このブログについて

国立大学法人山形大学工学部教授の吉田司のブログです。2050年までのカーボンニュートラル社会実現に向けて、色々な情報や個人的思いを発信します。発言に責任を持つためにも、立場と名前は公開しますが、山形大学の意見を代弁するものではありません。一市民、一日本国民、一地球人として自由な発言をするためにも、所在は完全に学外です。山形大学はこのブログの内容について一切その責任を負いません。

2021年5月31日月曜日

EVシフトを考える⑧

 コインパーキングのTimesなどを経営するパーク24が6800人の会員向けにEVへの関心を調査するアンケートを行い、その結果を公表しました。私など田舎暮らしの者はほとんどそういうパーキングを利用することがありませんので、回答者の中心は日常的にコインパーキングを利用することが多い、都市部に在住している人と思われます(あるいは頻繁に都市部に出掛ける)。なので、全国的な動向と思わない方が良いかも知れません。調査結果は今朝にNHKニュースで報じられていました(ビデオ見れます)。

EV購入「200万円以下で検討」が6割 価格引き下げが普及のカギ(NHK)

大元のアンケート結果のデータと説明は、以下のページを参照した方が良いです。

200万円以下なら7割が購入検討、EV普及の鍵は「価格」…パーク24調べ(Response)

太陽光発電の普及のためにも、初期はかなり多くの補助金が付いて、購入意欲をそそる様にしていましたが、EV購入にも相当大きな補助金が、経産省、環境省、そして多くの自治体から出ます。

【2021年最新版】EV(電気自動車)補助金まとめ・家庭用EVの購入を検討している方必見! | 電力比較サイト エネチェンジ | 電力・ガス比較サイト エネチェンジ (enechange.jp)

自宅の電力システムと連携するV2Hを導入すると、もっと補助金が付きます。実際には400万円以上する車両が300万円で買えると言われれば、お買い得回路が刺激されて、「ここで買わないと損かな、どうせこれからはEVの時代だし」と思う人が出てきても不思議ではありません。行政側の狙いもまさにそこ。しかし、太陽光発電は期待通り補助金に後押しされて普及が拡大し(グローバルに)、価格も大幅低下してもはや補助など不要な安価なシステムと化しましたが、EVについて同じ図式が成り立つかと言えば、ちょっと難しいと思います。

最初のアンケートの話に戻って、200万円以下と答える人が多い一方で、EV購入のポイントに航続距離が長くなれば(それも500キロ以上!)と答える人も12%と、とても多かったのです。200万円以下は、実はそんなに問題ではありません。EVの中古車は恐ろしい程価格が低下しています(魅力が無い証拠)。5年落ち、走行5万キロに満たない日産リーフが60万円で買えます(新車時400万円ぐらいしたのに)。EV生活を始めたいなら、それで十分じゃないでしょうか。そして、これからホンダ(と他メーカーも)は軽のEVを出してきます。補助金ナシでも200万円切りを実現すべきと思いますが、補助金があれば優に200万円を切るでしょう。ホンダは明らかに政府の後押しを見込んでいます。しかし、走行500キロ以上は問題です。「1日に500キロ以上走ることは無いだろうから」がその根拠であることは明らかなのですが、実際にワンチャージで500キロ走行出来る車両はカタログ上700キロぐらい走れる車両です。EVは重く、決して効率は高くないため、実質的な電費は良くても5 km/kWh程度です。それを実電費として500キロ走行するには、やっぱり100 kWhもの容量を持ったバッテリーが必要になります。住宅10軒分ぐらいの電力を注いでも一晩でフル充電することは困難な程の大容量です。そして当然それは非常に高価なバッテリーです。

この矛盾を生じる原因は、EVを従来の自動車からの置換でしか捉えていない消費者の心理(と一般的な認識)にあると思います。大容量、重量級、高額なバッテリーを積み、ハイパワーなモーターで重たいクルマを動かすモンスター級EVは、極めて不合理な乗り物です。大半の使い方である、通勤、普段の買い物や駅までの送迎とかに、どうして500キロの航続距離が必要でしょうか?岡崎五郎さんの言葉を借りれば、「ちょっと公園に散歩に行くのに、500 mlのペットボトルの水を持っていくんじゃなくて、20 Lの水タンクを背負って出かける」のと同じです。ガソリンは軽く、すぐに補給できるので、満タンでスーパーに行くことに無駄は感じませんが、EVの場合、その用途に巨大バッテリーは完全な無駄です。EVは新種のモビリティーであると割り切って、従来の自動車とは違った使い方を普及させていくべきと思えます。とは言っても用途に合わせて何台もクルマを所有するなんて出来ないですよね。しない方が良いです。所有するなら、日常使用に最適なサイズで軽量、必要十分なだけのバッテリーを備えて安価なEV。これを日常的には使いつつ、長距離の移動にクルマを使いたい時には、内燃エンジン(HV含む)又はモンスター級EVをレンタル、シェアリングする、というのが最も合理的と思えます。利ザヤの小さい小型車中心というのは、自動車メーカーにとっては面白くないです。実は私自身は「EV購入は検討しない」の18%の一人です。うちの事情からすると、EVを選ぶ理由がまだありません。

さて、それでもなお、「EVがもっと普及すればバッテリーも安くなってEV自体の価格が下がるじゃないか」「そしたら全てをこなせるゆとりのサイズで長距離OK、急速充電OKのEVもアリでは?」という期待もあるかと思います。「そんなちっこいEVなんて嫌だな」という心理的抵抗もあるかも知れません。しかし、バッテリーは既にかなり大量生産されていて、今後大幅に低価格化するとは期待しない方が良いのです。まず、既にここにも書いているとおり、車載用バッテリー産業は既に日本が撤退、まず韓国のLG、サムスンに行き、それも劣勢となって、中国メーカーが既にトップに躍り出ました。すなわち、EV普及の前にバッテリー産業は既に最も安く作ることが出来る地域に渡ってしまったのです。それでもバッテリーが高価なのは、コバルトとかリチウムなどの希少元素を使う、マテリアルコストのためです。製造コストは下げられても、マテリアルコストは下げられない。実際、バッテリーの価格はその容量にほぼ正比例します。だから、モンスター級EVが高額なのは当たり前で、待っていても劇的に安くなったりはしません。ゲームチェンジャーとして期待される全固体リチウムイオン電池(こちらは製造技術の問題がまだ多いようです)も、利便性の向上には寄与しても、低価格化への切り札にはなりません。中国製でも、クオリティーの高い製品についてはバッテリーは安くならないと思いますが、安全性を妥協しまくったB級、C級製品ならば低価格化は進む(ノーブランド品)と思います。あちこちで発火事故を起こす、通販で売っている中国製電動おもちゃとかのレベルです。でも、おもちゃが壊れるのと、命を預けるEVが壊れるのはワケが違いますよね。

EVシフトはかように難しいのです。これを後押しするために、行政が湯水のように税金をつぎ込みまくるのはやめて欲しいと思います。技術的な課題と、これを取り巻く国際情勢を冷静に分析した上で、健全でなく、自立出来ない方法での拙速なEVシフトにはあらためて反対したいと思います。

2021年5月30日日曜日

EVシフトを考える⑦

 日産とNECが合弁で設立した車載用Liイオン電池メーカーAESCが中国Envisionグループに売却され、再スタートを切ったエンビジョンAESCが、茨城県に6GWh/年の生産能力を持った工場を建設し、「国内での電池生産への投資が加速する」と報じられました。

EV向け電池の大規模工場 茨城に新設へ 日産出資の電池メーカー(NHK)

「おお、いいことだね!」と思われてしまいそうですが、これは注意深く今後の動きを見る必要があると思います。まず、報道で言う「日産出資」というのは株式の20%で、Envisionが80%、すなわち実際には中国のメーカーである、と考えるべきです。以下のエンビジョンAESCのウェブにある、プロモーションビデオにちょっと寒気がしました(全編、中国語の字幕が出ます、東工大、東大、京大とかの名前出すのも寒気…)。

Envision AESC (envision-aesc.com)

日本の技術者等が代わる代わる如何に同社のバッテリー技術が優れているかを語り、今後の業界のリードに対する強い自信を語っています。その言葉は別に嘘ではなくて、何しろ9年の実績がある日産リーフはAESCの車載専用バッテリー(テスラの汎用品とは違う)を使い、一度も火事を起こしたことが無い、さすがのMade in Japan製品でした。しかし、競争力が無い、採算性が悪いからこそ、身売りせざるを得なくなり、中国資本に身を委ねた(毒まんじゅうを食べた)のです。茨城工場の6 GWh/年は凄いと思いましたが、中国では既に20 GWh/年を生産する巨人です。しかも、それは手に入れた日本製技術を使って。CATLやBYDと同様、今後グローバルに拡大して、中国の経済を潤すことになるのでしょうか。日本の技術が中国に流出する・・・先のビデオも、そう考えると中国側の投資家に配慮した感がアリアリ。

いや、事態はさらに複雑で、その先があると思っています。これはまた次回以降議論しますけど、EUはさらにしたたかな戦略、アジア製品を合法的にEU市場から締め出す準備をしています。VWグループは特にその先兵で、中国への進出の仕方が凄いです。当然、中国のEV用バッテリーメーカーと協業することになるでしょう(Envisionを含めて!)。そして、それはスウェーデンのクリーンな水力発電電力で、極めて低いCFP(カーボンフットプリント)で作られることになります。あるいはフランスの原子力か?すなわち、中国や日本が自国のクリーン電源化を大きく進めない限り、アジア製のEVバッテリーはCFPが大きすぎて、EU市場から追い出されることになります。悔しいことに、きっとノースボルトが製造するバッテリーに日本の技術が使われることになるのですよ!

Why Northvolt | Northvolt

それがCOP26の真の目的かと勘繰りたくなってしまいます。ああ、エグイ。経済戦争は無慈悲というか、そこに技術者に対するリスペクトなんて全然ないですよねえ。


草木塔

 

米沢市を中心とする、ここ山形県置賜(おきたま)地方では、「草木塔」という石碑をよく見かけます。全国に100ぐらいある草木塔の90ぐらいが山形県にあり、さらにそのうち70くらいは置賜にあるそうで、1780年に建立された日本最古のものは、米沢市の田沢地区(山間部、福島県喜多方市に至る国道121号線沿い)にあります。写真は、平成九年に建てられた道の駅田沢にあるものです(私よくバイクで行きます)。

で、草木塔とは何か?にわか知識で私などが書くのもナンですが、草木を供養し、その成長を願うというものです。米沢藩の屋敷が大火で消失した際に、この田沢地区から多くの木が伐り出され、再建されたそうで、自然の恵みに感謝すると共に、供養をしたというわけです。上杉鷹山の時代です。それが地域に広まったことが、置賜地区に草木塔が多数ある理由ということです。

それで、最近では自然との共生のシンボルとして、再び草木塔の意義が見直されているというわけです。この草木塔の理念も手伝って、2021年には米沢市が内閣府の「SDGs未来都市」に選ばれました(飯豊町、鶴岡市に次いで山形県で3番目)。米沢市の未来都市宣言タイトルが凄くて、「~果敢な挑戦と創造の連鎖~市民総参加で実現するSDGs未来都市米沢」だそうです。市民、総参加しますかね?米沢で暮らしていると、市民の地元愛が凄いというのは感じます。一方で、都市の環境は「未来都市」って感じではなくて、10年暮らしていてもほとんど何も変わりません(市役所は最近新しくなった!)。これは、ある意味都市機能がかなり最適化されているからで、変えることが不要だから、とポジティブに捉えたいですね(お金が無いからと言わないで!)。例えば、先日も話題にした中国の深圳の街中を歩いていると、汚くて古くて今にも壊れそうな建物とピカピカのビルが混在していて、常にあちこち工事中のために歩道は歩きにくいことこの上なかったです。それは、都市がダイナミックに変動し続けていることの証で、きっと2,3年後に行ったら全然変わっているんだろうな、と思わせるに十分なほど、街全体が建設中、ずっと建設中、という感じでした。活気に満ちている、と言えば確かにそうです。対して古くからある米沢は、色々な機能が既に最適化され、成熟した街と言えます(無理がある???)。だから、変えなくていいんです。これ、大切なことだと思うんです。今までの様に、まだ使えても「古臭いから」と破壊の対象になり、新しいゴミをどんどん生産する、それって持続可能性の対極にある生き方です。だから、誇りを持って、「未来都市ってのは、必要も無いのにどんどん新しいモノを作ったりしない都市なんです」と言って欲しい。SDGsのために必要なのは、考え方のシフトであり、それに沿った方向転換だと思います。これまでの資本主義原理が破綻し、持続できない生き方であったことは既に完全に証明されてしまっています。

最後に、久々に写真を入れたのでもう一枚。山形県朝日町にある、「椹平の棚田」(「くぬぎだいら」と読みます)が田植えの最中でした。こういう美しい里の風景を、後世にも残したいですよね。



2021年5月29日土曜日

お米のプラスチック

 米どころ新潟で廃棄されるお米を石油系樹脂と混ぜたバイオプラスチックを使った食器類を製造販売しているメーカーがテレビで紹介されていました。

バイオマスレジンホールディングス (biomass-resin.com)

マイクロプラスチックによる海洋汚染が問題となっていますし、フードロスの問題もあります。お米を使うなんてちょっともったいない感じはしますけど、食べられなくなったなら廃棄するよりこうして利用した方が良いです。バイオマスをエネルギー転化するのは最後の手段で、極力マテリアルとして利用することが望ましいですね。

事業内容を見ると、コメとかコーヒーとかそばとかの食糧だけでなくて、木材、竹などを使ったプラスチックもあるようです。コメのスプーンでコメを食べる、なんてちょっと良い感じですよね。実際テレビで紹介されていたのも、百貨店でちょっと贅沢な品物として販売されている感じでした。モノが悪くても我慢して使うのが脱炭素への取組みではなくて、ちょっと手間とコストがかかっても、脱炭素に向けた製品が、これまでより、この方が良い、と思える付加価値になる、ということですね。脱炭素に貢献するのは、最も進んだ成熟した生き方、皆が目指したくなる生き方、そうなって欲しいです。最後は徹底的に無駄をなくす、というところに行き着くのかも知れませんが、脱炭素へのシフトを誘導するためにも、この「新しい価値」というセンスはとても良いと思いました。

しかし、技術的観点からは、生分解性プラスチックとか長期使用大丈夫?とか思ってしまいます。一方、割りばしが環境に悪いと言って、合成プラスチックの箸に置き換えて、それを毎回温水、洗剤で洗っていたら、それは本当に環境に優しいのか?間伐材に使い道を与え、最後はバイオ燃料になる割りばしはそんなに環境悪?と思ってしまいますよね。日本のそば文化、そばを食べるには割りばしが一番、なんせ滑りません。そばを一番おいしく食べられる。しかも割りばしは生分解性ですよ。昔からやっていることが絶対に環境に悪い、とは限りませんよね。

2021年5月28日金曜日

小型モジュール原子炉にIHIが出資

 本当にこの道が正しいのかな?と私は疑問に思わずにいられませんが、IHIは安全性と機能性が高いと期待される、小型モジュール原子炉SMRの開発を進める、アメリカのベンチャー企業NuScaleに出資することを表明しました。

IHI、米ニュースケール社への出資による小型モジュール原子炉(SMR)事業に参画(NIKKEI)

SMRという技術は、50-70 MW級の小さい原子炉(普通は1 GW級)モジュールを12基ぐらい組み合わせたシステムらしいです。従来の原子炉が現地で建設し、検査等を経て運用される施設であったのに対して、SMRでは原子炉モジュールを工場で組み立て検査し、これを現地でアッセンブリーする、セキスイハイムみたいな建て方をするため、工期が短く低コストなこと、そしてモジュールをON/OFFすることで出力を多段階調整出来ることが特徴のようです。冷却が容易なので安全とも主張しています。以下の資源エネ庁のページにSMRの説明があります。

原子力にいま起こっているイノベーション(前編)~次世代の原子炉はどんな姿?(資源エネ庁)

安定な核分裂反応を維持するためには、原子炉の出力を上下させることは出来ず、基本的には立ち上げると最大出力のまま一定、立ち下げるとゼロになる宿命があり、原発が30%に届こうとしていた過去には夜間電力が余るので、エコキュートの普及を進めて夜間割引を適用した、ということがありました。しかし今では逆のことが起こっていて、太陽光や風力の様に変動しまくる電源があると、それを調節するためにLNGを増やさなくてはならなくなります。LNGだと、30分ぐらいで出力を上下させられるらしく、再エネの発電量見込みを勘案して平準化するための運転調節が可能になります。

ただ、そんなLNG発電を増やすことも出来ません。「再エネを増やしたらGHGがかえって増える!」と主張する人の根拠はこれでした。再エネ導入が進むから、今後SMRの様な調節式原発の事業は伸びる、というのが今回のIHIの決断のようです。でも、原子炉の立上げたち下げって、そんなに急に出来るものでしょうか?再エネ電力の安定的利用には、大規模蓄電と余剰電力の化学燃料への変換貯蔵だと思いますけどね。それらの技術開発こそ重要だと私は思います。

パナソニック、2030年ゼロカーボン

 国内から次々とカーボンニュートラルに向けた決意表明がされています。

パナソニック 二酸化炭素排出量2030年までに実質ゼロに(NHK)

10年足らずでゼロに、というのはかなり挑戦的な目標設定ですが、最近の国際的風潮の中で、意欲的な姿勢を見せることで急速に拡大するESG投資(Environment, Social, Governance)を呼び込みたいという意図がうかがえます。日本が国際的には脱炭素に対して積極的でないと見られている中で、「そんなことはありませんよ!」というアピールのためにひとまず宣言したという感じであって、パナソニックの事業計画としての明確なプランが策定されている感じではありません。

というのも、ゼロカーボン達成の内訳が、

①工場、オフィスで再エネ利用

②省エネ徹底

③排出権取引の利用

であって、自社が本来得意とするはずの電気、エレクトロニクスの技術開発とは無関係な内容です(どの会社でもやれることだけ)。脱炭素に直接的に貢献し得る、太陽光発電や車載用リチウムイオン電池の事業から撤退してしまったパナソニック。是非とも技術開発とその普及において世界の脱炭素に貢献し続けて欲しいですね。

2021年5月27日木曜日

米欧オイルジャイアント、歴史的敗北!

