コインパーキングのTimesなどを経営するパーク24が6800人の会員向けにEVへの関心を調査するアンケートを行い、その結果を公表しました。私など田舎暮らしの者はほとんどそういうパーキングを利用することがありませんので、回答者の中心は日常的にコインパーキングを利用することが多い、都市部に在住している人と思われます(あるいは頻繁に都市部に出掛ける)。なので、全国的な動向と思わない方が良いかも知れません。調査結果は今朝にNHKニュースで報じられていました(ビデオ見れます)。
EV購入「200万円以下で検討」が6割 価格引き下げが普及のカギ(NHK)
大元のアンケート結果のデータと説明は、以下のページを参照した方が良いです。
200万円以下なら7割が購入検討、EV普及の鍵は「価格」…パーク24調べ(Response)
太陽光発電の普及のためにも、初期はかなり多くの補助金が付いて、購入意欲をそそる様にしていましたが、EV購入にも相当大きな補助金が、経産省、環境省、そして多くの自治体から出ます。
【2021年最新版】EV(電気自動車)補助金まとめ・家庭用EVの購入を検討している方必見! | 電力比較サイト エネチェンジ | 電力・ガス比較サイト エネチェンジ (enechange.jp)
自宅の電力システムと連携するV2Hを導入すると、もっと補助金が付きます。実際には400万円以上する車両が300万円で買えると言われれば、お買い得回路が刺激されて、「ここで買わないと損かな、どうせこれからはEVの時代だし」と思う人が出てきても不思議ではありません。行政側の狙いもまさにそこ。しかし、太陽光発電は期待通り補助金に後押しされて普及が拡大し(グローバルに)、価格も大幅低下してもはや補助など不要な安価なシステムと化しましたが、EVについて同じ図式が成り立つかと言えば、ちょっと難しいと思います。
最初のアンケートの話に戻って、200万円以下と答える人が多い一方で、EV購入のポイントに航続距離が長くなれば(それも500キロ以上!)と答える人も12%と、とても多かったのです。200万円以下は、実はそんなに問題ではありません。EVの中古車は恐ろしい程価格が低下しています(魅力が無い証拠)。5年落ち、走行5万キロに満たない日産リーフが60万円で買えます(新車時400万円ぐらいしたのに)。EV生活を始めたいなら、それで十分じゃないでしょうか。そして、これからホンダ(と他メーカーも)は軽のEVを出してきます。補助金ナシでも200万円切りを実現すべきと思いますが、補助金があれば優に200万円を切るでしょう。ホンダは明らかに政府の後押しを見込んでいます。しかし、走行500キロ以上は問題です。「1日に500キロ以上走ることは無いだろうから」がその根拠であることは明らかなのですが、実際にワンチャージで500キロ走行出来る車両はカタログ上700キロぐらい走れる車両です。EVは重く、決して効率は高くないため、実質的な電費は良くても5 km/kWh程度です。それを実電費として500キロ走行するには、やっぱり100 kWhもの容量を持ったバッテリーが必要になります。住宅10軒分ぐらいの電力を注いでも一晩でフル充電することは困難な程の大容量です。そして当然それは非常に高価なバッテリーです。
この矛盾を生じる原因は、EVを従来の自動車からの置換でしか捉えていない消費者の心理(と一般的な認識)にあると思います。大容量、重量級、高額なバッテリーを積み、ハイパワーなモーターで重たいクルマを動かすモンスター級EVは、極めて不合理な乗り物です。大半の使い方である、通勤、普段の買い物や駅までの送迎とかに、どうして500キロの航続距離が必要でしょうか?岡崎五郎さんの言葉を借りれば、「ちょっと公園に散歩に行くのに、500 mlのペットボトルの水を持っていくんじゃなくて、20 Lの水タンクを背負って出かける」のと同じです。ガソリンは軽く、すぐに補給できるので、満タンでスーパーに行くことに無駄は感じませんが、EVの場合、その用途に巨大バッテリーは完全な無駄です。EVは新種のモビリティーであると割り切って、従来の自動車とは違った使い方を普及させていくべきと思えます。とは言っても用途に合わせて何台もクルマを所有するなんて出来ないですよね。しない方が良いです。所有するなら、日常使用に最適なサイズで軽量、必要十分なだけのバッテリーを備えて安価なEV。これを日常的には使いつつ、長距離の移動にクルマを使いたい時には、内燃エンジン(HV含む)又はモンスター級EVをレンタル、シェアリングする、というのが最も合理的と思えます。利ザヤの小さい小型車中心というのは、自動車メーカーにとっては面白くないです。実は私自身は「EV購入は検討しない」の18%の一人です。うちの事情からすると、EVを選ぶ理由がまだありません。
さて、それでもなお、「EVがもっと普及すればバッテリーも安くなってEV自体の価格が下がるじゃないか」「そしたら全てをこなせるゆとりのサイズで長距離OK、急速充電OKのEVもアリでは?」という期待もあるかと思います。「そんなちっこいEVなんて嫌だな」という心理的抵抗もあるかも知れません。しかし、バッテリーは既にかなり大量生産されていて、今後大幅に低価格化するとは期待しない方が良いのです。まず、既にここにも書いているとおり、車載用バッテリー産業は既に日本が撤退、まず韓国のLG、サムスンに行き、それも劣勢となって、中国メーカーが既にトップに躍り出ました。すなわち、EV普及の前にバッテリー産業は既に最も安く作ることが出来る地域に渡ってしまったのです。それでもバッテリーが高価なのは、コバルトとかリチウムなどの希少元素を使う、マテリアルコストのためです。製造コストは下げられても、マテリアルコストは下げられない。実際、バッテリーの価格はその容量にほぼ正比例します。だから、モンスター級EVが高額なのは当たり前で、待っていても劇的に安くなったりはしません。ゲームチェンジャーとして期待される全固体リチウムイオン電池(こちらは製造技術の問題がまだ多いようです)も、利便性の向上には寄与しても、低価格化への切り札にはなりません。中国製でも、クオリティーの高い製品についてはバッテリーは安くならないと思いますが、安全性を妥協しまくったB級、C級製品ならば低価格化は進む(ノーブランド品)と思います。あちこちで発火事故を起こす、通販で売っている中国製電動おもちゃとかのレベルです。でも、おもちゃが壊れるのと、命を預けるEVが壊れるのはワケが違いますよね。
EVシフトはかように難しいのです。これを後押しするために、行政が湯水のように税金をつぎ込みまくるのはやめて欲しいと思います。技術的な課題と、これを取り巻く国際情勢を冷静に分析した上で、健全でなく、自立出来ない方法での拙速なEVシフトにはあらためて反対したいと思います。