているけども、ロシアではそれが機能している社会システムです。で、そのビジネス等が機能不全に陥れば、仕事と収入が無くなり、物価の極端な上昇に直面し、どん底に突き落とされることになるのです。総元締めのオリガルヒや、政治主導者は相変わらずご馳走食べてますよ。
さらに、実はもっとひどいことが起こります。こんな、列強たちの覇権争いとは全く無関係の、世界の発展から取り残された極貧国の人たちです。世界には10億人近くの飢えた人たちがいるのです。日々の収入が1ドル以下で、その日食べる物を手に入れるのがやっと、という人たちです。穀物価格の上昇は、そういう人たちには死刑宣告に近いです。そういう弱者を苦しめることが経済制裁の目的ではないハズです。でも、結果的にそうなります。食料とか、エネルギーとかは、万人がアクセスできるように保たれるべきグローバルコモンズであり、アンタッチャブルです。テレビの報道で、急上昇したガソリン価格に対して「いやあ、こんなのは、今苦境にあるウクライナの人々のことを思ったら、苦労でも何でもないです。私たちは正義のために団結しなくてはなりません!」みたいなことを答えていた英国紳士のインタビューがありました。そうでしょうね、多少価格が上がっても、その英国紳士は食料もガソリンも電気も買うことが出来ます。我々日本人もそうです。ところが、世界には今日の食べ物をやっと手に入れる人がいるわけで、そういう人がこの列強の覇権争いのとばっちりを受けるわけです。もはや、世界はそれぐらいつながっているわけで、だからロシアの無い世界というのはあり得ないし、ロシアを抹殺することで平和な世界が実現されるわけではないということです(ロシアの人口は1億5千万に近いですよ)。政治家も、報道でコメントする専門家と称する人たちも、想像力が欠けています。今は、ロシアが行った蛮行を糾弾し、罰し、制裁を与えることに躍起になっていますが、その先にある世界を想像して、行動しなくてはならないと思います。ある評論家が書いていました。「ロシアのGDPはアメリカの6%に過ぎない、でも中国は巨大だから同じ様に中国を世界経済から追い出す様なことは出来ない」一部は正しいですけど、総体としては何バカなこと言ってるの?です(本論は、だから日本は原発を新造すべき、だったし、アホ)。中国もロシアも、欠かすことの出来ない世界の一部です。対立し、相手を罰し、勝者ヅラしても、それはブーメランの様に自分に帰ってきて、自らを破滅へと導くことになります。共存共生共栄、インターナショナルであること、大切です。
最近ロシアの戦争映画を2本見ました。AK-47とT-34。両方記号で、一体何?と思われるかも知れません。AK-47というのは有名なカラシニコフ銃のことで、これを開発する天才エンジニアのミハイル・カラシニコフのドラマです。一方のT-34は第二次大戦時のソビエトの主力戦車で、こっちは完全なつくり話です。映画の出来としては後者の方が良く出来ていました。前者は正直言って駄作です。しかしまあ、これらを見たのは、映画そのものへの興味というよりは、ロシアがこれらの出来事をどの様に描くのかが知りたかったからです。で、多少のトーンの違いはあっても、ハリウッドの映画で描かれる米軍兵士のヒロイズムと大差ないです。要するに、映画の中でははっきりとソビエトが、ロシアが正義なんです。そして、国家のために命を賭して偉業を成し遂げる主人公たちが英雄として描かれています。だからあ、違うのは視点だけなんですよ。自分たちが正義であると信じて疑わず、何度も犯した失敗と残虐行為を全く反省しないアメリカが、自ら招き入れた対立であるということであって、どれだけ痛めつけたとしても、決して降参したりしないです。あっち側は、あっち側の正義を守るために。カザフスタン出身のカラシニコフさんが、モスクワで「お前みたいな田舎者が天才エンジニアだって、ふざけるなよ!」みたいに蔑んだ言葉を浴びせられるシーンも印象に残りましたね。要するに、ソビエトにも二級国民がはっきりあったということです。カザフスタンにせよ、ウクライナにせよ。だから、ウクライナ人が決してロシアの支配下にありたくはないと思うのは当然のことです。