 石油や電力といった国家の根幹に関わる企業が政府の特別な保護下にあるのは、日本に限ったことではないと思っていましたが、もはや脱炭素への勢いはそれを上回るようです。

エクソン株主総会、物言う株主の取締役選出 気候変動対策へ圧力(Reuters)

株式保有が全体の僅か0.02%という新興株主が、エクソンモービルの環境対策が不十分として、自社からの4名の取締役選出を提案し、これにエクソンモービルが同調しない様に工作したものの、株主総会で他の株主からも大筋同意されて、エクソンモービル側が敗北、2名が取締役に就任することになったそうです。

これとは別に、オランダではヨーロッパのオイルジャイアントである、ロイヤル・ダッチ・シェルの二酸化炭素排出削減取組みが不十分であるとして、市民団体が訴訟を起こしていたことに対し、上記エクソンの件と同日の5月26日、ハーグ裁判所の判決は2030年までに二酸化炭素を2019年比で45%削減する命令となったそうです。

大手石油会社に二酸化炭素の排出量削減命じる判決 オランダ(NHK)

日本はエネルギー大手が政府にがっちり守られている状況ですが、こういう事例を見ると、もはやそれも時代遅れになるかも知れません。2050年カーボンニュートラルはもはや日本の法律です。それに背を向ける者は罰せられることさえあり得る、となるんですかね。その理由が利益の追求であるとすれば、罰せられてしかるべきだろうとは思います。法治国家で法に背くのは社会の敵です。ただ、コロナ対策もそうですけど、恐怖で縛り付けるということではなくて、より良い世界を作りたいという思いから自発的に取り組むべきなのが、カーボンニュートラル社会への大転換ですよね。

2021年5月26日水曜日

消火活動だって、脱炭素です!

 東京消防庁が電気モーターで放水する「スマートポンプ車」を全国で初めて配備したそうです。

モーターで放水「スマートポンプ車」全国で初配備 東京消防庁(NHK)

エンジンがかかっていない状態で、1時間放水する能力があるとのことですから、相応に大容量のバッテリーを積んでいるものと思います。ただ、それをどうやって充電するのか?EVの様に外部から給電するのですよね?エンジンで充電だと意味ありませんので。こんなところでも脱炭素。消防車が頻繁に使われるのは望ましくないですけど、火事そのものでなくても、消火活動でもCO2が出るというわけですよね。静かなのもメリットでしょう。

雪国で生活していますと、車やバイク以外にも内燃エンジンを備えた道具を持っています。除雪機です!あと、うちにはエンジン式の高圧洗浄機もあります。近所には芝刈り機を持っている人多いですね(2サイクルエンジンがいまだに主流)。これら、力の要る大変な作業なんですよ。ウチの除雪機は、単気筒400cc空冷OHVキャブレターエンジンで、いまどきバイクだって使わない旧式エンジン。触媒も無いので、排ガスはとても臭いです。しかし、パワフルなんですよねえ、ガソリン。いつの日か電動除雪機を充電している自分が想像できません。高圧洗浄機は、最近コード式電動のケルヒャーに換えましたけどね(調子いいです)。除雪機など、恐らく必要なところにはガソリンエンジンは残ると思いますが、やれる限りの脱炭素化は進んでいくのでしょうね。


50年脱炭素法成立

 今日国会で2050年カーボンニュートラルを明記した、改正地球温暖化対策推進法が成立しました。

「50年脱炭素」法成立 温暖化対策、来年4月施行(中日新聞)

この法律に基づき、自治体が先行してカーボンニュートラル達成を目指す促進区域を設定し、予算措置することが可能になり、ESG投資をその取組みに呼び込みたいということです。法律だけで変われるわけではないですけど、これで2050年カーボンニュートラル実現への努力をしないことは違法になるわけです。さあ、いよいよ始まります!

水素よ!これが巴里の灯だ

 水素燃料電池による電力で、パリのエッフェル塔がライトアップされました。

エッフェル塔 燃料電池の発電設備を利用しライトアップ(NHK)

今年の10月27-28日にHyVolutionという水素エネルギーに関するイベントがあり(行きたい!)、そのPRのようです。

Hyvolution 2021, l'événement hydrogène pour l'énergie, l'industrie et la mobilité (hyvolution-event.com)

その仕掛けは、実はトヨタMIRAIに搭載されている燃料電池システムを使ったもので、100 kWの最大出力とのこと(凄いパワーですね)。「なーんだ、日本の技術じゃん」と言うなかれ。要は、考え方なんですよね。LE PARIS DE L’HYDROGENE(水素のパリ)というメッセージが誇らしげ。ご存知のとおり、フランスは原発大国で、EUの低炭素化に大きく貢献しているわけですが、ずっと原子力と共に生きるつもりではないことは明らかです。フランスにいる私の友人はみんな太陽光発電の人たちで、いつも自分の国が原発大国であることを嘆いていましたが、その研究を支えている資金の多くは原発マフィアのEDFから来ています。フランスの人って、物凄くプログレッシブで、既成概念ぶち壊す挑戦が好きだと思います。確実性よりも、挑戦を選ぶ。航空産業とかTGVなんて良い例ですよね。ルーブル美術館のガラスのピラミッドとか、ポンピドゥーセンターとかも最初は相当物議をかもしたそうですけど、伝統だけを重んじるのではなくて、常に新しいものを融合させていこうとするその精神には見習うべきところが多いと思います。このHyVolution、どんなイベントになるのか分かりませんが、興味津々です。久しぶりに行きたいなあ、パリ。

こういう未来志向って、人々の心も照らしてくれると思いますよ。コロナの閉塞感の中での希望の光はオリンピックだけじゃありません。どうです?こういうのも考えませんか?スカイツリーを燃料電池で、じゃあ二番煎じですけど。

アイガモロボ続報

 昨日お伝えした有機米農業を助ける除草アイガモロボについて続報です。あまり喜んでよく調べなうちにアップしたので、情報が不足していました。このロボットを開発しているのは、日産自動車の技術者の中村哲也さんなんですね(ボランティアで)。1年前に、初代アイガモロボについてそのストーリーを伝えるYouTubeビデオが出ていました。

日産自動車の技術者によるボランティア活動から生まれた「アイガモロボ」始動!(日産自動車TouTubeチャンネル)

このビデオの中でも、昨日のNHKレポートにも登場していた中村さんがそのアイデアを説明しています。初代アイガモロボは太陽電池を背負っていないんですね。田んぼ脇の太陽電池で充電する仕組みだったようです。どうして稲を巻き込まずに泥水をかき上げられるのかについてのスクリューの秘密など説明されています。初代は目が付いて、ちょっと愛嬌ありますが、最新バージョンは太陽電池を備え、より本気の仕様に見えますね。最初は山形県朝日町の棚田が実験場だったようです。

日産自動車として、これを本気でビジネスにするという考えは無いのかも知れませんが、ヤマガタデザインの山中大介社長がこれに目を付け、鶴岡でプロジェクトがさらに発展しているということのようです。既成概念に囚われない人でなければ、ここまで形にすることはなかなか出来ないだろうと思います。

アンモニア燃焼実験byでんじろう先生

 アンモニア火力発電がCO2を出さない脱炭素発電技術として注目されているのは何度も取り上げていますが、実際にアンモニアが燃焼する様子を、あの「でんじろう先生」のYouTubeチャンネルで見ることが出来ます。

アンモニアは燃えるのか!?実験してみた【アンモニア実験】(米村でんじろう公式)

オレンジ色の火炎を出してアンモニアが燃える様子を見ることが出来ます。また、アンモニアはちょっと高圧にするか冷やすと液化することも説明されていますが、実際にアンモニアの液体や固体を作る実験も別のビデオで見ることが出来ます。

純度100%のアンモニアの液体・固体お見せします!!【Ammonia Liquid, Solid and Gas】【実験】(米村でんじろう公式)

一つの窒素原子に三つもの水素原子が結合したアンモニアは、水素の運び手と見なすことも出来ます。簡単に液化して純度100%のアンモニア燃料として貯蔵、輸送出来ることは水素を直接燃料として使う場合に対する大きなアドバンテージですね。そして、燃焼し、酸素と結合して生じるのは窒素と水蒸気で、CO2は発生しません。

それが、アンモニアを燃料としたエネルギーシステムが注目される理由です。しかし、水素に比べたらずっと燃えにくいんですね。水素が爆発する様子を見せる実験もでんじろう先生のチャンネルで色々見ることが出来ますが、アンモニアの燃焼は確かにちょっとトロい感じです。そして、それ以上に問題なのは、どうやってアンモニアを得るかです。現状のように、石炭由来の水素から合成するのでは、その段階でCO2が出てしまいます。ですから、ソーラー電力で水電解して作った水素からアンモニアを作る、という様な技術開発(既に出来るけど、大規模にやるには高すぎる技術)が必要になるわけです。

それにしても、最近はテレビの登場機会が以前より減った感じですが、でんじろう先生は偉いなあと思います。ああやって理科実験を見せられると、長年それをやってきたはずの私みたいな人でもワクワクしちゃいます。私も、爺さんになったらボランティアで理科実験やります!「きけんですから、よいこはまねをしないでください!」

2021年5月25日火曜日

アイガモロボ

 へえー、すごいなあ!鶴岡市のヤマガタデザイン株式会社、本当にアイデアいっぱいで、それを形にしちゃうところが凄いです。

ヤマガタデザイン (yamagata-design.com)

地域ではちょっと有名です。巨大な木造ドームの児童遊戯施設のSORAIとか、水田に浮かんだようなホテル、SUIDEN-Terasse、さらに有機農業にも様々取組んでいて、サステイナブルで豊かな山形庄内地域を創っていこう、という使命感と、常識にとらわれない独自性に本当に敬服致します。山形にも凄いものがまだまだ色々ありますね!

今回発見したのは、農薬や化学肥料を使わない有機米栽培で大問題になる雑草を減らしてくれるロボット、その名も「アイガモロボ」。

田んぼの雑草 成長を抑えるロボット開発 鶴岡市で実演会(NHK)

本物のアイガモの様に雑草を食べてくれるわけではなくて、水田の泥をかき上げて光が届かなくすることで、雑草が生えるのを防ぐそうです。カモの形もしていません。駆動はソーラーパネルの電力だそうで、ゼロエミですね!泥水をかき混ぜたりしたら、余計に藻とか生えそうにも思うのですけど、効果アリ、ということなのでしょう。調べたら、もっと前のレポートもありました。

除草剤を使わずに雑草を抑制 「アイガモロボ」開発本格化(JAcom)

それで、これをやっているのもなんとヤマガタデザインなんですよ。アイデアが凄いし、実行力が凄い。どれ程実際の効果があるのかを疑ってかかることも出来るでしょう。しかし、農業の未来、持続可能性を考えた時に、テクノロジーをどう使えるのか、考えて実際にやってみる。これこそイノベーターの姿ですよね。今はきっとコロナウイルスのせいでSORAIもSUIDEN-Terasseも苦戦していると思いますが、頑張って欲しいですね!目が離せないです、ヤマガタデザイン!

2021年5月24日月曜日

牛、それでも食べますか?

肉牛は生後3年足らずで食肉になるそうですが、それは栄養価の高いトウモロコシなどの穀物飼料を大量に食べるからで(速く育てるのは当然コストダウンのためです)、その穀物(人間も食べれます)を大量に生産するには大量の化学肥料や水が必要になり、それだけでも環境負荷が高いですが、さらにそのゲップに二酸化炭素の25倍の温室効果を発揮するメタンが含まれていることでも有名です。

牛も脱炭素の時代!(NHK)

このレポートにあるとおり、何とその排出量は二酸化炭素換算で世界で年間20億トン、これはGHG全体の4%にもなるそうで、日本の合計3.5%を上回るほどです。さらに、そのフンには一酸化二窒素(N2O)が含まれていて、その温室効果は二酸化炭素の300倍とか…。それだと、牛は温暖化について悪者になっちゃいますね。いや、牛が悪いわけではないんでしょう。家畜は人間に利用されているだけですからね。野生動物の牛の類だけなら、こんな量にはならないはず。でもこれらの数字を見たら、カーボンニュートラル、持続性の実現には見過ごせない問題です。

しかし、それでも食べたい牛肉。私は、牛肉は滅多に食べないですが、乳製品は沢山食べてますね。そしてここ米沢は、何と言っても超高級品の米沢牛の産地、地域が誇る農産物です。美味しいからであり、さらに地域の文化としても、肉牛の飼育をやめるわけにはいきませんよねえ。それで、このレポートに関心しました。ノリの一種を飼料に混ぜるとゲップの中のメタンが減るとか、タンパク質を減らした穀物飼料を与えるとフンの中のN2Oが減るとか…。色々試みられているのですね。全部我慢我慢ではなくて、工夫によって問題を低減しつつ、農業の持続性を確保していくこと、未来の世代も美味しい牛肉食を継続できる様にするために必要ですね。是非YUCaN研究センターもサステイナブル米沢牛(だけじゃなくて、山形牛全般に美味しいですけど)に貢献したいですね!

水素エンジン車耐久レース レース後記者会見

 水素エンジンを搭載したカローラスポーツレース車両によって、富士スピードウェイで開催された24時間耐久レースを完走後、豊田章男社長(レーサーとして参戦したモリゾウ選手)の記者会見が行われました。

24時間、1634kmを走りきった!トヨタ水素エンジン レース&記者会見詳報 by 難波賢二(RIDE NOW)

水素エンジンの開発は、カーボンニュートラルへの選択肢を増やすためであり、長年培われたエンジン開発技術を存続発展させること、関係の製造業を守ることにあると説明しています。実際にコース上に居た時間は半分の12時間程度だったようです。先に「トラブルなく」と書きましたが、実際には細かいトラブルは沢山あったようで・・・。しかし、走れなくなるような深刻な問題は発生せず、完走出来たということは、初めてのレースとしては上々ではないでしょうか。

岡山のオートポリスや三重の鈴鹿サーキットで行われる予定の、スーパー耐久シリーズの残りに再出場することも検討しているようです。レース時間が3時間だったり、水素ステーションに十分なスペースを確保することが困難だったりの問題があって、本当にやるかどうかは決まっていないみたいですが、是非経験を重ねて行ってほしいですね。車両の性能(パワーや航続距離)だけでなく、安全且つ素早い水素チャージの方法などもレース活動を通じて磨かれるはずです。プロレーサーのコメントでは車両が重い、とのことでした。水素自体は軽いですけど、十分な量の水素を安全に積載する方法などについては、まだまだ多くの課題があるものと思います。ですから、レースを開発の場として周辺技術のレベルアップを果たしていくことで、水素自動車が実用的な選択肢となるように、一般車両の開発も進められると思います。同じ水素でも貴金属触媒を必要とする燃料電池車よりも広く普及させるポテンシャルがあるかも知れません。マルチ燃料が可能になればさらにメリットは大きい。もちろん、どうやって水素を得るかがいずれにせよ問題ですが。

おまけです。トヨタ自動車が運営しているトヨタイムズというYouTubeチャンネルに今回の24時間耐久レースのドキュメンタリーが掲載されています。

密着】豊田章男24時間耐久レースの裏側<前編>

【密着】豊田章男24時間耐久レースの裏側<後編>

見たら、モリゾウ選手のファンになっちゃいますよ!学生さんは、こんな会社で仕事をしてみたい!と思うのではないでしょうか。カーボンニュートラルはとても難しいチャレンジですが、我慢することではないですよね。未来に挑戦する生き生きとした表情に心打たれます。

2021年5月23日日曜日

水素エンジン車24時間耐久レース完走!

 いやあ、素晴らしい。新しい時代の幕開けを予感させますね。

水素エンジン車、耐久レース完走(福島民報)

以前も話題にした、水素を燃焼する内燃エンジンを備えたレース車両が、今週末富士スピードウェイ24時間耐久レースに出場し、一周4.5キロのコースを358周して見事完走したそうです!ドライバーの一人はトヨタのマスタードライバーでもある「モリゾウ」選手こと、豊田章男社長!

水素を満充填しても50キロ程しか走行出来ないそうで、何度も何度もピットストップしなくてはならなかったはず(単純計算しても水素補給を30回以上!)。しかし、そこでもトラブルなく走りきれたということですね。ちなみに、用いた水素は福島浪江町の太陽光発電施設の電力によるグリーン水素。もちろん燃料だけで走るわけではないので、一連の活動でGHGは発生しているわけですけど、それにしても、カーボンニュートラルへの新しい選択肢を示すという意味では大変大きなチャレンジ、そして成功だったのではないかと思います。

これについては、恐らく後日談など沢山出てくると思いますので楽しみにしています。面白いものがあれば、またブログで紹介します。ひとまず、おめでとうございました!

2021年5月22日土曜日

外国人と食事してはいけません!?

 まったく、開いた口が塞がらないとはこのことです。グローバル化とかが日本村で叫ばれるようになって久しい2021年に至ってもなお、こんなニュースが出てきてしまうのです。

”外国人と食事しないように”感染予防啓発文書に保健所が記載(NHK)

茨城県の保健所が、地域の農家に対して雇っている外国人と話したり、一緒に食事をしないように、という通知を出していたというのです。それはコロナウイルスに感染する危険があるから。これを見た外部の人から「不適切」と指摘があり、撤回したとのことですが、一旦出てしまったことは、心の底でそう思っているということを既に証明してしまっています。NHKの取材に対しては「外国人を差別する意図は全くありませんでしたが、誤解を招く表現があったとしたら申し訳ありませんでした」と反省の弁があったようですが、本当に「誤解」「間違い」でしょうか?心の中では外国人は皆危険だと思っていませんか?自分の愚かさに気付き、公的機関としてこんな恥ずかしい通知を出してしまったと認めるなら、誰も聞いてくれなくても、誰も許してくれなくても、大反省の記者会見を保健所が開くべきです。

全く怒り心頭です。重労働が多く、高齢化が進む農家にとって、外国人技能実習生は欠かすことの出来ない人材になっていると思いますが、その方々はコロナウイルス感染拡大地域からつい先日来日したのですか?かなり長期間日本で生活している方がほとんどではないですか?今の状況を考えると、例えば直前にインドに滞在していた人は入国禁止するなどは合理的ですが、その場合も入国を禁止するのは「インド人」ではなくて「インドにいた人」です。国籍や見かけによって、「気を付けた方が良い」と思うだけでも明確な人種差別です。感染しやすい人種とか、長期間保菌してしまう人種とかあるのですか?

つい先日、YUCaN研究センター関係の打合せを兼ねて、山形大のJiptner先生(ドイツ人)とKhosla先生(インド人)と一緒に食事をしていました。大の仲良しなので、ずーっと英語で談笑していました(今の時期多少憚られますが、三人です)。隣のテーブルには日本人(と思われる)親子がいましたが、ひょっとしてずっと不快だったでしょうか?感染の危険を感じましたか?これら二人の先生は、一見しただけで日本人っぽくは見えません(そもそも外見とか人種じゃなくて、法的な帰属ですけどね、国籍は)。しかし、お二人ともしばーらく、日本の外には出ていません。出られるわけありません。同じ場所に住み、同じものを食べているこの人達が、出来れば避けた方が良い感染リスクになりますか?私も日本語を一言も話していなかったので、外国人に見られましたかね?私の妻は中国出身です(帰化したので日本人ですが)。家族で外食することもよくありますが、彼女が中国訛りの日本語で注文している時に、隣のテーブルの人が「ゲッ、中国人!」となっているのでしょうか?私は、子供たちにどう説明すれば良いでしょう?「半分中国人でゴメンね、我慢してね」と言うのですか?(もちろん、子供たちも法的には日本人です)

ちょっと読んでも面白くないし、共感を呼ぶわけでも無い感情的な書き方をしましたが、この件については自分ごとでもあるので久々に頭に来ました。あまりにも嘆かわしい。こんな国がSDGsの達成に貢献出来ますか?一致協力してカーボンニュートラルを達成出来ますか?技術課題や行政の制度の問題と片付けて、本質的な問題から逃げないで欲しいと思います。これらを達成するのは人であり、この様な嘆かわしい出来事を深く反省して、自らを変えていく努力が全ての人たちに求められます。

G7気候相会合「石炭火力全面停止」

 オンライン形式で2日間行われたG7の気候・環境相会合で、今年のうちに各国が石炭火力発電への支援を停止することが合意されました。

G7会合 石炭火力発電への政府支援停止へ年末までに具体的措置(NHK)

化石燃料を一次資源としたエネルギーシステムでは、大量のGHG排出は程度の違いがあっても不可避です。改善は可能だったとしても最悪なのが石炭であり、次に石油、天然ガスと、いずれも最終的にはその使用をやめなくてはならないでしょう。仮にCCUS等実現してGHGを出さなくなったとしても、有限な化石燃料に依存することは賢い選択ではありません。そもそもCCUSが可能ならば、何も火力発電で発生したCO2ではなくて、大気中のCO2を減らして欲しいと思います。なので、全ての化石燃料には未来が無いですが、最初に石炭をやめる、2030年までの半減にはG7各国は今年のうちに全面停止を宣言することが必要、というのは極めて妥当だと思います。

で、それにどこまで反発したのかは知りませんが、レポートの最後にある「日本としてはアジアの新興国などに石炭火力発電を輸出する際の支援は妨げられない」というのが傑作です。そんなわけありません。世界は日本に「石炭はもう無理だからやめて」と言っているのです。「最先端の技術に限定して輸出」とか言っていますけど、その真相は以前書いた通り。売り先の無くなった既存技術をお金に換えたいのです。

電事連会長「原発再稼働必要」

 電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)が、2030年の46%GHG削減達成には原発再稼働が不可避なので、その準備を進めなくてはならない、という趣旨の発言をされたそうです。

電事連会長 脱炭素化中間目標実現には「原発再稼働率向上必要」(SankeiBiz)

国民の生活基盤である電力安定供給への責任があり、その重責を果たしている当事者の長であるご苦労は認めた上でなお「それを決めるのはあなたではない」と申し上げたい。そう信じるなら是非黙って準備を進めてください。発言によってそれしか方法が無い様な印象を国民に与え、議論を誘導しようとする余計なことは民主の原則に反しています。影響力の大きさを考えて欲しい。是非長老は黙って、次世代の方々に判断を委ねましょう。

2021年5月21日金曜日

Sustainable Research + Innovation (SRI) 2021 Talk

 山形俊男先生にご案内頂いた、SRI2021のオンライントークを今朝拝聴しました。

SRI 2021 Integrated Action for the SDGs

ライブ配信だったのですが、後日録画が見れる様になるのかも知れません。ご興味のある方はSRIのウェブをチェックしてみてください。アカデミアと国連関係機関、そしてアマゾンと多様なパネリストによるパネルディスカッションでした。

話を聞きながら思ったのが、SDGsや脱炭素についてこういう国際的な議論、問題点や解決策、経験についての情報意見交換は大変重要な一方で、地球規模の問題に対して最も正しく万能な唯一の解決手段を見出すことは不可能だし、それを一生懸命考え続けるのが国際連携の目的ではないな、ということです。地域ごとで、最適な解決策は当然異なります。

今日のパネリストはフィリピンのMariaさんを除いて全てお金持ちの国の人たちでした。SDGs目標で同じ番号とタイトルの下にある課題であっても、それぞれの国の人たちが抱える問題の本質や、解決に対して有効な手段というのは、当然ながら全く違うものになります。例えば食糧問題について言えば、お金持ちの国についてはその供給や安全をどう確保するかは問題ではなくて、食品ロスを減らすことや、環境負荷が極めて大きい牛肉の消費量を減らすことなどの食習慣の変化が持続可能性のために最も大切なアクションになるでしょう。大量生産ではなくて、手間のかかる有機農業にシフトすることも課題です。一方で日々の食糧供給や安全性も十分ではない極貧国では生産の安定と量、コストが優先課題です(フィリピンは極貧国ではないですけど、貧困地域はあります)。

お互いの抱える課題について相互理解を深めることや、互いの経験から学ぶこと、そして積極的な技術的経済的協力のための国際連携は大切ですが、地域ごとの問題解決については地域に任せるしかないと思いました。お金持ちの日本人が極貧国にとって有効な解決策を適切に考案することなど出来ません。Global Commonsという言葉が何度も出てきましたが、知識とか物質とかの共有財産という本来の意味はさておき、何が人類に共通しているかと言ったら、幸せでいたいこと、不安が無く安全安心で持続的な社会に暮らしたいことであり、さらに他者から攻撃されたくないし、他者を攻撃したいとも思っていないということです。紛争が起こるのはそこに利害の対立があるからで、楽しむために他者を攻撃する人はいないと思います。そこに人種や国境を越えたTrustがあるべきで、そのCommon Goalsに向けてそれぞれが異なるアプローチで挑戦を続ける時に、Cooperateしなくてはならないのだと思います。それは利害の対立による紛争を避ける意味でも重要ですし、お互いを思いやる気持ちによる国際的な支援でもあると思います。だから、国際連携は重要だけど、それはお金持ちの国の人たちが考える正しい生き方を世界に広める、という活動ではないということですね。

多様性を互いに認め合い、尊重することと、相互の信頼関係と協力、これが無いとSDGsの達成は絶対に無理だろうと思います。他者の問題には全く無関心で、問題の解決は技術を開発する人や行政に丸投げでは無理だということでもあり、各国のアカデミアの人間はステークホルダーたる国民に対して学んできたことを伝え、脱炭素がなぜそれほど重要なのかを理解してもらい、行動を呼び起こしてそれに寄り添い続けることが大切と思います。やり方は様々であったとしても、たどり着きたいゴールは一緒です。


2021年5月20日木曜日

EVシフトを考える⑥

 EVについてニュースが入ってきました。

中国BYD、一般向けEVは欧州で初発売 テスラの牙城ノルウェーに進出(36Kr Japan)

BYDは中国南部深圳に居を置き、EVタクシーやバスを中心に既にグローバル進出も一部果たしている(日本にも)中国のEVトップメーカーですが、バッテリースワップシステムで注目される上海のNIO、アリババの支援で自動運転に最も力を入れていて中国版テスラという感じの、広州の小鵬汽車(Xpeng)もやはりノルウェー進出を計画しているとのこと。

なぜノルウェーか?それは豊富な水力発電能力ゆえに、EVの普及と使用環境の整備が最も進んでいる地域だからで、僅か500万人の小国に、既に22万6千台のBEVが走っているそうです。その市場を支配しているのは米国のテスラで、今回の中国三大EVメーカーのノルウェー進出はテスラへの挑戦であり、そこを足掛かりに全欧州への進出を企てているとみていいでしょう。

前も少し書きましたが、私は2018年の2019年の2回深圳の北京大学大学院に行く機会がありましたが(また行くと思いますが、今は行けない)、タクシーやバスはほぼ全てがEVになっていて、混雑した中心部でも新興国によくある様な大気汚染が無いのが素晴らしかったです。一体どこで充電しているのか、充電器につながっているEVと走っているEVの比率はどれぐらいなのか、使っている電力はソーラーなどのクリーン電力か、石炭か、原子力か、など色々考えてしまいましたが、とにかく短期間にそれほどまでに変えてしまう中国計画経済の力には脱帽でした(同じ時に訪れた広州や北京は普通にガソリン車がまだ走っていました)。

この三メーカーについては知りませんが、中国製EVの多くが火災事故を起こしている様です。今回のノルウェー進出においては万全の安全対策を施して信頼を獲得することが何より重要でしょうね。そんなこと、私が言うまでもなく経営陣は分かっていると思います。米中の関係がここまで冷え込んでいる中では北米進出は困難でしょうから、その照準は欧州マーケットにあてられているということですね。次は日本かも知れません。まあ、日本の自動車販売台数はあまり多くないですし、充電インフラ整備の遅れが致命的ですが。

2021年5月19日水曜日

マイクロプラスチックと持続可能な農業

 マイクロプラスチックによる海洋汚染の元凶の一つが稲作であるという衝撃の記事がありました。

流出するマイクロプラスチック 稲作で使う○○が海や川に(NHK)

マイクロプラスチックの問題と稲作、まさかそれらが関係しているとは知りませんでした。つくづく、問題の原因を見えにくくする環境問題と人類の活動の関係の複雑さを示す事例と思えました。私の家も家庭菜園をちょっとだけやっているため、化学肥料を使うことがあるのですが、丸い球状の肥料はほとんど水に溶けている様に見えず、気が付いたら無くなっている感じです。それも、ひょっとしたらプラスチック膜で覆われた緩効性被覆肥料かも知れません。

土づくりQ&A|ホクレンの肥料 (hokuren.or.jp)

被覆肥料 | 商品紹介 | エムシー・ファーティコム (mcferticom.jp)

広大な農地に肥料を与えるのは大変な作業で、しかも生育段階に応じて何度も追肥をする必要があります。その労力を削減するために、肥料を(水溶性とはいうものの)プラスチックで覆い、ゆっくり肥料成分を放出、又は時間が経ってから放出を始める、被覆肥料が広く使われていて、何とそのプラスチックの殻が海に大量に流れ着いているというわけです。

その流出を防ぐことの重要性については、山形県のウェブページにも2019年の投稿が掲載されていました。

プラスチックカプセルを利用した肥料の悪影響について(山形県)

おいしいお米を出来るだけ安く作るためには、色々な工夫があって、プラスチックもそれに役立ってきた事実は無視してはならないですが、その問題点に気付き、農業も海洋の健康も、双方についてその持続可能性を担保する手段を模索することは重要ですね。上記NHKのレポート中にありますが、高校生がこの課題に取組み、肥料メーカーと共にプラスチックに頼らない緩効性肥料の開発を進めているとのこと。素晴らしいです。

2021年5月18日火曜日

昨年度GDP-4.6%

 今日、2020年度の日本のGDPが-4.6%の大幅な縮小となったことが報じられました。

昨年度のGDP -4.6% リーマンショック超える最大の下落(NHK)

パンデミックの衝撃で、世界経済が停滞縮小することは不可避とは言え、内訳を見ると日本の状況がより深刻であることが明らかです。コロナウイルス感染拡大直後の第一四半期で大きく落ち込んだ後、二期連続で反動のプラス成長であったものの、1-3月の第四期では再び年率換算-5.1%となり、2020年度全体では実質-4.6%となったものです。EUは日本と同様1-3月期でマイナスとなり、影響からの立ち直りに遅れが出ているものの日本より落ち込みは小さく、中国は微増、アメリカは+6.4%といち早く立ち直りつつある様に見えます。