思うこと、書きたいことはまだまだありますけど、きりがありません。ついさっき、NHKニュースで、長年ロシア駐在だった解説員の石川さんが言っていたことが大変印象に残りました。「プーチンから逃げ道を奪ってはいけない」と(分かってるなあ、石川さん!)。プーチンはこの戦争を敗戦で終わらせることは出来ないんです。敗戦はプーチンの終わりを意味し、プーチンの終わりはロシア帝国の終わりを意味します(ロシアを私物化し、自らの存在無くしてロシアも存在しないと思っていますからね)。外務省のスポークスマンも語っていましたが、ロシアが核兵器を使う可能性、どんな状況であれば使用するのかを米国のメディアから問われた時に「国家が存亡の危機にあると判断したら、核の使用はあり得る」と答えていました。プーチンが自らの終わりを感じたら、ためらうことなくボタンを押します。だから、プーチンには(暗殺されない限り)名誉ある撤退というか、目的を完遂したから軍を引き上げる、という口実を与えないとなりません。そのキーポイントがどこになるかを考えると、言いたくないですけど、先述のマリウポリがロシアに占領されることです。ドンバス地域とクリミア半島の実効支配を成し遂げ、勝手に独立国として承認すれば、国内向けには「ウクライナで虐殺されそうになっていた同胞たちを救い出した!Mission completed!」を宣言することが出来、軍隊を引き揚げることが出来ます。プーチンだって、本当はこの戦争を早く終わらせたいはずです。でも、マリウポリに残る罪の無い市民を一人残らず救い出して欲しい。そして、今はそれ以外にロシアによる蛮行を止める手段が見つからないので、マリウポリが陥落してもキエフを守ることの方が大切だと、恐ろしいけれども、言わざるを得ないです。ドンバスとクリミアの支配は、ウクライナを本当に分断させることになります。西ウクライナと東ウクライナ、今となってはその新しい構図の中で中立的なウクライナを再生していく以外に、第三次世界大戦(=世界の終わり)を回避する方法が考えられません。ウクライナの友達は、きっと合意しないだろうなあ。「お前に何が分かる!」と叱られるだろうと思います。
そして、戦争が終結したとして、その後のロシアがどうなるかと言えば、間違いなく三流国家に転落することになります。経済制裁どうの、以上に、長年かけて獲得してきた信頼をこの戦争で完全に失いました。ロシア経済はソビエト崩壊後の最悪の状況に戻り、多くの人が苦しむことになるでしょう。でも、その時アメリカや西側諸国、そして日本が勝ち誇って「ザマアミロ!」とすれば、第二のプーチン、あるいはヒトラー級のヤツが現れて、テロでも何でもあらゆる手段を使って復讐してくるに違いありません。その時はロシアに救いの手を差し伸べるんです。見捨ててはダメです。世界は、このレッスンからしっかりと学ばなくちゃならないです。でも、第二次大戦の恐怖と悲劇、痛みも既に忘れられているのですから、今回もダメでしょうか?しかし、もう次回は無い状況ですよ。失敗は許されない。
なんと嘆かわしい!なんと恐ろしい!今世界が重大な分岐点にあることを、特に若い世代の人たちは認識し、自分の目で見て、自分の頭で考えて、持続性のある幸せとは何か、それに対してチャレンジする大切さに気付いて欲しいと思います。もう一つ追加。今日の午後、北朝鮮が新型のICBMと思われる大型ミサイルを発射しましたね。青森沖の日本の排他的経済水域に落下しました。青森市民へのインタビューで「なんでこんなことをするのか分からない、やめて欲しいです」と答えていた方がありました。何でこんなことをするのか分からない?本当に?それ、相当な平和ボケです。日本は十分にその理由を作っていますよ。北朝鮮がミサイルのテストを一生懸命やっているのは、米国に対するメッセージですけど(ロシアのこともあって、いいタイミング)、その子分である日本を危険に曝すことには全くためらいはないでしょう。本当に日本の陸上に落ちたらさすがに大変なことになるとは思っているでしょうけど、ナンなら落ちたって構わない、ぐらいに日本を敵視しています。北朝鮮がそうするのに十分な口実を与えているのです、米国だけでなくて、日本も。だから、平和を獲得するために必要なのは、相手を上回る強力な軍備ではないんです。税金使ってアマゾンで防衛ミサイル買う(売ってない?)のが政治家の仕事じゃないよ!日本の政治家の皆さんは、アメリカ抜きで、必要な外交をやってください。大変な相手こそ、話し合いをしなくてはならない相手です。付き合いやすい人とだけ付き合う様な、楽をしてはいけません!