経済成長とGHG排出の増大はリンクするから、いっそのこと経済成長などしなくても、とはいかないのは当然です。豊かさを失えば、脱炭素への大転換を進める力は失われますし、そもそも持続可能性の基盤となる健康と食糧も脅かされます。GDPが幸福度の指標ではないことは後にも述べますが、省エネのためには経済成長を断念すべきということにはなりません。実際、このコロナ禍の停滞にあっても残念ながらGHGは増え続けています。

コロナ禍でも温室効果ガス濃度増加傾向、国連(MSN)

コロナウイルスの感染拡大によって起こったことは、世界経済の大混乱であり、脱炭素への社会システムの変化と進化を遅らせてしまうことの方が心配です。コロナ後の経済の回復が二極化する「K字型」であることも指摘されています。

「K字型」の景気が鮮明化する世界経済、日本の行方は?(ダイヤモンド)

この大混乱下で逆に上向く産業、いち早く回復基調に乗る産業がある一方で、どんどん下降していく産業もある、だからK字型というわけです。人流がストップする中で成長したのは、リモートの代替サービスや通販事業など、少し遅れて、一時期の停滞の反動もあって、製造業は持ち直し傾向にある様です。一方で、外食や観光、スポーツ、エンターテイメントなどの非製造分野は下降したまま、そのまま消滅の恐れもあり、という窮地に立たされています。ただ、これは現時点でのことであって、ポストコロナの新しい世界において必要とされる産業、サービスは大きく作り変えられることになるのだろうと思います。以前の様に、作り、消費し、捨てるという活動についての製造業はこのまま回復成長を続けるわけではないと思います。また、外食も、観光も、エンタメも、形は変わっても常に人生を豊かにするサービスとして必要とされるでしょう。むしろ、どれだけ早くポストコロナ社会に求められるサービスを形作り、提供できるかが重要で、それを成し遂げた者が次の時代を牽引するのでしょうね。

はっきりしているのは、ひたすらに大きさや豪華さを追求した様な、20世紀型の製造業の在り方は完全に過去のものになるであろうということです。いかに省資源で循環型であり、長く使えるかが大切です。でも、豊かさを失い、ひたすら我慢を強いられる楽しくない世界が待っているということではないと信じますし、若い世代にはそんなことは心配しないで欲しいと思います。相変わらず、人はより幸福な社会と自分自身の成長を目指し、世界の発展を目にしているはずです。脱炭素という大きな挑戦は、むしろ人類の大きな飛躍へのチャンスでしょう。

何をして進化、成長とするのか、20世紀型の成長の仕組みの中で大人になった私は適切な解を持ってはいません。しかし、以下のMichael GreenさんのTEDトークは参考になるかと思います。ブータン国王のGDH (Gross Domestic Happiness)ではないですが、Social Progress Indexという指標は、持続可能で幸福な社会への道しるべになりそうです。ただ、国連SDGsの理念からは、このSPIを各国が競い合うということでもないです。誰一人取り残されないことが、抜本的な社会変革への条件となるでしょうから。

What the Social Progress Index can reveal about your country (TED)

日本語の字幕も出せますから、英語が聞き取れなくても大丈夫です。若い世代の人には是非見て欲しいです。

2021年5月17日月曜日

大手金融石炭火力融資停止

 国内の大手金融グループが、石炭火力発電所への融資を事実上停止することが報じられました。

大手金融グループ 脱炭素で石炭火力発電所向け融資停止へ(NHK)

日本がちっとも石炭火力をやめようとしないどころか、電力不足が深刻化する新興国向けに低排出の最新鋭火力発電を輸出する安倍前首相のトップセールスなどが世界から酷評されていたことは記憶に新しいところです。これは無理もない話で、石炭火力を新造するということは「向こう50年は石炭を燃やし続けますよ」と宣言しているのと同じです。「最新鋭の…」という報じ方も、いかにも日本の優れた技術で世界に貢献するんです、と良いことの様に聞こえますが、既に成熟した手持ちの技術、売り物でありながら、先進諸国はもちろん、国内でさえ売り先が無くなった電力インフラ企業を助けるために、政府自らセールス活動をしていた、というのが見える人には見えてしまいます。なので、激しいバッシングを受けたわけです。

さて、2050年カーボンニュートラル宣言後では、さすがに石炭火力の進化とか口にすることも出来なくなり、ようやく金融グループも資金の引き揚げに動き始めた(引き揚げられる側も了解済み)ということに過ぎない、後手後手対応の話です。というのも、既に何年も前から、あの脱炭素に後ろ向きだったトランプ政権下の米国においても、JPモルガンやシティグループなどは、脱炭素化を進める事業に対する資金の集中、それに後ろ向きなセクターからは資金引き揚げを既に進めていました。「間違いのないように慎重に事を進めています」と言えば聞こえはいいのですけど、実際には自らの決断力やリーダーシップが無く、キョロキョロ様子見をしてからでないと何も動き始められない最近の日本の弱さが浮き彫りになっている様に思えます。

不動産各社 オフィス脱炭素へ

 都心部でオフィスビルや商業施設を運営する大手不動産各社が、それら施設の脱炭素化を進めることが報じられました。

不動産会社 脱炭素の動き広がる オフィスビルなど再生エネに(NHK)

オフィス等のGHG排出量は運輸関係のそれに匹敵する程多いそうで、その脱炭素化に不動産大手が取り組むということです。ビルの共用部分だけでなく、商業施設でのテナント企業も再エネを利用できるようにします。

もちろん、密集した都市部に太陽光発電パネルを敷き詰めたり、風力発電の風車を建てるということではありません。割高であっても、再エネ電力を指定買いすることで、その施設は再エネで運用されている、ということになります。そうした需要が増えれば、結果的に電力供給会社は再エネ比率を高める必要に迫られ、余剰電力の問題が出たら蓄電設備を導入することなども含め、再エネ拡大へとつながるというわけです。電力等エネルギーの消費以外でも事業自体が環境負荷を与えることも多いわけで、それをカーボンプライシングとしてお金に置き換え、実際のコストに上乗せ、利益から差し引きし、環境負荷を低減しようという動きもある様です。これについては以下のNHKのレポートが参考になります。

2050年脱炭素「達成できる」7割以上 企業100社アンケート(NHK)

直接的に太陽光発電を設置するなどをしなくても、施設利用や企業活動の脱炭素化を進めることは可能であり、それをどの程度達成したかを可視化することも出来るということですね。しかし、7割以上が2050年脱炭素可能と答えている、というのは心強いと言っても良いですが、やや言わされてる感があるというか、全体の流れの中で出来ないと言えば生き残れない、居場所が無くなる、という切迫感が企業側にもあるということですね。

2021年5月15日土曜日

電動キックスクーター

 引き続き、コンパクトモビリティーの話です。電動キックスクーターとかキックスケーターと呼ばれる車両が注目を集めています(地面を蹴って推進力を得ることも出来るから”キック”なんですよね、きっと)。

電動キックスケーターの「ノーヘル」走行 公道での実験開始(毎日新聞)

電動キックスクーターで「移動手段」どう変わるか 公道が走れる14万円台「LOM」実際に乗ってみた(東洋経済)

脱炭素という観点からのレポートではありませんが、コロナ禍の影響もあり、都市部での通勤等移動手段としても、混雑する電車やバスではなくて、パーソナルな移動手段として、これらキックスクーター(とここではしておきましょう)が注目されている様です。コンパクト軽量であれば、電車の車内に持ち込んだりすることも可能になり、自転車以上に便利かも知れません。それで、上記レポートにある通り、警察庁もこの新種の乗り物に合わせた法改正を検討している様です。とても遅いものは、従来からある電動車いすの様な乗り物で、これは歩道も走れます。一方ガソリンエンジンのスクーター並みに速度が出る電動車であれば、方向指示器やライト、ミラーなどの保安部品を装着し、ナンバーを付け、ヘルメットをかぶって車道を走ることになります。レポートで紹介されているGlafitのLOMという製品はこれに相当しますね。今回問題はその中間的な乗り物で、自転車程度の速度であれば、歩道走行は禁止だけどヘルメットは義務でなくても良いのではないか、を検討しています。「コロナ禍で他人とヘルメットを共用したくないから」という理由が書かれていますが、女性に限らず若い人が特に気にするのは(若くない人も?)ヘルメットでヘアスタイルが乱れることです。あと、ヘルメットは荷物になりますよね。出来の良いヘルメットだと暑苦しいとかは実はあまり問題になりません。安全性の観点からはヘルメットをした方が良いのは当然ですけど、普及しやすくすることを優先して、まずはノーヘルを認めるのも良いのではないかと思います。

さて、この様な電動キックスクーターが登場したのは、コンパクトでパワフルなLiイオン電池があったればこそです。人を軽々を動かせるだけの力をこんなにコンパクトな乗り物が実現できるわけです。上手に使えば、人の移動にかかるエネルギーの無駄を大幅に削減できる可能性がありますよね。例えば10キロ以内の移動なら、時速100キロ出る乗り物は要らないわけで、ドアtoドアで移動出来る分、きっとこういう電動キックスクーターの方が所要時間は短いです。

自転車の方がもっと健康的、はさておき、大注目は今回取り上げられているGlafit、若い社長が立ち上げた和歌山のベンチャー会社です。

glafit | グラフィット

理屈抜きにカッコイイですよね!上手いなあ。多分必要ないですけど、ディスクブレーキを使っているあたり、上手い!恐らく自転車のパーツを使って安くまとめています。欲しくなっちゃいますけど、おもちゃの様に使い捨てにされたり、物置にしまい込まれたりしたらダメですね。逆に炭素増えちゃいます。こういう乗り物が上手に活用される環境と、生産から廃棄まで、LCAを考慮した乗り物として発展していくことが望まれます。

和歌山は温暖で良いですよね。豪雪の山形ではこんなの使えない・・・4輪駆動の電動キックスクーターとかあればね・・・と思いきや!上記ウェブのFUTUREのところには、3輪や4輪のコンセプトモデルの絵がありますよ!ハブモーターなら多輪駆動も容易なので、雪道も走れるヤツは出来るんじゃないですか?是非米沢で一緒に実証実験しましょう!ここ米沢では、郵便配達や新聞配達の人は雪でグチャグチャになった道路をチェーン付けたカブで走ってます(モトクロスやったら強いですよ、きっと)。雪国の郵便配達向け2輪駆動電気カブなんてどうです?ヤマハは、ずっと以前に二輪駆動のオフロードバイクでレースまでしているんですよね。前輪は油圧駆動ですけど。

【WR450F-2Trac】油圧駆動の2WDオフロードバイク | Backyard Builder

ちなみに・・・私は超アーリーアダプターで、ヤマハが短期間販売していた電気バイク、EC-02というモデルを購入し、使っていました。

ヤマハ(YAMAHA) EC-02の型式・諸元表・詳しいスペック-バイクのことならバイクブロス (bikebros.co.jp)

これ、カッコ良かった!ハンドルやステップが折り畳みで、横倒しで車のトランクにもコンパクトに入るので、おもちゃにしていました。でも、超遅いんです!直進性も低くて、大型トラックに追い越される時に恐ろしかった!しかも当時のLiイオン電池(額面では600 Whぐらいあった様な…)はすぐに無くなり、すぐにオーバーヒートし、当時の自宅から岐阜大までの往復20キロ弱を走り切ることも出来ませんでした(なので、電池は2本持っていた)。最近の電気スクーターは恐らくずっと進化していると思います。ホンダのPCXエレクトリックなんかは、きっと実用上何も問題ないでしょうね。あれは、バッテリースワップの仕組みも導入したい様で、東南アジアで実証実験をやっているみたいです。国内では個人購入出来ないですけど。

PCX ELECTRIC | Honda

モビリティーは脱炭素の時代でもやはり重要。行きたいところにいつでも行ける自由は大切!オートバイファンとしては、これらコンパクトな電動モビリティーに期待するところ大です。

電気スクーターシェアリング、九州大学

 九州大学で最寄り駅と大学キャンパスの間の学生の移動に利用するための電気スクーターシェアリングの実証実験が始まったそうです。

九大~最寄り駅 ”電気スクーター”をシェア 実証実験開始 福岡市(FNNプライム)

私も何度か行ったことありますが、九大の伊都キャンパスは駅から遠く離れているのです。そこで、駅とキャンパスの間の移動手段として、走行時にCO2を出さない電気スクーターをシェアリングするサービスを検討するための実証実験が行われているそうで、上記ニュースでは走行している様子の動画も見られます。現時点では無料で、10台を供している様ですが、もちろん本格的にサービスを開始することになれば、台数も増えるでしょうし、使用に応じて課金、空き状況をスマホ等で確認出来る仕組みなども導入されることでしょう。

もちろん、電気スクーターでもその製造と使用する電気によってもCO2は排出するわけですが、そもそも軽量な二輪車は圧倒的にその排出量が四輪車よりも小さいです。なので、脱炭素に向けたモビリティーとして、二輪車はもっと注目、活用されて良いと思います(私がバイクファンだということを抜きにしても!)。ただ、荷物が運べない、雨の日困る(山形で雪だったらもっと困るというか、使えない)、混合交通の危険性、などバイクならではの問題もあります。一方で、四輪車は駐車に広大なスペースが要りますが、スクーターなら建物の近くにちょっとした駐車スペースを設けるだけで済みます。

良い取組みですね、山形でも何か出来ないでしょうか?「自転車ならもっと健康的だよ」と言う声も聞こえてきそうではありますが。

石油元売り各社、脱炭素へ事業見直し

 脱炭素化の直撃を受ける石油元売り各社が、事業の見直しを進めていることが報じられました。

石油元売り各社 脱炭素社会実現に向け事業の見直し急ぐ(NHK)

ENEOSは石炭事業から撤退、再エネや水素を本格化し、出光興産も水素やアンモニア発電に自ら乗り出すこと、コスモ石油は洋上風力発電に取り組むことなどが報じられていますが、今後各社の具体的取組みが見えてくることでしょう。脱炭素が急速に進められようとしている中で、これらの変化は当然不可避だと思います。しかし、電力だけではなく、社会を支えるエネルギー供給者としてこれら各社の事業は健全であり続けてもらわなくてはなりません。

しかし、思えば産業革命以降今日に至るまでの250年の発展の礎であり続けた石油事業が大転換を迎えるわけですね。人が化石燃料の有用性を見出し、ロックフェラーを大富豪にし、石油化学産業が花開き、15億台の自動車が地球上を走り、2度の世界大戦を支え・・・人類のあらゆる活動が化石燃料によって実現されたと言っても過言ではありません。それを終えようというのですから、つくづくカーボンニュートラル社会の実現とは人類の大転換へのチャレンジだということです。石炭、石油、天然ガスなどが地中にまだあったとしても、それを掘り出して燃やしたりしてはいけない、ということです。それらに頼らず、人類の更なる発展を実現する、ゆえに持続可能となる社会の実現です。

今までの250年が成り行きであったのに対して、それが続けられないことにやっと気づき、これから30年で脱炭素を実現しようというのですから、それは大変です。しかし、出来ないことではないと信じ、学び、努力するしかありませんよね。

2021年5月14日金曜日

2050年発電コスト試算

 2050年カーボンニュートラル達成宣言を受け、エネルギー基本計画の見直しが進められています。YUCaN研究センター準備会のウェブに分科会の資料をリンクし、若干コメントを書きました。特に再エネと原発の比率が異なる複数のシナリオを想定し、2050年時点での発電コスト(円/kWh)をRITEが試算したものです。これは、資源エネルギーに関する審議会に提出されたもので、こういう資料はちゃんとアクセスできる様になっています。

膨大な資料なので、私はちゃんと全部読んだわけではありません(多分読まないです)が、資料1が経産省が準備した、EUと英国の脱炭素戦略の分析と、RITEに委託した日本の発電コスト試算のベースとなる考え方と各技術における課題をまとめたもの。資料2がRITEが提示した(中間報告としての)分析結果です。最も気になるコスト試算の結果は46,47ページの表にまとめられています。資料3は次期エネルギー基本計画の基本的枠組みの案、資料4が計画見直しについて寄せられたパブリックコメントをまとめたものです。

この資料が提出された分科会は2時間です。24名の委員の先生方は、それは著名な方々であり、適任であることには疑いは無いです。しかし、どれ程優秀な先生方であったとしても、これだけの膨大な資料を2時間の会議の中で読み込み、適切な判断を導くための議論を尽くせるとは思えません。もちろん、この分科会1回で決めるということではなくて、何度も会議は招集されるのだとは思います。ただ、資料にはそれを出す側の意図が少なからず入っていて、それによって議論の行方を誘導しようとしていると感じます。一番疑問を感じるのは、資料2が示し、誘導しようとしている結論と、資料4にあらわれる民意の食い違いです。

こうした「いつものやり方」を見て思い起こすのは、例の一件以来日常用語として定着した感のある「忖度」という2文字です。誰かにとって都合の良い結論となる様に、それを意図して資料を作っている感じがします。では一体誰に忖度しているのか?一部の既得権者のためではなくて、実は「国民に忖度している」と思うのです。いや、資料4にあるパブコメと正反対の結論になるじゃないか!?と思うかも知れません。資料4は、ことごとく原発廃止を訴え、再エネの拡大を求めています。しかし、パブコメは「一部の環境ファナティックな人の意見」と見られています。こんなところに意見を送ってきたりはしない(私は送っていません)サイレントマジョリティが求めているのは、結局は安い電力なのだから、それを最も確実に実現できる結論に誘導するように、国民への忖度を資料に込めたのです。「再エネ100%にしたりすれば、電力コストは今の4倍以上になりますよ!こんなの誰も払いたくないですよね!産業ボロボロになっちゃいますよね!」という数字を見せ「原発やむなし」という結論を誘導しようとしています。それが「国民のためである」という忖度の下に。

「お前は何も分かっていない!最も確からしい中立的な推定から導かれた試算結果だ!思想まみれのお前にこれが出来るか!?」とお叱りを受けそうです。もっともです。私には出来ません。RITEの優秀な研究者の方々が、膨大なファクターを分析し、積み上げて導き出した試算なのだと思います。しかしそれでも中立かと言えばそんなことはなく、再エネ100%は無理、原発やむなしの結論ありきで試算が成されています。それぐらい、不確定要素が多いのが実態だからです。2050年までほぼ30年あるわけで、この30年の変化を見通せるわけがありません。

試算は客観事実ではなくて、意図に沿って導かれるものだと断言できるのは、NEDOが過去に策定した2030年までの太陽光発電のロードマップ、PV2030が見事に外れたことを知っているからです。2004年に最初に策定され、2009年にPV2030+として見直しもかけられ、2030年までにどの様にしてグリッドパリティ、7円/kWhを達成するか、というロードマップだったわけですが、たった12年前に見直されたPV2030+のロードマップでさえ、その後実際に起こったことをことごとく外しています。

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7円/kWhは、何の技術革新も要することなく、単なる産業のグローバル化(特に中国の台頭)によって2015年頃には達成されてしまいます。今や、それよりはるかに安価です。その結果として、日本の太陽光発電産業は事実上死滅しました。また、有機系は電力用には見捨てられ、ペロブスカイト太陽電池も学者が論文を書くネタになっているだけで、製品を出しそうなのは中国だけです(多分すぐ壊れます)。タンデム、超高効率など結局は不要。蓄電はちょっとだけならLiイオン、真剣にやるならRFBやNaS、さらには水素やアンモニアへの変換貯蔵へとシフトしていきました。短期間にこれほど様変わりしてしまったのです。なので、このPV2030が振り返られることもありません。私は2013年頃までNEDOの太陽光発電プロジェクトで色素増感型太陽電池の研究をさせてもらいましたが、その時には、常に不動のガイドラインとして存在したのがこのPV2030であり、この目標実現に資することがプロジェクトの研究を受託する研究者の責務だったのです。

このPV2030の根底にあったのは、日本の太陽光発電産業を如何に発展させるか、という意図です。それは産業界への忖度、そしてその受益者たる国民への忖度でしょう。しかしその太陽電池が日本製でなかったとしても、太陽光発電は既に安いという利益を国民が享受することは実現したのです。元に戻って、2050年カーボンニュートラル達成への発電コスト試算に、どこまでの客観性があるでしょうか?グリーン水素やそれによるアンモニアの製造、CCUSの確立が全く成されていない段階で、どれ程の中立性、確からしさがあるでしょうか?再エネ100%では現実的ではないコストになる、と10-17円/kWhという不当に高い太陽光発電コストを用いて結論付けられているのです。仮にそのコストが正しかったとしても、100%再エネが現実的でないかどうかは国民が決めることです。

確かに、カーボンニュートラルは失敗の許されない世界全人類が取り組む大事業です。国民から「電気代が高くなった!」とか「気候変動が収まっていないじゃないか!」という不平不満を聞きたくないから、事故さえ起こらないと楽観すれば、廃棄物の問題は後回しにして原発を積極利用した方が良い、そういう考えに「国民に忖度して」行き着いたのではないですか?

そして、資料4のパブコメを「一部のファナティックな・・・」と片付けないで欲しいとも思います。この試算を始める前に、政治家の皆さんは民意を聞き、その方針に沿って分科会は試算をすべきです。今までのように、試算によって民意を動かそうとしてはいけません。不確定要素が沢山あることは事実なのですから、分からないことは分からないこととして、技術的には再エネ100%も可能であること、但し電力コストは最悪の場合として今の○○倍になる可能性もあり、少なくとも●倍ぐらいにはなると思われる。それを一定程度緩和出来る可能性があるのは原発の積極利用だが、国民の皆さんはどうしたいか?とまず問いかけるべきでしょう。でなければ、最終的に起こる結果についても、国民の一人一人が自分の選択の結果としてそれを受け入れることが出来ないと思います。そもそも、そうした民主の考え方、民意が政治を作るという考え方は、この日本には成熟していないのだ、だから私たちが忖度して、予めケアしてあげるんだよ、という考えが見えてきます。これが再三言っている「国民を赤子扱いする村の長老」の態度だと感じるのです。成功の喜びも、失敗の痛みも、受け入れることになるのは未来の世代、今の若者ですよ。だったら、その人たちにしっかり勉強してもらうと共に、彼女ら、彼らを信用してあげましょうよ。

2021年5月13日木曜日

コカ・コーラ100%再生ペットボトルへ

 日本コカ・コーラは、主力商品であるコカ・コーラのペットボトルを全品回収し、ここからリサイクルしたペットボトルを容器とする製品に今月末から置き換えして、最終的に100%リサイクル品に変えることを発表しました。

100%リサイクル容器 主力炭酸飲料に使用へ 日本コカ・コーラ(NHK)

同社のミネラルウォーターの「い・ろ・は・す」という製品は、ペットボトルの薄型化だけではなくて、既に100%リサイクル品に置き換えられているようです。最大手清涼飲料メーカーとして、やはり持続可能性に対する企業責任が高いということでしょう、同社のウェブにはサステイナビリティに関する詳細なレポートも掲載されています。

coca-cola-sustainability-report-2020.pdf (cocacola.co.jp)

今、プラスチックごみが大問題となっていることは皆さんよくご存知だと思います。最終的に海に流れ着き、どんどん小さな粒になってマイクロメートルサイズ以下のプラスチックが海水中に漂い、これが魚介類に取り込まれ、人の細胞組織にまで入り込んでいる可能性が高いというレポートもありました。生物の多様性、特にSDGsの14番の「海の豊かさを守ろう」は魚のためだけではなくて、人の健康も脅かす大問題であることは認識していなくてはなりません。そして、当然限りある石油資源を使い捨てにするということ自体、持続可能ではないことは明らかです。

元素が失われるわけではないですから、クリーンなエネルギーが無限に得られるのであれば、コストは別としてもリサイクル出来ないものなど無いでしょう。しかし、現実にはコスト的制約と利便性の追求で、リサイクルが優先されてこなかったのがこれまでの歴史です。私が子供の頃は、コカ・コーラは瓶に入っているのが普通で、それは返却し、洗浄して再度製品を入れ、流通していました。だから、瓶の表面は傷だらけでした。重いし(輸送にかかるエネルギーが大きい)割れるガラス瓶に対して、軽量で丈夫なペットボトルは確かにとても便利です。でも、飲料に限らず、食品の包装に使われるプラスチックの多さは、目に余る状況ではあります。食料品の買い物は普段妻に任せることが多いですが、我が家では朝食も夕食も私が作ります。なので、食事を準備する過程で、肉、魚、野菜、乳製品などなど、それを包んでいた包装、プラスチックトレーなどのゴミがいつも大量に発生するのを目の当たりにするわけです。確かに、買い物に行った時は便利。中身が良く見えますし、衛生的で、買い物かごにポイっと入れてバーコードでさっさと会計を済ませられます。子供の頃は、買い物かごを持って買い物に行き、肉屋さんで肉を紙に包んでもらい、いちいち会計し、次は八百屋さんへ、の様なことをしていたのをよく覚えています。

便利さと引き換えにした過大な環境負荷。豊かさを手に入れた国の特権として、プラスチック包装に支えられたクリーンで便利な生活をずっと享受してきました。ただ、それも限界に来ているということであり、いかにして利便性を犠牲にすることなく、持続可能な仕組みに変えていくか、食品包装もその重大な局面にあると言えますね。個人的には、ペットボトルに付いているシュリンクラベルも不要だと思っています。透明なボトルにレーザーマーキングで内容物を表示してはいけないのでしょうか?そうしたら、リサイクルも楽になると思いますけどね。

EVシフトを考える⑤

 自動車の電動化について、トヨタ自動車からプレス発表がありました。

トヨタ、電動車販売30年に800万台計画 うちEVとFCV200万台(朝日新聞Digital)

ここでいう電動車は「電気を使う」ということで、「電気だけで走る」という意味ではありません。なので、現在主力のHVや、さらにPHEV(表記はPHVでも良いです)など、ガソリンを一次エネルギーとしつつも、電気を動力源に使うことで低炭素化した車両も含む、ということです。トヨタ自動車の年間生産台数は1000万~1100万台なので、それでも8割近くをあと9年で電動化するということになります。もっと肝心なのは、全体の2割に迫る車両を純粋な電動車(EVとFCV)に変えようというのですから、これは先日話題にしたホンダの目標にほぼ肩を並べます(EVシフトを考える④)。そして、絶対数ではテスラの年間生産台数50万台の4倍に達するということなので、トヨタのEVやFCVというのは全く珍しくないという状況が、あと9年で生じているというスピード感です。一方で、残りの2割強は内燃エンジン(ガソリン、ディーゼル)による車両を残すということでもあり、内燃機関に引導を渡すわけではないですよ、というトヨタの考え方が見て取れます。水素とか、アンモニアとか、バイオ燃料とかもありなのかも知れません。走りながら考えるというか、成り行きを見てどういう状況にも対応出来るように技術開発は進めて行こうという合理的な戦略かと思います。全方位的にやろうとするのは、日本的なコンサバティブネスであると批判する向きがあるのも理解は出来ます。しかし、先日のホンダの全面電動化への意志表明の方が夢があって、カッコイイかと言ったら、むしろ可能性の芽を潰す選択と私は感じました。人の営みである研究開発には多様性が大切。この指とまれで一つの究極(と信じたがっているだけ)に賭けるというのは人々の能力を信じ、多様性を尊重した考え方とは思えません。ERESTAGE LABでも指摘されていましたが、恐らくホンダのエンジン技術者はトヨタやマツダに逃げるでしょうね。

ドイツ、脱炭素5年前倒し

 連日のように、驚くべきニュースが飛び込んできます。

独、45年に温室効果ガス実質ゼロに 違憲判断で前倒し(YAHOO)

2050年でも達成が困難と思われるカーボンニュートラルを、ドイツは5年前倒しして、2045年に達成するというのです。違憲判断とはどういうことか?と思ったのですが、政府が定めた気候保護法について、2031年以降の削減措置が不十分であると連邦憲法裁判所が一部違憲の判断をしたために、行程の見直しを進めていたようです。それで、2030年までに1990年比で55%削減の従来目標を65%削減に引き上げ、40年までに88%削減をメルケル政権の閣僚が公表したとのことです。これには、先日もブログに書いた9月の連邦議会選挙に向けて気候変動対策に最も前向きなベーアボック氏率いる緑の党が躍進している(ドイツ連邦議会選挙)ことも影響しているようで、現政権CDU, CSUも気候変動に積極的であることをアピールする政治的思惑もあるようです。ただ、これら全ては明らかに民意が政治を動かしている良い例であり、ドイツの人たちが自分の国が気候変動に対して極めて積極的であることを求めているからこそ起こる変化なのだと思います。

ちなみに、ヨーロッパのほとんどの国は「1990年比で○○%削減」という目標の示し方なのに対して、日本は2013年比です。なぜか?2013年が一番GHG排出が多かったので、そこを基準にした方が大きな削減の数字になるからです。


2021年5月12日水曜日

持続可能な農林水産業

 もう一つ、農業における脱炭素への動きが報じられました。

持続可能な農林水産業実現へ 有機農業拡大などの新戦略 農水省(NHK)

農業の持続的発展については、農水省のウェブに詳しい説明もあります。

第3章 農業の持続的発展に向けて:農林水産省 (maff.go.jp)

化学肥料や農薬を使わない有機農業を2050年までに全国の農地の25%にまで拡大し、農薬使用を50%、化学肥料を30%それぞれ削減するとしています。また、農業機械や漁船の電動化技術も2040年までに確立するとのことです。電動化はともかく、有機農業って健康的ではあるものの、それがどうして持続可能性に関係するの?と思われるかも知れません。しかし、農薬や肥料の合成にはアンモニアが欠かせず、それは石炭を原料としてCO2をバンバン出しながら大量に合成されているのです。元々は、第一次世界大戦でのドイツ帝国の勝利のために、天才化学者フリッツ・ハーバーが生み出した、空気からアンモニアを合成するハーバー・ボッシュ法(そのアンモニアは硝酸になり、爆薬になる)で、人殺しのために編み出した化学が、図らずも緑の革命を起こし、食糧大増産を実現して、多くの人命を救いました。しかし、こういうわけなので、光合成で食糧(バイオ燃料)を作り出す農業も、実は大量の化石燃料消費に支えられています。なので、確かに有機農業は脱炭素に向けた変化になり得るのです。

ただ心配なのは、気候変動によって病害虫による農業被害が深刻化しないだろうか、とも思います。そうすると、食糧を守るためには農薬の使用が必要・・・となってしまいそう。つくづく、全てが相関していますよね。だから研究センターとして皆が対話し、知恵を絞ることが大切だと思います。


ソーラーシェアリング水田

 今日のNHK山形のニュースで驚きました。酒田市で、何と水田に太陽光発電を併設する「ソーラーシェアリング」が試みられています。

コメ栽培と発電する「ソーラーシェアリング水田」で田植え(NHK)

今日田植えが行われたということで、上記NHKニュースではその様子を動画で見ることが出来ます。地表から高さ3.4メートルの位置に、びっしりとではなく、隙間を空けて太陽光発電パネルが設置されていて、隙間を抜ける太陽光で稲を育てるという仕掛けです。実は、酒田ではなかったですけど、別の場所(確か福島)でこういうのを目撃しました。驚いたのですけど、写真を撮らなかった!まあ、比較的土地が余っている山形県において、そうまでして太陽光発電と稲作を同じ場所でやる必要があるのか?と思わなくもないですが、土地利用の条件が厳しい地域では、コメの収入と電気の収入を両方得られる賢い方法かも知れません。あと、冬はどうするんですかね?雪が来たら、地盤の弱さで支柱が倒れそうです。冬に撤去するとなると、余計に費用がかかってしまいそうな心配はあります。

実は、有機太陽電池の研究ではこんなことも真面目に議論していたことがあります。色素で発電効率が良いものは、赤いものが多いのですが、有機太陽電池は上手にやれば透明に出来ますので、赤いセロハン紙の様な透明なフィルム状の太陽電池を作ることも出来ます。例えばそれを農業用ハウスの屋根に使うとすると、太陽電池は太陽光のうちの緑色の光だけを使うので(植物は緑色の光を使わない、だから緑色に見える)、ハウスの中の植物は無色透明のシートで覆われたハウスと同様に育つのではないか?だとしたら、光合成+太陽光発電で太陽光を最大限に利用できる、そんな話をしていました。実際に試作してテストするところまでは行かなかったですけど、このセンターでやりますかね?

あと、このソーラーシェアリング水田に取組んでいるのは、酒田にある株式会社グリーンサービスという会社のようで、水田以外にも色々な農業との組合せの施工例がありましたす。

会社概要 | グリーンサービスへようこそ GREEN SERVICE Homepage (solabun.jpn.com)

また、この取組みは「やまがた自然エネルギーネットワーク」というNPOの講演会でも取り上げられていて、その代表は、YUCaN研究センター準備会メンバーの東北芸工大、三浦秀一先生でした!

農地で電気もつくるソーラーシェアリング<酒田> | やまがた自然エネルギーネットワーク (yamaene.net)

トリチウム汚染水海洋投棄

 福島第一原発の事故によって発生した大量の放射性物質を含む汚染水をどうするかが大変な問題となっていることは皆さんご存知の通りです。政府は海洋投棄する方針を決定しました。一般の人にとって、普段放射性物質についての知識を得たり、それについて考える必要は本来ないのですが、あまりにも情報が適切に開示されていないことに加え、事故を起こした東電側や国にとって都合の良い話だけを押し付ける傾向があり、特に直接的な被害を受けることが確実な漁業関係者とまともな対話をしていないことに大変な憤りを感じます。中でも一番おかしいと思ったのは、「基準以下に薄めてから海洋投棄するから大丈夫」の様な説明があることです。海に投棄した時点で無限希釈に近いぐらい希釈されるわけで、予め希釈することで一体何が変わるというのでしょうか?放射性物質の絶対量は全く変わりません。そんなこと、中学生でも分かる話です。

問題になるのは放射線の絶対量であり、福島で投棄するのは780兆ベクレルで、それを希釈しながら30年かけて投棄するという説明がされています。しかし、壊れた原子炉内を冷却するための注水により、毎日新たな汚染水が400トン程生じています。また、地下水の汚染もこれに加わります。もうすぐ一杯になってしまう汚染水貯蔵タンクを空けるために海洋投棄を始めたいというのが本当の理由であり、30年の予定が、実際にはいつ終わるのかも分かりません。

放射性物質の全容や特にトリチウムに関する実態について、私は専門家ではないので無責任に色々書かない方が良いですが、以下の経済産業省の資料は明らかに海洋投棄を合理化するために作られた資料と読み取れます。

008_02_02.pdf (meti.go.jp)

汚染水は様々な放射性物質を含んでいますが、これを浄化するALPS処理が行われています。しかし、水(HTO)として存在するトリチウムは除去することが出来ません。ALPS処理については、経産省資源エネ庁のウェブに説明があります。

安全・安心を第一に取組む、福島の”汚染水”対策⑦ ALPS処理水に関する専門家からの提言(資源エネ庁)

実際には、ALPS処理によって放射性の重元素の全てが完全に除去されているわけではなくて、かなり残留しているという噂もありますが、正確な数値は公表していないと思います。原発のオペレーションをするだけで、冷却水中に微量含まれる重水からトリチウムは必ず発生することになり、それを海洋投棄するのは普通にやっていることだから、という説明をしていますが、今回問題になっているのはトリチウムだけではないと考えた方が良いでしょう。また、トリチウムによる健康被害は大したことが無いかの様な中部電力の資料があります。

トリチウムについて (chuden.co.jp)

しかし、一方ではトリチウム投棄量と小児がん等の明瞭な因果関係が古くから報告されていることや、HTOでなくて、有機トリチウムになるととても危険であることなど、トリチウムによる健康被害に警鐘を鳴らす上澤千尋さんのレポートもあります。

科学5月独立P_上澤.indd (cnic.jp)

そもそも、原発と共に生きるという選択をした時点で、人為的な放射性物質の発生が不可避であり、ある程度の環境中への放出も避けがたいと考えるべきでしょう。温室効果ガスを出さないのは確かに原子力の大きなメリットですが、一方ではさらに恐ろしい放射性廃棄物を生じることに対して目をつぶることは出来ません。事故前から福島第一原発で発生したトリチウムは海洋投棄されていたそうです。しかし、どの程度までなら許容可能かなどの線引きを延々議論することは無駄だと思いますし、よそもやっているのだから今回のケースだけを問題にするべきではないという言い逃れも不適切だと思います。明らかに、今回のケースは余計な汚染を生じることになるのです。程度の問題ではありません。

科学技術的観点からは、それでも「大丈夫だ」「いや、許容できない」などの議論を続けることは出来ると思いますが、実際の問題はそこではないです。漁業関係者には確実に被害が出ますし、その漁業関係の方と同じ社会を共有する我々も確実に被害を受けます。「原発やる時点で汚染が起こることは了解済み。それでも安い電気が欲しいんだから、汚染された魚でも喜んで食べますよ!」と誰か言っていますか?都合の悪い事実を隠して、都合の良い部分だけの説明で誤魔化していないと言えるでしょうか?

風評被害は確実に出ます。「人々の誤解を解くために丁寧な説明をしていきます」「それでも生じる被害については補償します」などと言っていますが、まず、無用な汚染を受けた魚を食べたくないと思うのは「誤解」ではありません。日本人は、直接の利害関係があるので口をつぐむケースが多いですが、これについては中国や韓国の反応の方が人の反応としては素直です(国家として反発するのはちょっと問題ですけど)。そして、お金で補償してもらうことを漁業関係者は求めているのではない、ということです。自分自身が漁業関係者だったらどう思うでしょうか?働かなくても、魚が売れなくても、お金がもらえるから良い、と思うでしょうか?額に汗して一生懸命良い魚を獲り、「うちの魚は最高だよ!」と誇りを持って仕事を続けたいと思うのではないですか?マイナス分を補填するという考え方ではないです。むしろ、原発事故の酷い経験を乗り越えて、福島、宮城、茨城の漁業を見事に復活させ、より良い漁業をし、社会にそれを届けること、「東北の魚は一番だ!」と言ってもらえる漁業を取り戻すこと、これが関係者の胸の内にあるのは明らかだと思います。なので、金で解決しますから、の様な話を真正面から持ち出すのは、漁業関係者を侮辱しているとさえ思います。

だから、一旦原発でこういう事故が起こると、本当に取り返しのつかない大変なことになるのだということを決して皆忘れてはならないと思います。そのうえで、やはりカーボンニュートラルのためにはその痛みも許容せねばならない、と民意が動くのであればそれも選択肢でしょう。私は、一刻も早く原発を選択肢から外し、これから使える炭素予算を全て原発を前提としないカーボンニュートラルの実現に向けた技術開発に投じるべきだと思います。EUは先行して炭素予算を脱炭素につぎ込んできたから、今こんなにも差が開いてしまったのです。これは明らかに政治の失態だと思います。


2021年5月11日火曜日

EVシフトを考える④

 またまたEVの話題ですが、今回はホンダについて。

40年にガソリン車ゼロ目標 ホンダ、日本メーカー初(Kyodo News)

このニュースには、とことん驚きました。そして個人的にはとても悲しい。前々回の②の話でもあったように、自工会としては拙速なEVシフトに対しては慎重という反応でした。ところが、ホンダは2040年にはガソリン車を完全にやめるというトヨタとは対照的な目標を打ち立てたのです。これにはHVやPHEVは含まれず、EVやFCV(燃料電池車)のみにするというのです。さらにその比率を2030年時点で国内20%(グローバルでは40%)、2035年で80%、そして2040年時点ではガソリンを使う自動車は全く売らない、というわけですから物凄い計画です。現時点でホンダが売っているEVはHonda-eの一車種のみ(しかもバカ高い)、FCVは極めて特殊なクラリティのみ、ですからあと9年で40%がEVやFCVに変わっているというのは想像を超える変化です。日本でのホンダの4輪車販売の半分以上は軽自動車ですが、2024年には軽のEVを市場投入させる予定とのこと。利ザヤの小さいガソリン軽から高級軽EVに変わることで利益率を上げたい思惑があるのでしょうが、それは補助金頼みですね。一番肝心なバッテリーは内製する計画の様ですが、果たしてうまく行くかどうか。

先日このブログでも取り上げましたが、FCVで先行するトヨタは、実は水素エンジンも手掛けています。と思えば、既に先日の上海モーターショーではSUV型のBEVも公開し、しっかりとEVも手掛けています。リスク分散の挙句総倒れという可能性が無いわけではなくて、変化を先読みし、大きく舵を切ることも大切なのかも知れません。ホンダの戦略が吉と出るか凶と出るか、不安だけでなくて、一応期待もしておきましょう。

個人的に何故悲しいかと言えば、それはホンダの歴史に対する敬意と、ホンダエンジンに対する愛情ゆえです。実は自分自身で過去に所有したホンダの4輪車は、ビートとCR-Vの二車種だけですが、オートバイは数知れず。今も所有する4台のうちの3台はホンダです。私にとっては、ホンダはオートバイのメーカーであって、その信頼性の高さと性能は間違いなく世界トップクラスだと思います。今回の電動化宣言は、エンジンの開発をやめます、という宣言と同義になります。なので、これから登場するホンダのガソリン車には期待しない方が良いでしょう。私も今のバイクを壊れるまで乗り続けます。あ、ちなみに最新の統計によると、オートバイを購入する人の平均年齢が何と54.7歳なんだそうです。サザエさんのお父さんの波平さんの設定が54歳だそうで、「波平さんと同じ」と報道されていました。私、波平さんより年上です!私の世代だと、16歳になったらバイクの免許を取るのが当たり前でした(私は忌まわしき3ナイ運動のために18歳でした)。結局バイクに乗る世代がそのまま歳をとったわけです。今や全く未来の無い産業製品になってしまったわけですね。

さて、そんなノスタルジーを語りたかったわけではなくて、やはり危惧するのは選択肢としての内燃機関を捨て去ることはあまり賢明とは思えないのです。トヨタの水素エンジン以上に内燃機関にこだわるメーカーと言えば、マツダでしょう。詳しくは書いても面白くないので書きませんが、自着火方式のSkyactive-Xを商品化した執念には敬意を表します。自分ではやっぱり買わないですけど、内燃機関のそうした技術をさらに磨いていけば、将来、水素やアンモニア等のCO2フリー燃料(と炭化水素の両方)を使える自動車も登場するかも知れません。「究極はコレ!」の様なやり方が最良とは思えないのです。

しかし、今回のホンダの決断をした三部社長は、エンジンの技術者だったそうです。ずいぶん思い切った決断です。あれほどの素晴らしいエンジンを生み出した技術者上がりの社長がどの様に考えて今回の決断に至ったのか、大変興味のあるところです。国際的競争の中で、それが生き残りの道という勝算があるのでしょうか。一連の情報については、私がいつも参考にさせて頂いているERESTAGE LABにもレポートがあります。このYouTubeチャンネルは凄いですよ。また別の機会に紹介しますが、よくぞここまで頑張って情報提供をしてくれていると思います。感謝!

【2040年】ホンダが新車の完全電動化を発表しました(ERESTAGE LAB)



パナソニック国内テレビ生産撤退

 パナソニックが栃木工場での有機ELテレビの生産を3月末に終了し、国内でのテレビ製造から既に撤退していたことが報じられました。

パナソニック テレビの国内生産から撤退 海外での生産に集約へ(NHK)

カーボンニュートラルとどう関係するのか?と思われるかも知れません。一時期は結構電気を沢山使う家電製品でしたが、最近では消費電力は大したことは無いです。とは言え、テレビの生産終了は、グローバルな産業構造の変化と日本の状況を考える上では重要です。特に学生の方にはこれから自分がやるべきことを考える上で知っていなければならない事実でしょう。

1952年に白黒テレビの生産が始まって以来、実に70年近くの歴史に幕が下りたことになります。この間、お茶の間の中心となる家電製品の最重要地位を得て、テレビの大型化や高価格化なども経て電機メーカーの稼ぎ頭、エース中のエースになった時期があります。その頃は、大学や大学院で学んだ人材の中でも、最も優秀で期待されるエースがそうした黒物家電の開発に配属され、それに学生も憧れる時期がありました。

当のパナソニックは、テレビ事業で大きく成功したとは言い難いかと思います。2000年頃の薄型テレビ競争の中でプラズマに賭けて敗れ、早々と海外生産の液晶パネル供給を受けることになります。有機ELテレビを国内生産していたこと自体知りませんでしたが、それも撤退となったわけです。無理もないでしょう。中国ハイセンスの50インチ4K有機ELテレビが10万円程度で買えてしまう世の中です。日本のメーカーにとってその事業を続ける意味などありません。そもそもテレビという製品の価値自体が相対的に大きく低下し、作っては消費されるコモディティー化したということです。私などは、テレビ隆盛期に子供だった「テレビっ子(死語)」ですから、リビングにテレビが無いなど想像できなかったりするわけですが、今やテレビを持たない家庭も増えてきている様です。

思い返すと、白黒だったテレビがカラーになり、大きさがどんどん大きくなり、家庭用ビデオテープレコーダーが登場するぐらいまでの変化のスピードに対し、2000年代に入ってからのテレビ薄型大画面高精細化、プラズマ対液晶の戦い、そして有機ELの登場と衰退という後半の変化のスピードがえらく速い感じがします。それは、例えば自動車産業など、他の産業分野についても言えるのでしょうね。そのスピード感の中で常に先頭に立ってこその研究者人生と思う人もあるでしょうが、私には能力の無駄遣いとしか思えません。こんな戦いに巻き込まれ、消耗し消費されていく人材は哀れです。全員とは言いませんが、より多くの優秀な若者にカーボンニュートラルを志向する研究開発にその人生を賭して取り組んで欲しいと思います。目先の利益を大切にしなければ、その次を語ることも出来ないわけですが、お金に換算することが出来ない価値である一方、その解決がまだ全く見通せないカーボンニュートラルは、今大学で学ぶ世代にとって人生の全てを賭けて取り組むに値することだと思います。どちらにしても、カーボンニュートラル達成に失敗したら、その次は無いのですから。

2021年5月10日月曜日

三菱重工CO2フリー発電

 火力発電事業を行っていた三菱パワーが三菱重工に統合され、カーボンニュートラルに向けた体制強化をすることが発表されました。

三菱パワーを三菱重工に統合 カーボンニュートラル社会実現に向けて体制強化(Asahi)

プレスリリースには、詳しい計画などは書かれていませんが、アンモニアや水素を燃料とするCO2フリーの火力発電に本腰を入れて取り組む、ということの様です。2025年までにはこれらを燃料としたガスタービン発電の商用化を目指すことや、工場から排出されるCO2を回収する事業も推進するとしています(NHK)。

CO2が出ないというのは、アンモニアや水素による発電の大きなメリットですが、その燃料をどうやって得るのかがやはり重大問題です。当然化石燃料由来ではダメです。一次エネルギーが太陽光や風力のグリーン水素やそれを使ったアンモニアなら良いですけどね。しかし、カーボンニュートラルに向けての動きが様々にアナウンスされるのは良いことです。頑張って欲しい。


EVシフトを考える③

 EVのハナシが立て続けで、退屈でしょうか?どっちにしても誰も読んでくれないので、良いですね!誰のためでもなく、このブログは一番自分のために役に立っているのです。色々な情報を整理して、カーボンニュートラルに対する自らの知識を深めることと、文章を書く力を磨くこと。改善のためには行動を起こすことが大切であって、正しいことであればそれは継続しなくてはなりません。

さて、本当は次はホンダの2040年全EV化のハナシをしたかったのですが、今朝入ってきたニュースに驚いたので、その話題。

電子自動車用充電スタンド 住宅以外に設置数が初めて減少(NHK)

昨年度、公共施設等に設置されている電気自動車用の充電スタンドの数が初めて減少に転じたそうです。それまでの約3万台の3%以上となる1087台が撤去されてしまったようです。理由は施設の老朽化(と言っても恐らく10年も使っていないものが多い)と、利用が少ないから、だそうです。政府がEV化をどんどん押し進めると宣言しているのに対して、実際に起こっていることは既に逆行しています。

充電スタンドの設置には、恐らく多くの補助金が投入されたことと思います。その設置費用は決して小さくないはずです。それが十分に活用されないまま撤去されるとは何事でしょうか?EVの購入にも多くの補助があり、「お得ですよ!」を刺激することで実際には高価なEVの購入を後押ししています。でも、現状で車種が少ないこともあるとはいえ、実際の販売台数に対するEV比率は1%にもなりません。EVが増えないから充電スタンドも減らす、ではさらにEVが売れなくなります。

そもそもEVが売れないのは、やはりその利便性の悪さであると思います。例えば山形ですと、充電スタンドの数はまだまだ少ないと感じますし、1か所あたり充電器が1台しかないのが問題です。それは大抵空いていますが、時につながっているEVを見かけます。ガソリンでも走れるPHEVがつながっていることもあります。ユーザーサイドからすれば、充電スタンドはむしろ余っているぐらいで丁度いいはずです。「電気がなくなる!」と駆け込んだ充電スタンドに先客が居たらどうしましょう?ガソリンスタンドなら、3分も待っていれば自分の順番が来ます。ところがEVの充電では30分も、1時間も待つことになるのです。そんなに待っていられないから、と次の充電スタンドを探すにしても、電気は大丈夫でしょうか?私ならとてもストレスを感じてしまいます。いや、ちゃんとネットワークで充電スタンドの空き状況を確認出来るから大丈夫?実際はそうでもないようで、自分が到着する少し前に別の人が入ってしまうこともある様です。充電スタンド目指して競争しなくちゃならないですね。

実際にEVと生活を共にしていないので、本当の苦労とか良さとかは分かっていないと思います。しかし、経験しなくても、EVの充電が大変なことであることは、容易に想像できます。当初せいぜい20-30 kWh程度だったBEV(バッテリー式EVの意)用のバッテリーは、航続距離の伸長に対する顧客の要望を受けてどんどん大型化が進み、今や100 kWhを越えるものも登場しています(重量は恐らく500キロ以上)。これがどの程度凄いのか、ピンと来ない方も多いと思います。100 kW、すなわち10万ワットを1時間使う電力量という意味です。一般的な住宅では、普段定常的に使う電力は2 kWにもならず、オール電化住宅のピーク時でもせいぜい8 kWです。「航続距離が長いんだから、夜間自宅で充電してから出かければ大丈夫」と思うかも知れません。しかし、一晩待っても半分も充電出来ないことは明らかです。しかも、夜間ならその電力はソーラーではありませんよ。

ここから先は、最近登場が相次ぐモンスター級EVが不合理極まりないという話に続きますが、それは別の機会に譲ります。さしあたり明らかなのは、EVを便利に使うことは全てのユーザーにとって簡単なわけではなくて、ハードルを下げる努力を続けない限りその普及は進まないということです。補助金もらえるからと騙されてはいけません。なので、今回の充電スタンド減少のニュースはちょっと心配になります。充電スタンドは余っていなくてはならないインフラですから、政府はそれを民間任せにしないでサポートし続けなくてはならないでしょうね。

2021年5月9日日曜日

EVシフトを考える②

 EVシフトについての2回目です。前回紹介したEV推進の嘘、御覧頂いたでしょうか?長いので見るの大変だと思いますが、EVを取り巻く世間の理解に色々な誤解があることが分かるのではないかと思います。賛同する声ばかりではなくて、「変化を拒むとは何事か!」と批判する意見もあるようで、番組内で「EVがダメとは言っていない、EVだけにするというのがダメなのだ」という反論もされています。全くその通りだと思います。恐らくは自らEVユーザーとなり、「これぞ未来」とEVに心酔されている方などは、EVの良い面だけを見、一方で化石燃料を使う自動車の負の部分だけを批判したいのだと思いますが、ファナティックになってしまったら、カーボンニュートラルへの道を自ら閉ざすことになってしまうと思います。「あっちをやめて、こっちにする」という様な単純な変化で解決するわけはありません。自ら選択肢を狭める必要などないわけで、それぞれの場面で最適な手段を選びつつ、脱炭素に向けたトランジッションを確実に進めていくことが大切と思います。

私自身EVを所有したことはありません(電気バイクなら以前所有、使用していました)が、最新のEVを運転したことはあります。滑らかで力強い加速や静粛性の高さなど、多くの点でガソリン車を上回る良さはありますが、山形の様な地域では充電インフラが不十分な不都合もあり、デメリットがメリットを上回る印象です。また、EVは決してゼロエミではなく、製造時に多量のCO2を排出するだけでなく、当然電力もカーボンフリーではありません。そこでよく言われるのがライフサイクルアセスメント(LCA)による環境負荷を考えるべき、ということです。製造、使用から廃棄に至るまでのトータルで評価するということです。そうすると、現状ではHVに軍配が上がる様です。PHEVもダメです。動力源とエネルギー貯蔵容器を2セット積んでいるのは、明らかに非効率です。

それでも、使用の現場でCO2が出ないEVは、あたかもゼロエミッションであると誤解させる魅力を持っています。実際、以前訪れた中国の深圳ではタクシーやバスが全部EVで、混雑した都市でも排気ガスの臭いがしないのは明らかにメリットと感じました。自動運転も含めた自動車の電化に対する期待値が先行し、それを推進することで政治のリーダーも環境対策を短時間に分かりやすく説明出来るため、先述の大EVキャンペーン的な発表となったわけです。これに早速反発する様にして、トヨタ自動車社長、自動車工業会会長の豊田章男さんの怒りの会見がありました。

自工会豊田会長が全面EV移行に懸念 小泉環境大臣「脱炭素への考えは同じ」(テレ東BIZ)

現状、原発の多くが止まっている日本の電源構成では、自動車の生産に伴うCO2排出が多くなり、例えば同じクルマを原発比率の高いフランスで生産した方が良いことになってしまうこと、日本の路上にある450万台をEV化すると、原発を10基新造しなくてはならなくなること、などが語られています。拙速なEVシフトを進めれば、550万人の雇用を生み出し、GDPの10%以上を稼ぎ出している日本の自動車産業を破壊しかねないことになります。自動車業界として、決して2050年カーボンニュートラルに後ろ向きなのではないことは最初に豊田氏も語っています。政府には日本のエネルギー政策をどうするのか、それと一体でEV化についても国民と業界に対して責任ある道筋を示して欲しい、そういうことだと思います。もっともです。

さらに危惧されるのは、多くの人が日本のお家芸だと信じているLiイオン電池産業が、既に中国、韓国メーカーに奪われているという実態です。自動車用電池は、既にICT機器用の生産規模を上回っています。その生産からパナソニックが撤退し、韓国のLG、サムスン、さらにそれを中国のCATLとBYDが上回るというのが構図で、EV生産が伸びて一番喜ぶのは中国です。ディーゼルの失敗で一旦はEVシフトを大規模に進めるかの様だったEUは、EU内に電池メーカーが無いことに気付き、最近ではe-Fuelを真面目に語り始めています(相当先の技術です)。CATLは既にドイツに車載用電池の工場を持っていて、産業のグローバル化という点では、出自がどの国であろうと関係ない、とも言えるかも知れません。BYDの電気バスは既に日本の路上も走っていて、トヨタ自動車が出資しています。しかし、色々な場面で国際的なルールを無視する中国(例えば中国国内で販売するEVは中国製のバッテリーを積まなくてはならないというとんでもないルールを課している)をどこまで信用していいのか、という不安は残ります。

EVシフトの問題はまだまだ続きますが、今回はここまで。


2021年5月8日土曜日

その水素、なに色?

 新しくYUCaN研究センターに合流頂いた、名古屋大学の義家亮先生とのメールのやり取りで、水素が色分けされているということを知りました(知っている人には当然のこと?)。

再エネ推進派でも意外と知らない「クレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」の違い(エコノミスト)

水素にはもちろん色は付いていないですけど、どの様に製造された水素かで色分けをしているのです。この色分けは国際的にも通用しているみたいですね。grey hydrogen, blue hydrogen, green hydrogenでそれぞれの意味は同じです。

グリーンは何となく分かると思いますけど、再エネ、例えば太陽光発電の電力で水を電気分解して得られる水素で、CO2の排出はゼロ(太陽電池の製造におけるCO2排出はカウントしないとして)です。一方のグレーは化石燃料由来の水素で製造にCO2の排出が伴います。これはアンモニア合成など、工業原料としての水素の製造で大規模に行われていて、有名なのは石炭の水性ガス反応です。

C + H2O ➝ H2 + CO

CO + H2O ➝ H2 + CO2

この水素を極低温で液化したり、超高圧にしたりして貯蔵輸送することも出来なくないですが、エネルギー的にもインフラ的にも大変です。通常はすぐにハーバー・ボッシュ法でアンモニアに転化されます。

N2 + 3H2 ➝ 2NH3

アンモニアなら、ちょっと加圧するか温度を下げれば液化して、容易に貯蔵運搬出来ます(液化アンモニア、と書かれたタンクローリーをよく路上で見かけます)。なのでアンモニアを水素の運び屋、水素キャリアと見立てて、これを電気化学的に酸化するアンモニア燃料電池や、天然ガスと混ぜて燃焼したり、直接アンモニアだけ燃焼したりするアンモニア火力発電が検討されているわけです。アンモニアだけの燃焼ならば、CO2は出てきません。

4NH3 + 3O2 ➝ 2N2 + 6H2O

なのでゼロエミッション発電と見なされるわけですが、当然グレー水素であればその製造段階でCO2が出てしまっています。

で、話を最後にしたブルー水素とは、化石燃料由来の水素製造で出てくるCO2を環境中に放出せず、貯蔵したり再利用することで、それならば化石燃料を使ってもCO2は出ないことになるから、ブルー、というわけです。

CO2を地中深くや深海に埋めて環境に出てこない様にする技術をcarbon dioxide capture and storage (CCS)、それを再利用する技術をcarbon dioxide capture and utilization (CCU)と言いますが、CCSに対しては私は懐疑的です。埋めたまま出てこない様にすることなど出来るのでしょうか?石炭石油天然ガスを大量に地下から掘り出していますから、空いた隙間に埋めておくということですが、自然は必ず循環する仕組みがあるので、どうしたって出てきそうに思います。永久凍土につかまっていたメタンガスだって、温暖化のせいで出てきてしまっています。「その後が怖い」ということですね。一方CCUであれば良いんですけど、どうUtilizeするのかが問題です。結局CO2って燃えカスですから、外部からエネルギーを投入しない限り有用な含炭素化合物には戻りません。水素と反応させてメタンに戻す、などは当然ナンセンスで、その水素どこから持ってきた?となります。もしそれが石炭由来なら、CO2は増えるばかりです。太陽光のエネルギーでCO2を還元し、有機燃料に戻す、人工光合成ならば太陽光エネルギーでCO2を再燃料化するので良いですが、それはまだまだ実用を語れるレベルにはありません。

水素については、私はまだその知識が浅いので間違った理解もあるかも知れません。しかし、使用末端でゼロエミという点で水素は優れていて、水素をキャリアとしたエネルギーインフラというのはやはり挑戦を続けるべき課題だろうとは思います。CO2は垂れ流してはいけないので、貯蔵まで考えるわけですけど、水素の燃えカスである水は環境中にいくらでもありますからね。貯蔵する必要が無いわけです。今回はまず、水素の色分けの話でした。

2021年5月7日金曜日

ドイツ連邦議会選挙

 長らくドイツの首相を務め、EUの顔でもあったメルケル氏が、今年9月にドイツ連邦議会の総選挙が行われるタイミングで政界を引退することを受けて、次期首相候補をめぐる動きが注目されます。現在レースのトップに躍り出たのが、緑の党の共同党首で、何と40歳で二児の母のアンナレーナ・ベーアボック氏(Annalena Baerbock)です。

ドイツ総選挙、緑の党の計算(NIKKEI)

最新の世論調査では、ベーアボック氏が首相として最も適任という回答が30%を超え、緑の党の支持率もキリスト教民主同盟(CDU)とバイエルンのキリスト教社会同盟(CSU)連立を大きく上回り、激戦の末に統一首相候補となったCDUの次期党首ハベック氏(メルケル氏の後継)に大きく差を付けているようです。

外から見る限り、それでもとても良くやっていると思うメルケル首相ですが、コロナ対応のマズさなどからCDUの支持率が急落した背景があるようです。同時に、脱炭素に向けた社会の機運がかの地では高まっていて、それを最重要課題として推進することを公言している緑の党、ベーアボック氏に対する支持が集まっている様です。

社会の大変革を支持する民意の高まりと、それを率いる若き女性リーダー、凄いですね。CDUやCSUは大連立も模索している様です(政治が停滞する?)。最終的にどうなるか分かりませんが、大きな変化に期待したいところです。

2021年5月6日木曜日

西岡秀三先生

 YUCaN研究センターのアドバイザーを頂いている、JAMSTECの山形俊男先生から、国立環境研究所地球環境戦略研究機関参与の西岡秀三先生の記事をご紹介頂きました。生々しい切迫感の伝わる話だったので、このブログからもリンクさせて頂きます。

脱炭素社会はなぜ必要か、どう創るか(地球環境研究センターニュース)

私の幼稚な理解や、稚拙な文章が恥ずかしくなってしまいます。西岡先生は2013年IPCCの第5次評価報告の取りまとめにも関わられたそうで、科学的見地から地球規模気候変動の実態を知る先生です。以前の「低炭素」と今日語られる「脱炭素」は違うこと、残された時間と気温上昇を2℃以下に抑制する上でまだ許される炭素排出量(炭素予算)は極めて限られていて、問題を先送りする程目標の達成が困難になることが具体的且つ危機感を持って説明されています。「やるやらない」とか「どこまでならば実現可能か」などの議論は不毛であると断罪されていて、脱炭素は絶対に達成しなくてはならないこと、それ無くして人類は存亡出来ないとされています。

「もう予測(forecast)の時代は終わった」と言われているとも思いました。ゼロエミを今世紀後半の早期に実現しないとどうなるかは分かっているのだから、その着地点からbackcastして、行動計画を立てるべきであり、僅か30年程の間にこの人類史上初の大転換を実行し、経験することは孫子に誇れることだ、とさえおっしゃっています。自分の考えがまだまだ甘く、生ぬるいのかと思いました。

今までとは全く違う生活様式や社会の在り方が求められていて、その構成員全員が大きな意識変革を迫られるとも述べられています。脱炭素が必要となる科学的根拠や、必要とされる対応策の理由に辛抱強く耳を傾け、共に考えることが出来る人ばかりならば、全世界が一致協力してこの大事業を成し遂げられるのかも知れません。しかしそれはかなり実現可能性が低いことと思われてなりません。だからこそ、我々大学の教育者には、サイエンスとテクノロジーの世界を一般の人々に分かりやすく伝える伝道師としての役割があり、社会の変化を誘導し、実行に付き添うパートナーとしての役割があるのだと思いました。

最後にもう一つ「魔法の技術イノベーションはあまりあてにしない」というのもグサッときました。私が学生だった30年前には夢物語に過ぎなかった人工光合成は、今日では具体的な技術として語ることが出来るレベルにまで進歩しましたが、かと言って2030年の46%削減に少しでも貢献出来る様に社会実装を進める段階かと言えば、まだ全然それは見えていません。残された時間が僅かな状況において、大学の研究者が誇らしげに語る「未来の技術」にどれ程の意味があるのか、発言に責任を感じてしまいます。少なくとも、退職まであと10年少々となった私にとっては、獲得した研究費や論文の数やインパクトファクターを自慢することは全く無意味となりました。この残された時間のうちに出来る最良の事を考え、そのために精一杯努力したいと思います。

2021年5月5日水曜日

EVシフトを考える①


2030年代半ばには、ガソリン車が禁止になる!?

ガソリン車禁止宣言で揺れる自動車業界、日本が「拙速な転換は不要」と言えるワケ(ビジネス+IT)

2020年の終わりごろから、この様なニュースが飛び交ったことを覚えている方も多いのではないかと思います。「EU、北米、そして中国も急速に電気自動車(EV)化を進めているのに、日本はまだハイブリッド(HV)を売るガラパゴスだ。7月にはEV専業のTeslaの株価総額がトヨタを抜いて世界一の自動車メーカーになった。これに遅れをとらず、日本もすぐEVにシフトすべきだ!」の様な話が飛び出し、小泉環境相を含めた閣僚から2035年ガソリン車禁止の考えが提示されました(正式には決まっていないと思います)。さらに追い打ちをかける様に、小池都知事は「東京は前倒しして2030年にはガソリン車の販売を禁止」と言い始める始末。理念や明確なプランがあって打ち出されたものではなくて、自身のリーダーシップのアピール、政治的駆け引きのネタに使われていたのが見え見えです(コロナ対策でも同じことやっていますよね?)。注意深い方であれば、全部EVにすると言っているのではなくて、プラグインハイブリッド(PHEV)やさらにはHVも認めていて、ガソリンやディーゼル燃料だけで走るクルマを禁止すべき、と言っているだけであることに安心したかと思います。ガソリンスタンドが無くなるわけではありません。それでも、自動車関連の仕事で生活している人に限らず、これから先どうなるのか、とても気になることでしょう。カーボンニュートラル社会実現に向けて避けては通れない重要な課題ですが、同時に日本にとっては産業の根幹に関わる問題でもあり、理想的シナリオだけを考えた甘さは許されない重大問題です。あまりにも重大で、様々な事柄と関わりますから、とても一度には書ききれません。なので、何回かに分けてこのEVシフトの問題を考えたいと思います。

自動車などの移動機械だけがGHG排出の元凶ではないですが、日本人の平均でも一人当たり総排出量の20-30%は自動車の使用、利用によるものであり、さらに産業としての自動車等の生産や廃棄においても多量のGHGが排出されます。また、日本のGDPの約10%を自動車産業が稼ぎ出し、550万人の雇用を自動車関連産業が生み出していることからも、カーボンニュートラル社会の実現に向けて自動車産業を考えることは極めて重要です。

その使用に大きなエネルギー消費が伴い、多量のCO2を排出するために環境悪扱いされて肩身の狭い思いをする自動車ですが、自動車に限らず、航空機、船舶等も含め、モビリティーは人間の根源的な欲求であり、その功の部分にも目を向けて、功罪における功を最大化し、罪をいかに減らしていくかが議論の基本にあるべきと思います。決して、今日から自動車は使いません、全て自転車です、で問題解決ということではないんです。

最近はそう公言すること自体が憚られるのですが、何を隠そう私自身自動車が大好きです(オートバイはもっと好き)。テクノロジーを志すことを決意した高校生の頃から、バイクはその象徴であり、自分を強く惹き付ける工業製品でした。それらが与えてくれる愉しさと世界の広がりを知った後では、モビリティーを捨て去ることはとても出来ません。自分自身を「移動バカ」だと感じます。その乗り物が速かろうと遅かろうと、快適だろうと、不快だろうと、とにかく移動している時間が楽しいのです。もちろん、自分自身で運転したいです。自分でしなくてはならないことが多い分、快適で楽になり過ぎてしまった自動車以上にやっぱりオートバイが好きです。

こんな人物なので「お前にカーボンニュートラルを語る資格は無い!」とお叱りを受けるかも知れません。しかし、その価値を知らなければ、どうしてこれほど世界中で必要とされる産業へと成長したのかも説明出来ません。自動車好きでなかったとしても、その恩恵を受けていない人はいません。その功と大切さをわきに追いやって、罪を滅ぼすことだけを考えたら当然歪んだ考えに行き着いてしまいます。また、自動車産業とそれを支えるテクノロジー、さらにはグローバルな産業構造を理解していることも大切です。「全部EVにしたら問題は解決」というのはもちろん間違っています。「EVはゼロエミッション」というのも誤りです。

私の限られた知識やあいまいな数値を元に話を進める前に、ご関心のある方には是非以下のYouTubeビデオをご覧になることをおススメします。

EV推進の嘘(未来ネット)

加藤康子さん、池田直渡さん、岡崎五郎さんによる座談会で、何と既に第7回まで連載されています(まだ続くみたいです)。各回40分程度なので、全部見るのには時間がかかりますけど、毎回大変参考になります。やや「日本の国益」というところに偏っている感じもしますが(カーボンニュートラルはそれぞれの国益を超えた重大さを持つに至っているから)、とても冷静な分析がされていると思います。私は95%ぐらい賛同出来ます。特に岡崎五郎さんは、私が一番好きなモータージャーナリストで、自動車愛に溢れる一方で押し付けがましいところが全く無く、共感を呼ぶその語り口は、是非見習いたいと思う方です。YUCaN研究センターが正式に設立されたら、是非ゲストとしてセミナーでご講演頂くことを交渉したいと思っています。

ひとまず、1回目はここまでにします。本件についてご興味のある方は、上記ビデオをどうぞご覧ください。それで大体視界が開かれると思います。

2021年5月4日火曜日

持続可能性を有限な人生の中で追求するということ

 コロナウイルス感染症の第4波が襲来し、各地で特別警戒が発せられた2021年のゴールデンウイークは、様々なイベント等も中止されて、普段通りの生活を維持することの大切さを改めて実感させています。自然豊かで人も少ない山形は幸いです。ショッピング等もせず、普段行ったことのない場所、観光地でも何でもない、誰もいない田舎に行き、子供たちと野山を散策しています。野生動物に遭ったり、新緑や自然の草花の思わぬ美しさに出会ったりして、多様性に富んだ世界にいることの幸いを噛みしめています。子供たちにも、この野山で遊んだことを記憶したまま大人になって、それを守り、残していく人になって欲しいと思います。

人生は有限であって、有限であるからこそ光り輝くのだと思います。だからと言って、その有限な人生の中で可能な限り色々な経験をし、色々な物を手に入れ消費し、人より多くの楽しいことをすることが、より良い人生を生きるということではないと思います。エネルギー、資源、食糧、社会システムなどの持続可能性が有限な人生を生きる人にとってなぜそれほど大切と思えるのか。自分の人生が終わる時に、丁度資源を使い尽くせば自分自身はその恩恵を最大に受けることが出来て、その後訪れるであろう苦難は経験せずに済む?死んでしまえば痛みも感じない?それはもちろん違います。人間は過去を学び、記憶することも出来れば、未来を予想してそこに思いを馳せることも出来るのです。つまり、過去も未来も今を生きる自分の中に存在しています。だから、当然自分が地球の恵みを使い尽くして、未来の世代からそれを奪うことは、今を生きる自分にとっての苦しみであって、それを傍観し、許すことが出来ないわけです。

そんなこと、ここに書くまでもない、当たり前のことですよね?しかし、今を生きることに必死になっている状態であれば、自分が経験することの無い未来に対して備えることに一生懸命になることは、やはりそう簡単ではないだろうと思います。持続可能であることの価値が、物質的な消費を拡大することの価値を明確に上回るということに世界中の人々が気づいたなら、持続可能性のために努力することは我慢でも何でもなくなり、より良い生き方を追求する自分自身の成長のための価値ある努力になるはずです。

私自身は、日本の高度経済成長期に生まれ育ち、テクノロジーに憧れ、新たな物質的価値を創造することの重要さを次の世代にも伝える職業に就いたことで、この価値観の大転換に対してかなり遅れた生き方をしてきたと思います。未だに変われていないことも多くあると思います。しかし全部間違っていたというのも極論過ぎで、生活の質を大きく向上させる数々の素晴らしいテクノロジーが存在し、それを提供し消費する循環が経済的成長をもたらしてきたことも事実です。経済成長はそれ自体が目的化してはいけないでしょうけど、お金が無ければ病院も建たず、病気になっても誰にも助けてもらえません。お金が循環しなければ、安全で健康的な食糧を安定的に手に入れることも出来ません。様々なことを学び、経済的成長と共に便利さや豊かさをもたらすテクノロジーを生み出すことは、人としての成長に反するものではないでしょう。

今必要なのは、やはり価値観のシフトだと思います。過去の全否定、破壊から新しい生き方を創造するということではありません。より大きく、より速く、より豪華に、の様な20世紀型の古臭い価値観には別れを告げ、もっと発展的な生き方としての持続可能性の追求に、我々の英知を結集し努力する必要があります。その進化を遂げられなければ、人類は恐竜の様に絶滅することになってしまいます。

2021年5月2日日曜日

Ursula von der Leyen

 欧州の2050年のカーボンニュートラル目標について、第13代欧州委員会(European Comission)委員長のUrsula von der Leyenさんのスピーチを見ました。是非ご覧になってみてください。

Europe's plan to become the first carbon-neutral continent | Ursula von der Leyen (TED)

von der Leyenさんは、よくニュースで出てきますから、見たことある方も多いかと思います。経済学を学んだ後に医学に転向し、医学研究に従事していた時期もある方なんですね。それで、政界入りしてドイツのメルケル政権で閣僚を務めた後に2019年から現職です。
EUのリーダーとして、約4億5千万人のEU加盟国民へ、そして世界へとなんとも力強いメッセージでしょう。力強い眼差しには、同時にEUと地球の未来に向けた愛情も感じられます。言葉の一つ一つに力があり、心を打たれるメッセージだと思いました。具体的な数値目標が繰り返されたり、技術課題について言及するわけではないですけど、科学に目が向けられ、それが政策の根拠であることが明確に伝えられている様にも思います。
打って変わって、日本の首相官邸からもカーボンニュートラル2050に向けた日本のゼロカーボンシティについて、短いビデオが英語版で出されています。
趣旨はちょっと違うのかも知れませんが、発信元は首相官邸です。これはちょっと無いんじゃないでしょうか?2050年カーボンニュートラルを宣言した自治体の取組みを数例示したビデオですが、出演する日本人は長野県知事だけです。ナレーションは恐らくネイティブの方が綺麗な英語で話しています。途中で良く分からないMunozさんという(スペインの人?)が出てきます。菅総理も、小泉環境相も登場しません。綺麗にまとめることが重要なわけではないです。たどたどしい英語でも良いから、ご自身で語って欲しかった。このビデオを見て、日本のリーダーからのカーボンニュートラルにかける思いを受け止める人は一人も居ないと思います。
このゼロカーボンシティの構想も、あまりにも今までとやり方が同じと感じられます。
カーボンニュートラルの実現に向けては、EUがそうであるように、日本国政府が明確に目標と根拠を提示し、協力を呼びかけ、これを主導する責任があります。全国で一様に展開するのは難しいから(地域の特性を活かすという点では正しい)、カーボンニュートラルを宣言する自治体から積極的に変化を起こして欲しい(成功例を全国展開する)、ということでしょう。そして、例によってそこには補助金が来ます(たぶん)。お金が無いとやりたくても出来ないというのは確かにそうかも知れませんが、色々な場面で補助金が別の目的に使われてきた歴史を我々は知っているではないですか(とにかくお金が欲しい地方自治体も多いでしょう)。お金を出すから、あとはなんとかしてください、という責任放棄の様に聞こえます。例えば原発再稼働にしても、こっそりやるのではなくて、国民を巻き込んだ議論が必要です(科学的根拠に基づくメリットとデメリットを隠さず両方示して)。首相や関係の大臣には是非von der Leyenさんの様に、国民をガン見して熱いメッセージを送ってもらいたいと思います。それから、是非サイエンスとテクノロジーをちゃんと勉強してください。根拠の無い言葉は人を動かしません。
カーボンニュートラルを実現するのはテクノロジーではなくて、人だと思います。人が動かなければ、変化は起こりません。金の問題だけでもありません。もっと強いリーダーシップと、国民への愛情、そして謙虚に言葉に耳を傾ける姿勢を期待します。2030年46%について報じる小泉環境省の記者会見が、ひたすら先輩政治家の皆さんへのねぎらいと感謝の言葉になっていたのにもガッカリしました。もっと国民に向けて語って欲しい!
ちなみに、ゼロカーボンシティ宣言都市には山形市、鶴岡市、米沢市も含まれております。

水素エンジン

 クリーンなエネルギーキャリアとして、水素が注目されています。まずは石炭、石油、ガスなどの有機燃料の燃焼から、再エネによる発電と社会システムのオール電化、そして究極的にはカーボンニュートラルな化学燃料に戻る、というのが理想でしょう。なぜ化学燃料が優れているかと言えば、これは圧倒的なエネルギー密度の高さ(小さいけど力持ち)と貯蔵が容易であるという点です。エネルギー密度の高さという点では水素はとても良いですが、貯蔵は簡単ではありません。もう一つの水素の大きなメリットは、使用の場でゼロエミッション(水蒸気しか出ない)ことでしょう。すなわち、排気ガスの処理が事実上不要になります(NOxは多少問題?)。但し、どの様に水素を作るかがやはり課題で、工業的に大規模に行われている石炭の水性ガス反応ではCO2が出てしまいますから、カーボンニュートラルになりません。太陽光発電の電力で海水を電気分解する、などが必要になります。

さて、水素の話をしたら長くなるので、本題の水素エンジンに移ります。水素で走る燃料電池車としてトヨタは既にMIRAIの第二世代を一般向けに販売しています。水素をいつでも買える環境にある方なら購入を検討するに値します(高いですけど、補助金も沢山付きます)。燃料電池は、水素を電極上で燃焼して発電し、電気モーターを動かしますから、MIRAIは実質電気自動車です。これに対して、水素を従来のエンジンの様にシリンダー内で爆発燃焼させる水素エンジンも開発されています。歴史は結構古くて、BMWやMAZDAが試作車を出していたのは私もよく覚えています。今回、トヨタが燃料電池とは別に水素エンジンも開発を進めていて、それを積んだカローラスポーツでいきなり耐久レースに出るそうです。エンジンは、同社のGR YARISに搭載されているモノをベースとしているそうです。詳しくは、実際の走行動画も出てきますので、以下のYouTubeビデオ(モータージャーナリストの島下泰久さんと難波賢二さんが運営しているRIDE NOWというチャンネル)を是非見て下さい。

密着取材!トヨタ水素エンジンレーシングカー初テスト(RIDE NOW)

必ずしもエコの観点からの興味で話しているわけではないので、やれ内燃機関の振動とか音が・・・と新しい世代には古臭く思えるコメントもあるかも知れません(私は・・・とても共感します!)。驚く程普通に見えるところが(若干遅いか?)逆に凄いと思いました。従来のガソリン用に作られたエンジンで、燃焼を制御するだけで水素が使えてしまうわけです。プロパンガスで走るタクシーは昔からありますが、あれと同じで、マルチ燃料の自動車というのも作れてしまうかも知れません。当然水素(しかも、人工的に作った純水素で不純物無し)なら水しか排気しませんが、例えば液化アンモニアを燃焼して水と窒素を排気する内燃エンジンも将来可能かも知れません。

作りやすさ(一次エネルギーを再エネにすることを条件に)と貯蔵、運搬のしやすさ、そして将来のコストを考えた時、水素に限らず様々なエネルギーキャリアを検討できるだろうと思います。そして、それをパワーに変換する手段は燃料電池とは限らず、この様にただ空気で燃やしてしまうという選択もあるでしょう。トータルとしてカーボンニュートラルであることが大切ですし、例えば既存の自動車の燃焼制御をガソリンからメタノールに変更するぐらいならば、その自動車をまだまだ使い続けられることになり、LCA的なエミッションを低減できる大きな可能性があります。簡単に買い替えるわけにはいかない飛行機については、バイオ産生の低炭素燃料が既に検討されています。既にあるインフラを使い続けるというのもカーボンニュートラルに向けた重要な考え方で、必ずしも新しいモノに置換するのが最良なわけではありません。

もう一つ、内燃機関を存続させられる可能性として、水素だと2ストロークエンジンも有望?というコメントが大変気になりました。元々クリーンな水素ですから、多少燃え残りがあっても環境汚染しないことに加え、とても発火しやすいので、2ストロークとの相性が良いようです。古くからのバイクファンなら知っていると思いますが、2ストエンジンはとてもコンパクトでハイパワーなので、クリーンであるならば復活させるに値する技術だろうと思います。

未来のエネルギーの主役はまだ確定したわけではないと思いますし、「これが究極!」と一つに絞ることは可能性を潰すことになります。物質も技術も多様な選択肢の中から探し続けるべきでしょう。それぞれに、問題点はあるでしょうが、良さもあると思います。今回、水素を燃やすエンジンを通じて改めてそう思いました。まだまだ多様な可能性があり、とてもワクワクします。トヨタ頑張っていますね。

125

 「125」この数字が意味するのは何でしょう?はい、私はオートバイが大好きで、特に手に余らず、使い切れるパワーで軽量な125ccクラスのバイクが好きです。高速道路は乗れないけど、バイクで高速道路走っても、ちっとも面白くないし、二人乗りだって出来るし、燃費良くて維持費安いし。今ウチ...